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第10話 世間は狭い

 俺は料理の材料を揃え、教会に戻ってきた。


「ふう……」


 扉を開け、中に入ると……。


「やあ! カケル君!」


「ウィル……」


 なぜこいつはすごく元気なんだろう。


「何かあったのか?」


「ああ。だが、その前に……」


 バンっ!


 ウィルが俺を壁に押し付ける。


「……何のつもりだ?」


「ハハハッ。僕はこれから、君を襲うよ」


 やばいな。会話ができないレベルまでイカれてやがる。


 どれどれ……こいつは何を考えているんだ?


 あまり気は進まないが……やってみるか……。


――ルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃんルルちゃん――


 やっぱ何考えてるかわかんねえわ……。


「とりあえず離れやがれ!」


「ぐえっ」


 俺はウィルと腹を蹴り飛ばす。


「まだ! 諦めないぞお!」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「げふうっ……」


 さすがにやり過ぎたなあ……。


 目の前にはまぶたが腫れ、ボコボコにされたウィルの姿があった。


「……で? 何があった?」


「フフっ……簡単に言うとでも?」


 俺は近くの長椅子の下を見る。すると、そこにはカメラがあった。


 ちなみになぜ中世ヨーロッパにカメラがあるか。その質問は受け付けない。


「これは何だ? 進んでお前がやった訳じゃあないだろ?」


「フフっ……」


 ウィルは笑い始める。


「フハハっ! そのとおりだよ。カケル君」


「どうしてこんなことした?」


「それは、昨日のことだ」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「何をやっているんだ?」


 それは僕がルルちゃんのストーカーをしていた時のことだった。


――ストーカーしていた自覚はあったんだな……――


 彼女はなにやら、本屋さんで何かを買っていた。それを僕は見てしまったんだ。


「ありがとうねえ。お嬢ちゃん」


「いえいえ、むしろ助かってますよ」


 そのお爺さんから、BLの本を買っていたんだ!


――あの爺さんは本気で売る相手考えた方がいいぞ――


 ついに! 僕はロリっ子の弱みを握った!


 僕はそれを突き出し、エッチなことをしてもらうつもりだった。


――お前最低だな!――


 ところが、彼女は僕に気づいていたんだ!


「ウィルさん……でしたよね?」


「え?」


「あなたは、ストーカーをしているんですよね? このことを民衆のバラしたら、あなたは今後永久にロリコンとして伝えられていくでしょう」


 僕は驚いたよ。まさか、あっちから脅してくるなんて……。


 ちょっと興奮した。


――やっぱお前重症だよ――


「ウィルさん」


「はい!」


「一つ……お願いをしてもいいですか?」


「何を……お願いされるんですか?」


 彼女は口の笑みを浮かべながら、その言葉を口にした。


「カケルさんを襲ってくれませんか? そして、それをビデオに納めて来て下さい」


「え?」


 正直、嫌だったよ。なんで僕が男を襲わなくちゃいけないんだって……。


 だから、断ろうと思った。


「悪いけど、僕は……」


 その時だった。


 パサっ


「……え?」


 僕の顔に何かが張り付いた。それはタイツだった。


「……私の……」


 彼女は耳元で(ささや)いた。


「使用済みですよ。……お兄ちゃん」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


「むほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺はこいつのあまりの変態っぷりに目を閉じる。


 利用され過ぎだろ……。


「だから! カケル君! 僕は君を襲わなくちゃ!」


「お前……つまりそんな理由で昨日教会に来たのか?」


「もちろん!」


「オーケー。お前はロリコンだな」


 そういえば、こいつはレイラさんに捕らえられていたはずでは……。


「なんで解放されているんだ?」


「実はねえ。あの後も色々、お仕置きを受けたんだけど……」


 ウィルは目を見開きながら、話す。


「あの人が10代前半のロリっ子だと考えたら、なんだか楽しくなってきちゃって……」


「きちゃって……じゃねえよ! お前完全にイカれてんだろ!」


 誰かこいつを早く刑務所の牢屋にぶちこんでくれ。


 その時……。


 コンコンっ……


「あ?」


「誰か来たみたいだね。もしかしてレイラさんかな?」


 じゅるりっ


「失礼」


 こいつはもう駄目だ。


 俺は歩いていき、扉を開ける。


「どちら様でs」


「師匠! 私にご主人様とはなにかおs」


 バタンっ!


 俺は勢いよく扉を閉める。


「ああん……、これは放置プレイというやつですね?」


 俺は再度扉を開ける。そこにはあの金髪の女王様がいた。


「そんな訳あるか! 何の用だ!?」


「レイラさんから、師匠がこの教会で寝泊まりをしていると聞いて……少し興奮しました」


「オーケー。ちょっと頭冷やしてこい」


 ブツブツ……ブツブツ……


 なにやら、後ろから声が聞こえる。


「ウィル! どうした!? 悪いが二人も変態を相手にできないぞ!」


 ブツブツ……


「……ウィル?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 なんだこいつ……。


「おや? ウィル君ではないか?」


「え? こいつと知り合いなのか?」


 まさか、ロリコンのこいつに知り合いがいたとは……。


「ええ。実は私の友達の幼馴染なんだ」


 世の中、意外なところで人の繋がりがあるものだなあ。

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