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第99話 導かれし変態

「……うおっ……」


 どうやら、ギルドの長椅子で寝ていたようだった。


「師匠。大丈夫ですか?」


「……いや、お前のせいだけどな」


「まあ、たまにはいいじゃないですか。こういうことも」


 いろいろと怒らせることをしてしまったのは事実である。これぐらいは仕方ないか。


 しかし、そう思っていた矢先……。


「じゃあ、師匠」


「……ん? どうした?」


「私にお仕置きをしてください」


「…………」


 一瞬、こいつの言っていることが理解できなかった。


「……あ?」


 ……いや、理解したくなかった。


「何言ってんの? お前」


「だから、お仕置きをしてください」


「ごめん。まったく状況がつかめない」


 お仕置き? いや、なんで?


「いや、やめろよ。俺の罪悪感がとんでもないことになる」


「へ? どうしてですか?」


 いやいや、こいつを振ったこととか、アーロンのこととか……。いろいろ申し訳ないことが多いだろ。


「まったく……いいんですよ。私を振ったことなんて……。恋愛ごととこれは別です」


「何も別じゃねえよ? お前の趣味に俺を巻き込むな!」


「いやいや! せめて、この鞭で叩いてくれるだけでいいんです!」


「……どっから出したし。その鞭」


 とりあえず、その鞭を一度受けとる。よく見ると乗馬用の鞭である。


 ……さすがに本気で叩く勇気が無いんだが……。


「さあ! 師匠!」


 こちらに尻を向ける王女様。


 やめろ。そんな輝かしい瞳でこちらを見るな。


「ほらっ……」


 ぺちっ


 俺は少し、痛みがある程度の強さで鞭を振るう。


「……これで満足か?」


「……師匠」


「ん?」


 突然、俺の肩をつかんでくる。


「なめてるんですかあ!」


「……ええ」


 困惑するしかない。こんな変態を前にしては……。


「もっと! もっと本気で叩いてください!」


「待てよ! 本気でやったら、いろいろ俺がまずいことになる!」


「もっと! 勇気を持てよ!」


「んな汚れた勇気持ちたくねえよ!」


 再び、マリアはこちらに尻をつき出す。俺は仕方なく、鞭を構える。


 ……よくよく考えたら、この光景の方がやばい気がする。すでにギルドの役員の人たちが俺に目を合わせてくれない。


 ……もう……やるしかない。


「うおりゃあああああああああああああ!」


 ビヂンっ!


「ひぎっ!」


 もっと! 力を込めろ! 俺!


 ビヂンっ!


「ひぐっ!」


 ビヂンっ!


「ああ。いいですよ! これが欲しかったんですよ!」


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 ギルドの中では鞭を持つ男と、尻をつき出したまま倒れている女がいる光景が広がっていた。


 ……どちらも息を荒げていることが、より雰囲気を異質なものに変えている。


「はあ……はあ……少し……休憩を……」


 俺が外に出ようとした時だった。


 ピキュンっ


「……これは……殺気?」


 出口の扉が少し開いているのを感じた。そこには……。


「なあ……カケル」


「……アーロン?」


「少し話そうか」


「……おう」


 俺はそいつにつかまれ、外に連れていかれる。


 ドンっ!


 建物の壁に押しつけられる。てか……もう殴られる覚悟ができてる。


 ……いや、あの光景を目にして、殴らない方がおかしい。


「……いい人生だった」


「何を言っているんだい? カケル」


「……え?」


 当然、アーロンは怒っている様子だった。だが、こちらに殴りかかってくるようには思えなかった。


「……お前には、頼みがあるんだ」


「……は?」


 すると、突然アーロンはその場に土下座をする。


「頼む! 俺にSMとやらを教えてくれ!」


「……はい?」


 こいつは何を言っているんだ?


「SMを! 教えてくれ!」


「いや、ちょっと待て! 急にどうしたんだ!」


「やっぱり……マリア姫に認めてもらうには、ドSになるしかないんだ」


「いや……そうとも限らないと思うんだけど……」


 そんな俺の意見を無視して、アーロンは俺に頼み込む。


「お願いだ! どうやったら、お前みたいにクズな行動を平然とできるのか、知りたいんだ!」


「……おい。さりげに俺のこと、馬鹿にしてんのわかってる?」


「とにかく、姫を喜ばせるためには、そういったプレイを学ばなければ!」


「……姫様も姫様だよな」


 まあ……こいつが思いを伝えるきっかけを作ったのは俺だ。最後まで、面倒見てやるか。


 ……でも、SMプレイを教えることって、助けになるのだろうか。


# # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # #


 再び、ギルドの中に戻ってくると……。


「あなたでもいいから! ほらっ!」


「うるせえ! さわんじゃねえ!」


 鞭を持ち、タクローにせまるマリア。


 そんな姿を見たアーロンはというと……。


「なあ。あのタクローってやつ、殺していいか?」


「落ち着けよ。どんだけ闘争心、強いんだよ」


 そこに、3人の少女たちがやってくる。


「いやあ、さすがはホモウ、1クール目は良い締めで終わりましたね!」


「ああ。この調子で2クール目も面白くなるといいな!」


「…………」


 ホモウの話をするルルとチェナ。その話に着いていけてないトンカツ。


「お前ら、何やってんだ?」


「私たちは、そこの市場で服を買っていたんです。品揃えがいいので、可愛い服がいっぱいあるんですよ」


「ああ。そうだな」


 確かに、あの市場ではよく立ち寄る。


「んで? ギルドにはどうして来たんだ?」


「まあ、たまにはユキナさんの演奏が聞きたくなるので……」


「そうか……」


 まあ、俺がここに来た理由も似たようなものだ。ユキナにバイオリンを教えなくてはいけないからだ。


 ……決して、どこぞの騎士団長にSMを教えるつもりなどいっさい無かった。


「……んで? ユキナが来るまではどうするつもりなんだ?」


「そうですねー。少し食事でも取りましょうか」


 そう言うと、ルルは二人を引き連れて受付のところに行く。まあ、トンカツがうまくやれているようなら良かった。


「うがああああああああああああああああ! お前ら、離れやがれええええええええええええええええええええ!」


 さっきからタクローが騒がしい。マリアとアーロンにからまれているようだ。


「まあ、あいつもうまくやれてるならいいか!」


「おい! カケル、てめえ! こいつらどうにかしやがれ!」

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