第21話 急変する場面
「は? クビ?」
翌日、俺とルルが屋敷に行くと、大柄な門番に止められる。
「ああ。特にカケルとかいうやつは通すなと言われている。なんでも、仕事をサボっていたとか……」
「ちょっと待ってくれよ! そのことならナタリアさんにちゃんと許してもらった!」
「それでも、奥様が認めないんだよ。悪いが、帰ってくれ」
それは仕方がないことなのだろう。だが、あまりにも突然すぎる。
「せめて! エルの友人として入ることはできるだろ!」
「無理だ」
「頼む!」
「……無理だって言ってるだろ」
どうやったって通してくれる気は無さそうだ。
俺とルルは来た道を戻るしかなかった。
「なんでこんな急に……」
「どうしてでしょうね」
隣のルルも表情が険しくなっていた。
あの母親に何かあるのだろうか? はたして、何かあったとして、それがエルの事情にどう結びついてくるのだろうか。
ふと、後ろから誰かが来ているのに気づく。
「……クロト」
「突然大変でしたね」
屋敷にいる時とは違い、学校の制服を着ていた。
「……学校は午前中で終わりだったんです」
「……エルは?」
「まだ学校で勉強をしていますね……」
そいつの考えていることを理解すると、俺は覚悟を決める。
「ルル……先に帰っていてくれないか?」
「えっ……でも……」
「大丈夫だ。あとは任せてほしい」
そう言うと、ルルはこちらを真剣な表情で見つめる。
「……エルさんをお願いします」
「ああ」
ルルは道を歩き、やがて見えなくなっていった。
「さて……じゃあ聞いてもいいか?」
「……エル様を……助けていただけるんですね?」
「ああ」
俺とクロトは互いに向かい合う。
「……エル様は……奥様と仲が良くないんです。親と子の関係だというのに……」
「…………」
それは昨日の様子から容易にわかっていた。
「あの奥様自身もエル様に興味が無いように思われるんです。仕事の都合で週末にしか帰ってこないというのもありますが、やはりあの人はエル様を避けているように思われます」
「避けている……だって……」
初め、エルの部屋にある本を見つけた。
それは……。
「クロト……お前って、エルが小説を読むところを見たことはあるか?」
「それはもちろんありますよ。でも、読んでいたのは全部堅苦しそうな物ばかりでしたね。そういう文学が好きなのでしょうか……」
その部屋にあった小説は、そんな物ではなく……。
純粋に異世界からやってきた勇者についてのお話だった。
詳しく語ると、その勇者を呼び出した魔法使いの少女は、純粋にその勇者と結ばれ、幸せに暮らしていた。
それらの本の勇者は皆、美貌を兼ね備えていた。
……ウィルは、幼馴染だったらたいていのことはわかると言っていた。だが、例外として、本人が最近変わったことや隠していることはわからないと言っていた。
それらに当てはまる物が今回の鍵になってくる。
そう考え最初は、エルはナタリアさんのようになりたいと思ったのだと勘違いをしていた。だが、それだとあそこまで勉強を頑張る理由が薄い。
違っていたのだ。相手がイケメンだとかは関係無かったのだ。ただ、形にとらわれているだけだったのだ。
大事なのはあいつ自身がどう思われたかったかってことだ。
「クロト……ありがとうな」
「え?」
俺は地面を蹴り、走り出す。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
教会に戻ると、そこにはレイラさんがいた。
「あ。カケルさん。今、お昼ごはんを作ったところですよ」
「ありがとう! レイラさん!」
俺はそこにあった黒い塊を口に含む。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
「は!」
「あなた、なんか最近、ここの常連になってるよね」
俺はあの死んだ時に行く場所に来た。そして、タナカに話しかける。
「頼みがある」
「なに?」
「記憶を戻してほしい」
「さすがに次は死んじゃうよ?」
「いや……できれば、全部じゃなくていいんだ」
そう……あの時の記憶さえあれば……。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
「……うう」
目が覚めると、そこは教会の上にある寝室だった。
「…………」
俺はすべてを理解した。だが……。
「…………やっぱきちいな……この記憶は……」
思い出しただけでも嫌になる。だからこそだ。
「俺は行かなくちゃいけねえんだ。それを次に繋げるために……」
俺はその部屋の扉を勢いよく開け、飛び出す。階段を飛び降り、教会を出ていく。
外はすっかり暗くなっていた。
カケルはエルのいる屋敷に向かった。
# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #
「……げほっげほっ……」
エルは机に座り、勉強をする。だが、長時間の勉強により、手が震えていた。
ドシュっ!
机に手を叩きつける。無理やりにでも手を動かしていた。
「私は……絶対に……勝つ」
どうしても、エルは勉強をやめなかった。
その時。
ドガっ!
「…………え?」
窓の方から何か音がしたように思えた。
「…………」
エルはそれが気になり、勉強に集中できなかった。そのため、一度窓を確認しに行く。
「……誰かいるの?」
「……うおおっ……」
「え?」
そこには、壁をよじ登っていたカケルの姿があった。
「ちょっと何やってんの!?」
「門からは……入れないからな……。外壁を登らせてもらった」
「……どうして……」
エルは窓を開ける。すると、カケルはなんとか、窓をつかみ、落ちない体勢を保つことができた。
「事情は……全部理解してる」
「……え?」
「お前がなんで苦しみながら勉強しているのか……ちゃんとわかってる」
「……カケル」
その真剣な眼差しはエルを捉えていた。
「だから、俺が教えてやる! お前の間違いを! そして、正しい方向へ導いてやる!」