第19話 怪物とは
「……やあ、こんにちは」
「こんにちは」
屋敷の中を歩くと、そこにはまだ会ったことのなかった男性がいた。茶髪で顔が整っている男性だった。
「私はウィリアム。ナタリアの妻だよ」
「ああ。ナタリアさんの……」
あの人、結婚していたんだ。
「昨日、今日と働いてくれて助かっているよ。もう慣れてきたかい?」
「まあ……わりと仕事をするのは得意な方なんで……」
「それは助かるよ」
その人は微笑みながら、俺の肩をつかむ。
「これからも期待しているよ」
「……ありがとうございます」
ウィリアムさんはそのまま、廊下の奥に向かっていった。
「……優しそうな人だったな」
俺はあの人のことも踏まえ考える。どうして、エルはあそこまで熱心に勉強をするのか……。
それがだんだんとわかってきた。
「だがなあ……」
なんだかその結論にはズレがあるような気がした。
ガガガっ
「…………ん?」
突然、近くの部屋から機械の音がした。俺はその音に驚いた。
「……なんだ?」
そこはクロトの部屋だった。
コンコンっ
ノックをしても、返事が無い。
「……入るぞ?」
一応声をかけるも、やはり返事は無い。
ガチャリ
「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおおお! VRぱねええええええええええええええええ!」
…………。
そこには変な機械を目に装着し、ヘッドフォンをつけたクロトの姿があった。そいつは何か体をくねくね動かしながら、楽しんでいた。
「……なんだ? こいつ」
「うひゃはははははははははははははははははははは!」
俺は状況がつかめなくなっていた。とりあえず、そいつの肩をつかむ。
「おい! 大丈夫か!?」
「……え?」
クロトは俺に気づくと、ヘッドフォンをはずし、目につけた機械をはずす。振り向いて、俺の姿を確認した。
しばらくクロトはボーッとしていた。
「…………は?」
こいつの顔がどんどん青ざめていく。すると、部屋にある銃を手に取り、俺に向けてくる。
「うおい!」
俺はそいつが撃つ前に押さえつける。
「放せ! 私はあなたにゲームオタクだと思われたまま、生きていく自信が無い! だから、死んでください!」
「落ち着けって! ……お前、自分でゲームオタクって言ってるじゃねえか!」
てか、この世界、ゲームがあるのか。そろそろ中世ヨーロッパは捜索願いを出されてもいいと思う。
やがて、押さえつけているとそいつは落ち着いてきた。そして、部屋の真ん中で正座をさせる。
俺の中のそいつのイメージが壊れつつあった。
「……もしかして、あまり会話をしなかったのって」
「私は……ゲームのことで頭がいっぱいだったからです」
「なるほど……」
俺は試しに落ちていた機械に手を触れる。だが……。
ガシッ
そいつの腕が俺の手をつかんでいた。
「……触らないでください」
「なんで……?」
「……グロ画像があるからです」
…………。
俺はそいつの手を振り払い、機械をつかむ。
「おい! 触るなと言っているでしょう!」
「うるせえ! だいたいグロ画像って言うやつは、もっとやばいもの見てるんだよ!」
その機械を俺はかぶる。
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そこはどこかの学校の屋上だった。
「クロくうううん!」
突然、うさぎ耳の美少女の映像が流れてくる。
「クロくん。今日は弁当を持ってきたんだよ」
その少女はバックを漁っている。
すると、少女は何かに気がつき始め、慌てていた。やがて涙目でこちらを見つめる。
「……弁当、家に忘れてきちゃった……」
少女は申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんね。……どうしよう……」
何か、目の前に選択肢が流れ込んでくる。
※どうする?
1、弁当を買ってきて一緒に食べる。
2、彼女を食べる。
3、彼女を弁当箱にする。
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「ああああああああああああああああああああああああああ!」
俺はその機械を取り外し、床に投げつける。
「おおおおおいいいいいい!」
クロトは叫びながら投げつけられた機械を抱え、確認する。
「大丈夫? 壊れてないよね?」
「お前! どんだけ頭がおかしいゲームやってんだよ!?」
いや……一個目の選択肢はまだわかる。
二個目もまだわかる。やばいけれど……。
三個目にいたっては、頭おかしいだろ!? なんだよ、彼女を弁当箱にするって!?
「そのゲームはなんだ!?」
「私はこの『パフパフきゅんきゅん』ってゲームが大好きなんですよ!」
「なんだ? その頭悪そうなゲームは……」
クロトはその機械を棚にしまう。
「とにかく私のゲーム機に触れないでください」
「いや、触れたくもないわ!」
まさか、こいつもウィルやルルみたいな個性豊かな人間なのか?
「まあ、お前がゲームオタクなことは黙っといてやるよ」
「ええ。ありがとうございます」
クロトはこちらにお辞儀をしてくる。こういうところが普通のため、ギャップがすごいことになっている。
「んじゃ。俺はそろそろ仕事に……」
ガシッ
そいつは俺の腕をつかんできた。腕力が強いため、振り払えない。
「ちょっと待ってくださいよ」
「なんだよ。俺だって暇じゃないんだぞ?」
「あなた……もしかしてゲームうまいですか?」
「あ?」
ゲームは最近はなかなかやってないが……。
「まあ、そこそこだな」
「じゃあ……協力してくれませんか?」
「…………え?」
なぜかそいつの瞳は本気だった。