第14話 光の中で出会う
「僕が……カケル君を……」
「そうだ。あいつは俺の妹を汚したんだ。だから、協力してくれ」
おい! まさか、ウィル! その提案を受け入れたりしないよな!?
ウィルは瞳を閉じ、考え込む。そして、結論を出し、考えを口にする。
「悪いけど、それはできない。僕は聖騎士だ。だから友達を守らなくちゃいけn」
スッ
魔王はパンツを見せる。
「妹のパンツだ」
スッ
ウィルも同じように自らの妹のパンツを見せる。
「契約……成立だな」
「これからもよろしくね。魔王君」
汚ねえ契約だな!
てか、この国の兄は妹のパンツを持つのが普通なのか!?
「さあ! まずはあのカケルとかいう変態を殺すんだ! ウィル!」
「了解した!」
一瞬で意気投合しやがった。
前言撤回。あいつは残念なイケメンだ。
カキイイインっ!
ウィルの剣が結界によって弾かれる。
「なにっ!」
これは一体?
「カケル!」
エルが俺の方に走ってくる。
「お前がやったのか?」
「ええ。でも長くはもたないわ! 何か策は無いかしら」
実は無いことは無いのだ。
だが……。
「……エル……」
「何?」
「……俺がいなくなったら、レイラさんやジルちゃんを頼む」
「え?」
俺は覚悟を決める。
そして、ルルに向かって大声を出す。
「ルル! そこのレイラさんが作った握り飯をこっちに投げろ!」
「ええ!」
そのあまりに突然の言葉にルルは驚く。
「できませんよ! そんなに力は無いです!」
「後でホモビデオ見せてやる!」
「オーケー! 任せてください!」
ルルは握り飯を手に持ち、野球のピッチャーのような動きをする。
「ふんっ!」
その握り飯は豪速球でこちらに向かってくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガブッ
俺はそれに勢いよく噛みついた。
バタッ
「カケル!」
あまりの味に俺は意識を失う。
「しっかりして! カケル!」
最後までエルの声が聞こえた。
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「はっ!」
そこはあの死んだ時に行く場所だった。
「おーい」
「…………」
倒れる俺の目の前にタナカが現れる。
「なんでまたここに来たの?」
「頼みが……あるんだ……」
これは一か八かの賭けだ。
「俺の4000年の記憶を戻せ」
「……は?」
俺の頭には限界がある。せいぜい覚えてられても150年程度だろう。
だから、余裕を持って100年前までの記憶と、これまでの大雑把な記憶を俺は覚えている。他の記憶は神様のところに預けている。
そうしないと、俺の頭がもたないのだ。
「あなた……本気で言ってるの?」
困惑するのも無理は無い。
4000年以上の記憶を取り戻す……ということは、余程の天才で無い限り、俺の頭がパンクする可能性の方が高い。
大抵の場合、精神が崩壊し廃人となる。
「それでも……」
俺は立ち上がる。
「俺にとって、守りたい物がそこにあるんだ」
タナカはこちらを悲しそうに見つめる。だが、俺はその横を通りすぎる。
「……あなたは怖くないの?」
「ああ。なんせ……」
俺は振り向き、そいつに笑みを送る。
「頭おかしいからな。俺は……」
「…………」
俺は光に飛び込む。そこは水中なのか、空中なのか、曖昧な場所だった。
「……これは……」
俺の頭の中に様々な情報が入ってくる。
「うっ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「うおおおおおおお!」
トラウマ、絶望、悲しみ……様々な物が乱れていた。
これまでの世界で起きた出来事を思い出していく。
「まずい。このままだと……」
俺の中の何かが破裂しそうになった。頭痛がひどく、冷静さを保つことができない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そんな中で俺はある声を聞く。
――カケル! しっかりして! まだやり残したことがあるでしょうが!――
そう……だ……。
俺は……。
「4000年以上! 童貞じゃねえかああああああああああ!」
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「カケル!」
彼はいまだに倒れたままだ。
「カケル! しっかりして!」
魔王の剣が私の作った結界を破壊していく。
「フハハっ。魔法学校のガキごときが、この俺の攻撃を受け止められるわけがなかろう!」
キイイイイン!
「なっ!」
その時、目の前の魔王の剣をウィルが押さえる。
「貴様! 裏切る気か!」
「悪いね。僕には欲望よりも大切な物があるんだよ」
ウィルの剣は魔王を弾き飛ばす。
「はああああ!」
「くっ!」
間一髪でその攻撃を受け止めるも、魔王は押されていた。
「これでとどめだ! 魔王!」
「いいや! まだだ!」
瞬間。
「なんだ! これは!」
黒い粒子が魔王の体を包んでいた。そして、尋常じゃない速さでウィルの体を斬りつける。
「ぐっ」
その剣筋を読むことは難解で、ウィルは防御しきれず、弾き飛ばされる。
「いったい、彼に何が……」
「これが……暗黒魔法だ」
ウィルはそれに驚く。暗黒魔法を使う者に会ったことなど無かったからだ。
「暗黒魔法は、我ら魔族の用いる伝統魔法。そこらの人間に扱える代物ではない。この魔法は、自身の身体強化、相手の弱体化など非常に様々な特性を持っている」
魔王は全身を黒い粒子で覆い、ウィルを見下ろす。
「俺は魔王だ。ただの聖騎士が倒せる相手だと思ったか?」
「……うぐっ……」
これまでの攻撃で負傷し、ウィルはうまく立ち上がれなかった。
「これで……本当の終わりだ」
魔王はウィルに剣を振りかざす。
ガシっ
「…………貴様。生きていたのか」
そこには剣を握り、止めていたカケルの姿があった。いつの間にか私の後ろからウィルの前まで移動していた。
「……カケル君……」
カケルは魔王を見つめる。
「……ここは主人公の世界だ。勝手に暴れることは許さない」