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第16話 少年は考える

「ふう……」


 魔王との戦いの後、俺はだいぶ疲労が溜まっていたので銭湯に行った。客がまったくいないので、ほぼ貸し切り状態だった。


「…………」


 記憶を取り戻した後、結局体に異常は見られなかった。むしろ、一瞬でも今までのことを思い出して良い機会だったと思う。


 ガラガラッ!


 その時、突然扉が開き、一人の幼い少年が走りながら入ってくる。


「うおりゃああああ!」


「こらっ! 走っちゃ駄目でしょう」


 その子を咎めながら、銀髪の少女も入ってくる。


 あれっ。あの子見たことあるような……。


「え? カケルさん!?」


「……ルルか?」


「なんで混浴にいるんですか!?」


 彼女の言うとおり、ここは混浴である。男湯ではない。俺があんな男くさい場所よりも、少しでもメリットがある混浴に行くのは必然的行動である。


「今日は混浴に入りたい気分だったんだよ」


「とりあえず、前を隠せ!」


「…………なぜだ?」


「その醜い物体を私の前にさらさないでください。もしも、私がそれを見てしまったら、蹴り潰すかもしれないので」


 おお……。なかなか怖いことを言う。


 とりあえず、俺はあぐらをかき、股間が隠れるようにする。


 …………。


「なんですか!? あまりジロジロ見ないでくれますか?」


「ああ。悪い……」


 ほう……いつもはセーラー服を着ていてわからなかったが、決して胸は無い訳ではないようだ。


「……B……いや、Cはあるんじゃないか……」


「ジロジロ見んなっつってんだろうが!」


「がぼばっ!」


 桶を投げられ、俺の額に直撃する。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「で? お前はなんで混浴に入ってんだよ」


「私は弟を連れていないといけないので、混浴に入るのが一番良いかと思ったんです。人も少ないですし……」


 俺の横にルルが座る。タオルを巻いているため、見てもそんなに意味は無いのだが……。


「…………」


「…………」


 なんだろう。気まずい。


 そんな空気を破り、ルルが話しかけてくる。


「カケルさん」


「……どうした?」


「その……今日はありがとうございました」


「……あ?」


 正直、俺は良くわかっていなかった。なぜ、急にお礼をするのだろうか。


「今日……私のことをかばってくれたじゃないですか」


「ああ。別にかばったつもりじゃなかったんだけどな……」


 実際、こいつに売られただけだし……。


「……それでも、あなたは私たちのために戦ってくれた。それだけでも、あなたを……」


 ルルは目を閉じ、微笑む。


「かっこいいなって……思ったんです」


「……そういうもんかねえ」


 そして、ルルは再び目を開き、こちらを見つめる。


「……あなたがこの世界にやってきて、私はあなたに助けられてばっかりです。剣を教わったり、チェナと話すきっかけを作ってくれたり、魔王と戦って守ってくれたり……本当に……私はあなたに感謝の気持ちしか無いんです」


「…………」


「カケルさん。本当にありがとうございました」


 俺は本当に感謝されるようなことをしたのだろうか……。


 いや、違う。


 俺は4000年以上生きて、350回異世界を移動した人間だ。そんな人間が困っている誰かを見捨てたり、見殺しにするなんて……。


「…………」


 それこそ男が廃る。それだけだ。俺はたいした人間ではない。


「まあ……なんか悩みとかあったら言えよ。できる限り助けてやる」


「カケルさんは……すごい人ですね」


 そう言うと、ルルは立ち上がり弟を連れていく。


「それじゃあ、先に失礼しますね」


「ああ」


 帰り際にその少女はボソリと呟く。


「………………キング・オブ・ザ・DT」


「おい、やめろ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 数日後。ギルドに行くと、そこにはルルがいた。


「よお」


「……こんにちは」


 俺は掲示板の依頼状を眺める。お金も定期的に貯めるために、たまには依頼を達成しなければいけない。


「今日はどれにしようかなあ……」


「カケルさん……ですよね」


「……え?」


 突然、俺に水色の髪の女性が話しかけてくる。


 なぜだかルルがこちらをにらんでいる。大丈夫か? あいつ。


「あの、どちら様ですか?」


「私はエルの姉のナタリアと言います。実は、あなたにお願いがあります」


「お願い……とは?」


 ナタリアさんは一枚の紙を俺に渡す。それは何かの募集の紙だった。


「うちの屋敷で妹に家庭教師をしてほしいのです」


「…………へ?」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 エルの家はなんだかすごい貴族のような雰囲気を持った家だった。屋敷の中に入ると豪華な装飾が目に入ったため、それは明らかだった。


「なんでお前も着いてきてるんだ?」


「カケルさんだけだったら心配じゃないですか。わりとあなたは暴走する時は暴走するので……」


「そうだろうか……」


 俺とルルはそれぞれ執事服とメイド服に着替え、その屋敷にいた。一応俺は家庭教師をするが、エルが家にいない時は執事として働かせてもらうことになった。


 今回の仕事だが、別に長期間教える訳ではなく、テストが終わるまでとのことらしい。


「それにしても……ナタリアさんはどうして急に俺を家庭教師にしたいなんて言ったんだ?」


「それは魔王を倒したからに決まっているでしょう」


「え? そうなのか?」


「はい。ただの一般人が魔王を倒したなんて聞いたら、きっと誰もがその人はすごい魔法を使えたり、すごく頭が良いのだろうなって考えるでしょうね」


「……そうかねえ」


 俺とルルが話していると、ナタリアさんがやってくる。


「さて、じゃあお願いしてもいいかな」


「まあ、俺にできる範囲なら」


「正直でよろしい」


 ナタリアさんは俺とルルを連れ、廊下を歩く。


 唐突に俺はエルについて考え始める。魔法に関してはむしろレベルは高い方だし、本人からは成績は良い方だと聞いていた。


 そんなエルに家庭教師をつけたいと言うのだから、相当成績が悪くなってしまったのだろうか。


「妹さんはどれぐらい勉強ができないんですか?」


「ずいぶんストレートに聞くのね。実は最近は妹の調子が悪くてね。それで学校にも行かずにずっと部屋に引きこもっているのよ」


「勉強しなくなってしまったんですか?」


「いえ、むしろ逆よ」


「……?」


 俺はその部屋の前に連れてこられる。


「ここがエルの部屋よ」


 ナタリアさんはその扉をゆっくりと開く。


 …………。


 …………おっおう……。


 そこには勉強道具が散らかり、ベッドの上でふとんの中に潜っているエルの姿があった。


「……エックス……二次関数……最大値……魔方陣……」


 何やらブツブツ呟いている。


 いや、何があった!?

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