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第102話 使用人クロトは人と関わりたい

「ああ? オルゴールじゃねえか」


「おう。タクロー」


 そこには金髪で柄の悪そうな男がいた。


「なにやってんだ?」


「こっちでチェナちゃんの話をしてるんだ。良かったら、タクローもどうだ?」


「……まあ、たまには聞いてやるとするか」


 そう言い、彼は私の隣に座る。そんな彼に私は尋ねる。


「……あの。なぜオルゴールさんやウィルさんの隣に座らないんですか?」


「えっ。だって、間に誰かいないと、うっかりオルゴールを殴りそうだからな」


「…………」


 なぜ聞こうと思った?


 そもそもあんまり馴染みの無い連中の間になぜ座らなければならないんだ。


「いや……さすがに私は話を聞く気無いですし」


「おい」


 オルゴールさんがこちらをにらんでくるが、変わらず話を続ける。


「それにウィルさんだっている。彼を間にすればいいのでは? ……ということでどうぞ席を変わりましょう」


「いや……無理だ」


 タクローは変わらぬ表情で言う。


「そいつもオルゴールと同じ匂いがする。この前、ルルとかいうガキの匂いを嗅ごうとして殴られてた」


「ウィルさん……そんなことしたんですか」


 ウィルさんは微笑みながら言う。


「いやー。つい魔が差しちゃって」


「……つまり、むほむほしちゃったんですね」


 ウィルさんの顔から笑顔が消えた。


「ちょっと待って。それ誰から聞いたの?」


「カケルさん」


 ガタンっ。


 無表情のまま席を立ち、ギルドの外へ行こうとする。


 慌ててオルゴールさんがそれを止める。


「どうした?」


「ちょっとステファニーとカケルくんに話がある」


「少し落ち着け」


「……うん。わかった」


 そう言うと再び席につく。依然として、無表情のままだが……。


 オルゴールさんはまた話し始める。


「それでな。またチェナちゃんの話なんだけどな。チェナちゃんが寝てる間に、猫耳のカチューシャをつけようとしたんだよ」


 ……またくだらないことをしようとしたのか。


「それで部屋に入ったらさ。トラップの魔法があちこちにかけられてて、うっかり時速百キロの鉄球を腹に受けちゃって……」


「へぇー。それでその計画は失敗に終わったと」


「それでもやっぱ猫耳だろ?」


「……は?」


「つけずにはいられないだろ。うっかり骨が折れてたけど、猫耳をつけに近づいたんだ。そしたら、また同じような技を受けて」


 オルゴールさんはめちゃくちゃニヤニヤしながら話していた。


「それでやっとの思いでチェナちゃんの頭に猫耳をつけられたんだ。そこで力尽きて、うっかりチェナちゃんの布団で寝ちゃったとさ……」


「…………」


「…………」


「……えっ? 終わり?」


「あ? うん」


 てっきり朝起きて、チェナさんにぶち殺されると思っていた。


「ああ。そういえば……その日は朝起きたらゴミ捨て場に裸でいたな。なんでだ?」


 ……あっ。結局捨てられたんですね。


「でも、おかしいんだよなあ。俺、寝てる時に少しでも触られたら、起きる人間なんだよ。魔王だからな」


「あっ。そういえば、魔王でしたね。あなた」


「…………」


 オルゴールさんはその日のことをずっと考えているようだった。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



 確か……あの日は……。


「……ん?」


 そうだ。確かチェナちゃんの寝相が悪くて、腕が俺に当たったんだった。


 それで目が覚めて……。


 ガシっ。


「……えっ」


 そうだ。そしたら急にチェナちゃんが俺の頭を胸に抱き寄せてきて……。


「……お兄ちゃん。大好き。……むにゃむにゃ」


 ……って言ったんだ。


 それで……俺は気絶したんだ。



# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #



「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「…………」


「チェナちゅあああああああああああああああああああん! お兄ちゃんも大好きだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ……駄目だ。こいつ。


 完全に脳ミソの半分が妹のことでできている。こんなのが魔王なんだから、世界はいつでも平和だわ。


「でも……」


「ん?」


「……やっぱり家族っていいものですよね」


 私は唐突にそんなことを話し出す。


「私は……施設で育ったので、近くに血が繋がった人がいないんです。だから、そういうのは新鮮な感じがして」


「…………」


 すると、ウィルさんが僕の肩をつかむ。


「……うちの母と妹をあげようか」


「急に何を言っているんですか?」


 おかしいな。そういうことを言っているんじゃないんだが。


「母親はちょっとマッドサイエンティストじみてるところあるけどさ。妹はそれなりに巨乳だし…………巨乳だからさ。わりといいと思うんだよ。うん」


「いやいや…………てか、妹のこと巨乳としか思ってないんですか?」


 すると、その後ろからオルゴールさんがウィルさんの肩をつかむ。


「落ち着けよ。わかった。妹は俺がもらう。……だから、クロトだっけか? お前は母親でいいよな。すまん」


「ちょっと待って。なんで私が家族をもらう前提で話が進んでるんですか?」


「大丈夫だって。こいつの母ちゃん、少しやばいババアだけど、それなりに困った時には役に立つババアだぞ。話すと、脳がどうたらこうたら言い出して怖いババアだけど……」


「いや……だから……」


 私はだんだんと気持ちを押さえられなくなり、つい言ってしまう。


「私は……今はちゃんとエル様たちと一緒にちゃんと過ごせてて……別に家族なんて欲しくないし……それに」


 ここまで話していて、私は言う。


「シャーロットさんみたいなババアは好みじゃねえんだよ!」


「あらあら」


 すると、扉の方にクリーム色の髪を持った女性が。


「あっ……」


 その人物がシャーロットさんだと気づくのは容易だった。


「大丈夫! 私はこう見えて、まだ顔は若いから」


「あの……シャーロットさん。もしかして……怒って……」


 瞬間。


 彼女は私の背後に回り込む。


 そして、襟を引っ張られ、連れてかれる。


「だから、ちゃんと実験材料(かぞく)になれるわ。安心して」


「……えっ」


 そんな私を見て、オルゴールさんは笑いを堪えるのに必死である。


「ぷっ。お前もついてないな。本人の目の前でババアって……ぶはっ」


 すると、シャーロットさんはオルゴールさんの襟もつかむ。


「……えっ」


「さっきの会話聞いてたから大丈夫。あなたもうちの娘の家族になれるから」


 その光景を見て、ウィルさんは青ざめながら言う。


「失礼を承知で言います。母上。私はこれより聖騎士として、街を守ることに全力を尽くしたいと思います。ですので、家に帰ることはできません」


「ステファニーちゃんが呼んでる」


「えっ」


 ガシっ。


 こうして、私たち3人は襟を掴まれ、ギルドの外へ向かう。


 タクローはコーヒーを飲みながら、そんな私たちを見ていた。そんな彼に向かってオルゴールは叫ぶ。


「……ちょっと待って! タクロー、助けて!」


「……達者でな」


「タクロおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 こうして、私たち3人はその日シャーロットさんにいろいろお仕置きされて過ごしたのだった。

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