第12話 花びらは散る
この世界に来て数日経った日のことだった。
「花見?」
突然レイラさんは俺にそれを提案する。
「カケルさんの異世界からやってきたお祝いってところですかね。だから、今までお世話になった人たちを招待してきてください」
「俺が?」
「そうです」
自分のお祝いに自分で誘うってなんか恥ずかしいのだが?
「ちゃんと呼んできてくださいね?」
鋭い瞳でこちらを見る。こうなったレイラさんには敵わないのを知っている。
俺は顔がひきつるも、断ることができなかった。
「……はい」
「わかればよろしい」
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ギルドでエルやルルを誘ってみたのだが、他にいただろうか……。
なんやかんや、教会に泊まりに来ているマリアには伝わっているし、どこから聞いたかわからないのにウィルは知っていた。
「あとはチェナだけなんだがなあ……」
ギルドで待っていても来ないし、ルルに聞いても最近は姿を現さないようだ。
「なんでだろうなあ……」
俺はギルドを訪れるついでに個人的な事情で世話になっているエロ本屋の爺さんに話しかける。
「爺さん、新しいのは入荷しているか?」
「ああ。これとかどうじゃ? 最近はこんなのを買っていった若者がおったぞ。『幼女といろんな教育』……」
「たぶんそれ買ったの知り合いだわ」
この店に来るやつ、ほとんどあいつらなんだが……。むしろ、そいつらで生計立ててんじゃねえの? この爺さん。
「んじゃ、この調教物とBLを一つずつくれ」
「毎度ありー」
ちなみに一冊はマリアに教科書として渡している。もう一冊はよくあるルルへのお願いの代金みたいな物だ。
「……あれっ。俺の周り変人しかいなくね?」
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あの後、爺さんを誘ってみたが、爺さんは爺さんで家族と花見に行くらしい。
「レイラさん?」
教会に戻ると、彼女はなにか料理を作っていた。これはうかつだった。
「ああ。カケル君。明日の弁当作ってるんですよ」
「……そうっすか……」
俺は明日の自分のことは考えずに、教会の上にある寝室へと進む。
「やあ、カケル君」
「……今度は何の用だ?」
ウィルに至っては、誰かが止めないとアウトなレベルのことをしでかす可能性がある。
「言っておくが、明日は平常心を保てよ? お前の大好きなロリっ子が数人いるからな」
「大丈夫だよ。いくらなんでも僕だってまだ刑務所に入れられたくない」
じゅるり
「失礼」
またもや、こいつはハンカチを口に押さえ、よだれを拭く。
まったく信用できねえな。
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次の日。
「こんにちはー」
ルルが元気よく俺のところに来る。だが、一緒にいるマリアやレイラさんを見ると笑顔が消えていく。
「…………カケルさんの変態」
「なぜ?」
「答えません。ところで、その人たちは誰ですか?」
「ただの同居人だが……」
「……やっぱり変態じゃないですか」
「だからなぜ?」
俺はまずいことでも言ったのだろうか?
なぜかルルはブツブツつぶやいている。どうしちゃったの? この子。
しばらくすると、エルもやってきた。服は前とは違い、魔法学校の制服だった。
「今日は何かあったのか?」
「なんで?」
「だって制服が違うから……」
「ああ……図書館で勉強してたからよ。……最近は思うように成績が伸びないから……」
まさに学生の悩みってところか……。
「あとは、ウィルだけか……」
「ああ、ウィルなら急に仕事が入ったらしいわよ」
「え? あいつ仕事してんの? 嘘だろ?」
てっきり顔だけがイケメンの残念なやつという印象が強かった。まさか、仕事を持っていたなんて……。
まあ、ウィルを除く全員が揃った。そろそろ出発しよう。
「じゃあ行くか」
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そこは桜が広がっていて、まさに花見をするには手頃な場所だった。ドラゴンに会った草原の奥にこんな場所があったのか……。
「さて……」
俺たちは地面に布を広げ、その上に座る。そこからの桜の景色は良い物だった。
太陽の光が桜の花をちょうどよく照らしていた。
「……たまにはこういうのも良いもんだなあ」
思えば、こうやってゆっくりと過ごしたのはいつぶりだろうか。
「カケルさん。お茶いりますか?」
「おう。ありがとうよ」
ルルが俺にお茶を渡してくれる。それを俺は少しずつ飲む。
「……なんだろうなあ」
明らかに、俺の生活として、以前とは違うものがあった。
…………。
…………。
…………平和すぎね?
今までの異世界と比べ、ここまで平和な世界ってあったか?
何か良くないことが起きる気がする。
「マリアお姉ちゃん、団子ちょうだい」
「たくさん作ったから食べるといいよ」
ジルちゃんは団子を食べ、喜んでいる。ちなみになぜ中世ヨーロッパなのに団子があるかは答えない。
「なんだかんだ。皆楽しんでるんだな」
「どうかしたの?」
近くにいたエルが問いかける。
「いや……なんでもn」
ドゴおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
「……………あ?」
大きな爆発音が近くから鳴る。そして、そこから一人の男が現れる。
「なんだ?」
その男は黒い瞳をこちらに向ける。
ギロッ
「え?」
その目は何か怒りがこもっていた。
「おいおい。何なんだ? 急に現れて。俺たちはただ純粋に花見をしているだけだぞ?」
「お前ら……」
その男は口を開き、話し出す。
「俺は……魔族の中でも秀でた力を持ち、この世界の大部分を支配してきた。人間たちの言うところの魔王という存在だ」
「魔王……だって……!?」
なにやら、その男は震えだした。
「だが…………だが…………!」
男はこちらをにらみ、その言葉を叫ぶ。
「うちの妹に『激烈魔人ホモウ』とか言う18禁寸前のやつを教えたのは誰だあああああああああああああああああ!?」
「…………は?」