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第97話 王女様の怒り

 それから、二週間が経ち、俺は再びギルドにやってきていた。


「なんで、ここにいるんだ?」


 俺は、依頼状のある掲示板の前に立つその金髪の男に話しかける。


「……学費……」


「え?」


「学費が必要なんだよ! 学校再開するまでに」


 そう言い放ち、タクローは簡単な依頼を探す。どうやら、本人はこれからまっとうに生きるつもりのようだ。


 刑務所で何があったか知らないが、まあ良いことだろう。


「……えっ……と……この依頼が123タルだから……」


 一通り、依頼状を集め、計算するタクロー。その手には、なぜかそろばんがあった。


 ……やっぱ、この世界ユルユルだな。いろんなことが。


「おじゃましまーす!」


「……あ?」


 ギルドの入り口から、その女が入ってくる。そいつも金髪だった。


「……あ! 師匠!」


「…………」


 マリアは俺の側に近寄ってくる。


 俺はというと、なんだか話しづらかった。


「……師匠?」


 だって、相手はこの前振ったやつだよ? めちゃくちゃ気まずいよ?


「もしかして、まだあのこと気にしてるんですか?」


「……ああ」


 気にしないわけが無かった。


「まったく……変なことはちゃんと覚えてるんですね。師匠。……別に忘れても良かったのに……」


「……そういうわけには……」


「理由を……」


「……?」


「私を振った理由を聞いてもいいですか?」


「…………」


 理由と言っても……いろいろあった。


 まず、俺が4000年生きた中で、アンジェリカのように、様々な人の幸せを奪ってきた。そんな俺が誰かと付き合うなんて……。


「…………」


 ……考えてみたが、これも何かの言い訳な気がしてきた。本当は別の理由がある。


 最も重要な理由。それは……。


「……他に好きな人がいるんだ」


「そうですか」


 マリアは俺に尋ねてくる。その声は、なんだか軽いような気がした。


「……あのエルさんって人ですか?」


「……え?」


 え? え? え?


「いや……バレてないと思ったんですか?」


「だって、じゃあ……お前は……」


「はい。あなたがエルさんのことを好きだと知ってて告白しました」


 はい? なんで?


 てか……そんなに俺ってわかりやすいの?


「安心してください。たぶん気づいているのは、ステファニーみたいな注意深く見てる人と、あなたのことが好きな私ぐらいなものですから」


「あっ……そうなの? 良かった……危うく恥ずかしさで死ぬところだった」


 しかし、ある疑問が浮かんできた。ひょっとしたら、マリアにとっては聞かれたくない質問だったのかもしれない。


「じゃあ、なんで俺の告白を?」


「……それは……」


 マリアは遠くを見つめるような瞳で、話し出す。


「気持ちを……押さえられなかったんです。どうしても、あなたが生きている時に思いを伝えたかった」


「俺が……生きている時?」


「ええ」


 マリアは瞳を閉じ、俺の右手を握り言う。


「……あの時、あなたが父を助けに行く時、怖くなったんです。大好きな人が、死んでしまうかもしれないと思って……」


「死ぬなんて大げさだぜ。俺がそう簡単に死ぬように見えるか?」


「ええ。見えます」


「…………」


 ふざけて言ってしまった言葉だったが、マリアは真剣に俺に言い返す。


 その言葉は彼女の心から俺のことを心配する気持ちがこもっていた。


「師匠」


「……ん?」


「自分をもっと……大事にしてください」


「……何言ってるんだ? 人間なんて、いつも自分が大事だろうが……」


「いいえ。あなたはいつも他人のことばかり……。この腕の傷だって……もしかしたら、死んでいたかもしれないんですよ」


 しだいにマリアの声が弱くなっていく。思えば、右腕を失った時から、彼女はずっと俺のことを心配してくれていたのかもしれない。


 ……自覚は無いが、俺はいまだに無謀のままだったのだろうか。


「…………」


 いや……違う。


「……大丈夫だ。マリア」


「……はい?」


 俺は今、ここで自分に対して誓う。


「何があっても、絶対に俺は死なない。必ず帰ってきてやる」


「……それが一番です。あなたのためにも……。あなたを好きな人のためにも……」


「ん? 好きな人?」


「いえ……なんでもないです」


 マリアの声は元気そうになり、そう返す。


「……けっ」


 後ろで計算を終えたタクローが不満そうにしている。そういえば、あまり恋愛ごとが好きじゃなかったな。こいつ。


「……さてと」


 彼女は思い出したかのように俺に言う。


「師匠。……せめて、私のお願いを聞いてくれませんか?」


「……わかったよ。何をしてほしいんだ?」


 マリアは微笑み、それを言う。


「師匠の股間を蹴り飛ばしてもいいですか?」


「……あ?」


 こいつ……なんて言った?


 確か、俺の聞いたことが正しければ……股間を……。


 ドグシュっ!


「…………うっ」


 股間から腹にわたって、衝撃と痛みが伝わってくる。


 それは、彼女の怒りが伝わってくるようだった。


「……まあ……」


 マリアを振ったから……仕方ない……か……。


「ああ…………ふう……」


 あまりの痛みに感覚が無くなっていく。


 それにしても、やはりこの世界の女は、男の股間をもうちょっと大切にした方がいいと思う。


 じゃないと……本当に…………人類、絶滅するよ?

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