第95話 包帯を巻かれた少年
あれから、2日経った。
傷もだいぶ治り、『再演』を使わなくてもよい程度には動けるようになっていた。
「…………」
顔もなんとなく元気になっているような気がした。だが……。
「……アンジェリカ」
彼女が生きていたことが嬉しい反面、俺のせいでずっと苦しい思いをさせていたことが辛かった。
なんというか……すごく申し訳ない気持ちになる。
「……まあ……あとはコラちゃんに任せるしかないか」
どうも、神の使いに対しては非常に警戒しているらしい。なんでも邪神が現れてからは、神に関する出来事に慎重になっているらしい。
「カケルさん?」
「……おう」
病室にルルが入ってくる。
――包帯って、何かのプレイに使えるかな――
「……やっぱり、お前はそれが一番似合うな」
「へ?」
「でも、あらためて人の心は読むものじゃないってわかるよ」
特別に、ルルを連れて面会をさせてもらった。アンジェリカは素直にも、ルルの記憶を戻してくれた。
その時のアンジェリカの表情は以前に比べて、だいぶ気持ちに余裕を持っていた。誰かを殺そうとすることは、それほど心に負担をかけるのだ。
「まあ、ルルが元に戻ってくれたなら、いいか」
「…………」
すると、ルルが俺の手を握ってくる。
「……あの」
「あ? どうした? ルル」
「カケルさん。ありがとうございました」
「……お……おう」
あらためて言われるとすごく恥ずかしいな。
「カケルさん」
「……ん?」
「カケルさん」
「どうした?」
「……カケルさん!」
「……はい?」
何度も俺の名前を言う。わけがわからなかった。
「……やっぱり、カケルさんはすごいです」
「何言ってんだ?」
少女は微笑み、こちらを見つめる。
「……ちゃんと私の大好きが戻ってきてくれました」
「ああ。そりゃあ、記憶が戻ったんだからな」
「それだけじゃ……ないんですけどね」
「……ん?」
この子はいったい何を言っているんだろうか。
「カケルくん!」
突然、ウィルが部屋に入ってくる。
「君はなんでそこまで鈍感なんだい!?」
「……は?」
このロリコンは何を言っているんだ? でも、意味はわからないが、間違いなく欲望がこもった質問だと理解できる。
「すでに家に幼女を二人……見た目が子どもの合法ロリが一人。それなのに、またもや一人のロリっ子を好き放題しようだなんて……君は間違ってるよ」
「へえ。合法ロリって誰のことだか、聞かせてもらえる?」
「そりゃあ、もちろんレイラさ……え……?」
ウィルの後ろに修道服を着た女性がいた。どうやら、俺のお見舞いに来たようだった。
レイラさんは鋭い瞳でウィルを捉える。
「……少し……こっちでお話をしましょうか」
「……嫌だ」
突然、ウィルは部屋の外へ走り出す。
「嫌だ嫌だ嫌だ! あの時は極限状態だったから、耐えられたんだ! 今、受けたらマジで死んでし……」
ドシュっ
とある人物の足がウィルの足にぶつかる。その勢いでウィルは廊下に倒れる。
「うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
鼻をぶつけて悶絶するウィル。
「ウィル。さすがに彼女がいるのに、そういう行為は駄目だと思うよ」
「……母さん?」
シャーロットはしゃがみ、倒れているウィルに言う。
「だから、一回痛い目にあって……」
「……へ?」
後ろからやってくるレイラさん。彼女はウィルの脚をつかみ、一つの病室に連れていく。
「カケル君! 助けて、カケル君!」
「ウィル……お前、ステファニーを置いて死ぬなんて……許さねえぞ」
「カケルうううううううううううううううううううう!」
叫びながら、その病室へ連れていかれるウィル。そんな光景をあとに、シャーロットさんは俺のところにやってくる。
「うちの息子には困ったものだよ」
「……そう……みたいっすね」
「体調はどうだい? たぶん、そろそろ動けそうだけど……」
「おかげさまで、もう大丈夫そ……」
グギっ
「あいたたたたたたたたたたたたたたたたた!」
曲げた脚が悲鳴をあげる。同時に俺も叫ぶ。
「あんまり動きすぎない方がいいよ。まだ、脚の骨はボロボロだし」
「……ん? あんた、よく動けそうだと言ったな」
「カケル君なら、耐えられるかと……」
「いや、さすがに痛いのは嫌だよ」
シャーロットさんは困ったような表情をする。
「そうかあ。カケル君に頼みたいことがあったんだけど……」
「え? この状態の俺に何かさせる気? あんたをパワハラで訴えていいか?」
「いやいや、訴えるのは私じゃなくて、作者にしてよ」
「急にメタくなるなよ」
そんな中、ルルもシャーロットさんに言う。
「カケルさんの体は、今すごくボロボロなんでしょ! なら、休ませてあげた方が」
「はい。これ、あなたの好きなBL本」
「さあさあ、カケルさんなら、なんなりと使ってください」
おいおい。俺の体、BL本よりも価値が無いの? そろそろ泣いていいか?
「……んで? 俺は何をすればいいんすか?」
「そうだねえ。これはコラードちゃんから頼まれたことなんだけど……」
シャーロットさんは俺を指さし、言う。
「実は、魔王がいる刑務所。そこの監視を頼みたいんだって」
「……監視すか?」
「うん。なんでも、人がいないみたい。ちょうど今日コラードちゃんは仕事があるんだって。だから、代わりにカケル君が行ってくれると助かるんだけど……」
「…………」
正直、体を動かしたくない。
動かしたとしても、刑務所から脱走したやつを追える力が残ってない。そんな俺に、何かできるのだろうか。
「……んーと、コラードちゃんの話だと。なんか、魔王がその日、脱獄しようとしてるみたいなんだって」
……魔王あたりが脱獄したら、それはもう……。
「……は?」
「だから、魔王の監視をしてほしいんだよ」
「……は?」