第13話 ウィルとロリと性欲モンスター
なにやら魔王がよくわからない理由で俺たちを攻めてきた。
「うちの妹にあの18禁寸前の物を教えやがって! おかげで、妹の部屋に入った時、気まずい雰囲気になって! 毎日、夕飯がお通夜状態なんだよ! こっちは!」
「……あ? ……言ってる意味がよくわからないんだが?」
俺はそいつに問いかける。その時、男の容姿が誰かに似ているような気がした。
「あれ……まさか……」
なんだか嫌な予感がした。
「お前の妹って……チェナ?」
「そうだ! 我が家の天使を汚しやがってこの野郎!」
ああ……。
俺はルルの方を振り向く。あいつは俺と目を合わせない。
あの野郎。
「てか、チェナがお前の妹ってことはよお。……あいつってマジで魔族だったの?」
「は? 当たり前だろうが?」
……勝手に中二病扱いしてごめんよ。普通にすごいやつではあったんだ。
かといって、この兄もまともとは言えないように思える。今までの経験からして……。
「俺のチェナちゃんを汚した罪は重いぞ?」
「もしかして……」
「ああ!?」
「シスコンってやつか? お前」
「違う! 妹が大好きなだけだ!」
それをシスコンって言うんだよ。
「早く出てきた方がいいぞ! さもないと、ここにいる全員を殺すことになる」
「なっ……!」
おいおい! ルル! 早く出てこい。じゃないと、皆巻き込まれるんだぞ。
「わ……!」
ルルが口を開く。
「私が激烈魔人ホモウを教えたのは事実です! ですが、その状況を作ったのはカケルさんで……」
こいつ……俺を売りやがった……。
「なんだと……?」
あれ?
「うおいっ!」
俺はその拳を間一髪で避ける。
バキバキっ
地面が大きくひび割れていた。
「なんで急に!」
「殺すぞ?」
この魔王様。対象が俺だとわかった途端、容赦なくなったぞ。てか、殺意ありすぎだろ!
「待ってくれよ。確かに事実だけれど、俺だってこんなことになるとは思わなかったんだ」
「うるせええええええええええええええええ! お前のせいでチェナちゃんは、なんか意識して、洗濯物を俺に洗わせてくれねえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
え? それ関係なくね?
「うがあああああああああああああ!」
「くそっ! おりゃあっ!」
俺は魔王を蹴り飛ばし、いったん距離を作る。
「とりあえず、ここで足止めしてる間に皆は逃げろ」
バタッ
「……あれ?」
俺は体がうまく動かせず、地面に膝をついていた。うまく脚が動かせない。
この感覚どこかで……。
「ルル? ……さっきのお茶、誰が作った?」
「へ? ……レイラさんですけど……」
やっぱりか!
「フッフッフ。 ……貴様、なかなかやるではないか……。だが!」
魔王はすぐに起き上がり、こちらに向かってくる。
え? 今来たらマジで死ぬんだけど……。
「フハハハハっ!」
魔王が俺に殴りかかったその時だった。
ピキュイイーン
「なにっ!?」
魔王は結界によって弾かれる。
俺の目の前に金色に光る鎧を着た男がいた。そいつはクリーム色の髪を持っていた。
「…………ウィル?」
「遅くなってごめん」
そこにはいつもとは見違えるほど正義感をまとった男の姿があった。
「お前……確か仕事に行ったんじゃあ……」
「これが僕の仕事だよ」
「……え?」
「……ん?」
は? 騎士がウィルの仕事?
騎士って、要は警察と同じような役割だよな。この世界って。
…………。
「……この世界、終わった……」
「ひどくないかい!?」
このロリコンが警察とか、絶対終わっただろ。
「さすがに仕事中に変なことはしないよ」
「…………」
だが、今のこの状況ではとても心強かった。
「僕ら騎士は魔王がこの街に来たって聞いたから、緊急で仕事が入ってしまったんだ。だから、花見に行けなかった。ごめん」
「なに言ってんだ?」
俺はウィルの肩をつかみ、笑みを送る。
「今のお前超イケメンだぜ!」
その言葉にウィルは少し驚いていたが、やがて笑顔を送り返す。
「……ありがとう」
ウィルは魔王のもとに歩き出す。それに対し、魔王もニヤリと笑う。
「ほう、この街どころか、国が認める聖騎士と戦えるなんて光栄だ」
「僕も……魔王と戦えるとは思わなかったよ」
ウィルは腰の剣に手をかける。魔王も魔法で黒い剣を作り出す。
…………。
キイイイインっ!
二人の剣がぶつかり合い、激しい金属音が鳴り響く。
「うおおっ!」
「くっ」
キイイインっ!
どうやら、魔王の方が押されているようだった。
「いいぞ! ウィル! そのままやっちまえ!」
ウィルが振るった剣は次々と魔王の守りを崩すように攻めていく。やがて、魔王の剣は後ろに弾かれ、無防備な状態となる。
「これで終わりだ!」
「まだだああ!」
魔王は魔法で体の中心にシールドを作る。それは剣をちょうど防いだが、魔王の体を弾き飛ばした。
「ぐおっ!」
何度も地面にぶつかり、魔王は倒れ込む。
その魔王にウィルは剣を突き立てる。
「……もう、終わりです」
「……くっ……そ……」
その時だった。魔王が何かを落とした。
「……それは……何ですか?」
そこに落ちていたのは写真だった。
「……この子は……君の妹ですか」
「ああ、俺の愛する妹だ」
「…………」
ウィルは沈黙の後、ゆっくりと口を開く。
「めちゃくちゃ可愛いいいいいいいいいいいいいい! ブヒいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
…………。
…………ん?
「めちゃくちゃ可愛いじゃないか!」
「え? ああ、そうだな」
あまりの対応の変化に魔王も困惑していた。
「ちょっとこっちで話そうよお!」
「あ……ああ」
ウィルは魔王を連れて、近くのベンチに座る。
何やってんの? あいつ。
「世間ってさあ、なんか巨乳じゃなくちゃ駄目だとか、ボンキュッボンが最高とか言うけど、なんか違うと思わない?」
「それな! なんて言うか、貧乳こそ正義って言うかさー」
「あっ……これ僕の妹の写真なんだけど、見てみる?」
「やばっ! めちゃくちゃ可愛いじゃないっすか! やっぱ妹って最高だわー!」
「でも、たまに見るロリ巨乳ってのも、僕は受け入れちゃうんだよなあ」
「マジでそうっすよね。なんて言うか、その巨乳を気にして恥ずかしがってるところとか、萌え要素バツグンじゃないすか!」
え? なんか、魔王と聖騎士が隣に並んで仲良く喋ってるんだけど……。
この世界ってそれが普通なのか!?
他の奴らを見ると、そいつらも驚いている。
おかしいのは世界じゃない。変態の方だったんだ!
「でもさあ。その妹を最近、汚されてしまったんだ」
「……なん……だと……。処女喪失か!」
こらー。ウィル君。そういうこと大声で言わない!
「いや、そういう訳じゃないんだけどな。そこの奴に18禁の漫画を見せられたんだ」
「なんだと……。つまり、性教育だね! なんて羨まし……じゃなくて、許しがたい!」
ウィルの本音がだだ漏れである。あいつマジでアウトな奴だろ。
「だから……そいつらを倒そうと……ここに来たんだ」
魔王はウィルの手を握り、それを言う。
「頼む。一緒にあいつらを倒してくれないか?」
「なに……!?」
ちょっと待て! なんてことをあの魔王は提案してんだ。