第93話 向かう道
落ちてくる天井の破片は、勢いを増していく。
「アンジェリカ!」
体を必死に動かそうとする。しかし、まったく言うことを聞かなかった。
…………。
その時だった。
バヒュンっ!
「……え?」
魔法によって生まれた風が、その破片を吹き飛ばす。
「……いったい何が……」
俺とアンジェリカは風の方向を見る。すると、アンジェリカは驚いていた。
「……なん……で……」
そこには、腕を伸ばし、魔法を使った王様がいた。
「……どう……して……。私は……あなたのことを殺すつもりだったのに……」
「何を言っている」
王様は微笑み、その一言だけを言う。
「どんなに恨まれようと、王であるこの私が、誰かを見捨てていいわけが無いだろう」
「……う……ああ……」
彼女は……ひどく後悔した。今まで、王族というものは、残虐で非道な人間だと思っていたからだ。
だが……今、初めて王族の人間による優しさに触れることができた。
「私は……私は……」
そんな中、一人の人物が部屋に入ってきて、大きな声で言う。
「失礼します! 王様! ……って、やっぱりもうカケル君が終わらせてたんだ」
「……コラちゃん?」
そこには、騎士の鎧を着た少女(正確に言うと、男なのだが)がいた。
……鎧?
「……なんで、コラちゃんがここに?」
「へ? ……剣聖だから」
「……剣……聖?」
「うん。ボクは剣聖」
いまいち、よく役職がわからなかった。剣聖とは、どのぐらい偉いのだろうか。
「……うーん。国で数人の聖騎士を束ねる人ってところかな。まあ、そんなに深く考えなくていいよ」
そういえば、刑務所に面会に行った時も、近くにいたな。あれって一応見張りだったのか?
……えっ。つまり、コラちゃんって実はすごい人だったのか?
「んー。なんか、城、すぐに壊れそうだね」
「あー。それなら、俺が……」
「根元魔法……『タレスの選定』……」
「……え?」
コラちゃんがその魔法の名前を口にすると、近くの建物の破片が液体に変わり、壊れた部分にくっつき、修復していく。
「……なんで、コラちゃん『選定』使えんの?」
「へ? シャーロットおばさんに、そういう魔法があるって教わったから?」
「ええ……」
さすがにこれには困惑する。だって、物凄く計算しなくちゃいけないよ? 俺でも頑張らないとできないよ? あれ。
「さてさて……それじゃあ……」
コラちゃんは、アンジェリカのもとに向かう。そして、その手に手錠をかける。
「ひとまず、この子は一度、ボクたち騎士団で預からせていただきます。手薄な刑務所よりも、戦力のあるボクたちの方が見張るには良いので……」
「…………」
アンジェリカはもう、何か問題を起こす気は無さそうだ。
「……あの」
「はい?」
彼女はコラちゃんにあることを言った。
「最後に少しだけ……良いですか……」
そう言うと、王様の方を向き、お辞儀をする。
「……ありがとう……ございました」
彼女も王様に助けられて、思うところがあったのだろう。
そして、アンジェリカはコラちゃんに部屋の外へ連れていかれる。
……それから、しばらく経ったあと……。
「失礼します!」
部屋に……一人の男がやってくる。金色の鎧を着ているが、その顔を知っているため、あまりすごく見えない。
「よう……ウィル。お前も来てくれたんだな。ありがt」
「また、コラードに先を越されたあああ!」
「…………」
どうやら、ウィルはコラちゃんに対して、ライバル心を抱いていたようだ。
「……まあ、いっか。ところで、大丈夫かい? カケル君」
「いやいや、まったく体が動かせねえよ。さすがにそろそろ心も折れそう」
「うん。頑張ったね。肩を貸してあげるよ」
「……ありがとう」
ウィルの肩につかまり、歩いていく。一度、振り向き、王様の方を向く。
「王様。ありがとうございました」
「は? 助けられたのはこっちの方だが……」
「……王様のおかげで、アンジェリカは……もしかしたら変わることができるかもしれない。そのことを……本当に感謝したいんです」
「そうか……」
俺とウィルは、その部屋から出ようとする。そんな中、後ろからある言葉を聞く。
「……お前のような強い者なら、安心して娘を任せられる。頼んだぞ」
「…………」
その喜びの声に、俺は意見を言うことができなかった。
「……はい」
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…………。
…………ありゃ?
「……寝てたのか。俺」
そこは、おそらくある病院の部屋だった。またもや、俺はベッドで寝ているらしい。
「まったく……大丈夫ですか?」
「……ん?」
近くに座る少女がいる。それは、ウィルの妹、モナだった。
「……体が包帯でぐるぐる巻きだな」
「ですね」
「……ミイラみてえだ」
まったく体が動かせねえ。
「……お母さんが言うには、とりあけず2日は寝てないといけないみたいです」
「……逆に言うと、あの怪我が2日で治るのか。さすがはシャーロットさんだな」
確か、脚の骨が何本かイッてた気がするんだけど……。
「…………」
なるべく考えない方が良さそうだな。
「ところで、マリアやアーロンは大丈夫なのか?」
「……ああ。アーロンさんなら、隣の病室で寝ていますよ。マリアさんは……一度家に帰るって……」
「……そうか」
とりあえず、無事なら良かった。
「……『再演』」
「……えっ」
俺はその魔法でゆっくりと体を動かしていく。
「何やってるんですか!?」
「大丈夫だっての。この魔法も異常な動きしなけりゃ安全なものだから……」
「ですが……」
「少しトイレに行くだけだ。心配するな」
「……はあ。わかりました」
俺は歩き、その部屋を出ていく。
「…………」