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Fourth Baby Screams



 今後間違いなくやって来る地獄というものを感じたことはあるだろうか。

 確実にやって来る地獄に何の恐怖もせずにいられるだろうか。

 

 ゆらゆらと動く揺り籠が見える。

 何かが見える。黒い何かが。まるでこちらをせせら笑うかのごとき何かが。



 私は何を目にしているのか。

 私は一体何を目撃してまったのか。


 恐怖という鎌を、死神が、今、振り下ろした。

 死という概念が、もたげた。





 西暦二〇二〇年五月の上旬。

 史上初のオリンピックの延期が決定し、世界は今までにない未知のウイルスに犯されていた。

 これは比喩でも暗喩でもない。

 物語上の作り話でもフィクションでもない。

 現実だ。

 世界は混乱し、経済が大きく衰退する。間違いなく、今、私たちは歴史に残る大きな事件の渦中にいる。

 本当に、私も含め、共闘が必要だと感じる。



 そしてそんな世界の混乱の最中、私はより早く訪れる混乱に身をやつしていた。


 未知のウイルスによりリモートワークとなった私は五月上旬、家で仕事をしていた。

 のんびりと座り、仕事をしていたそんな時だった。


「……?」


 ふと、視界の端に何か動く黒い物を発見した。

 だが、私の大敵、コキプリではない。だとすれば、あまりにも早すぎる。まだ五月の上旬。そんなわけがない。

 

 小さな虫だった。

 黒く、白い線の入った、小さな虫。爪よりも小さいほどの、小さな小さな虫。


 ただの虫なら良かった。

 

「え…………」


 その黒い虫には、長い触角が生えていた。

 虫を撃滅した私は仕事が終わり次第、すぐさまスマホを開いた。

 

 そんな。

 馬鹿な。

 嘘だ。

 違う。絶対に違う。私の勘違いだ。そんなわけがない。


 そんな子供の戯れにも似た、かすかな希望を持ちながら、コキプリの赤ちゃん、通称コキプリベイビーのことを調べた。


「あ、あああぁぁぁ……あぁぁぁぁぁ……」


 うめく。泣き叫んだ。

 泣き叫ばざるを得なかった。


 私が調べたスマホには、先に見た虫と全く同じ写真が、コキプリベイビーとして紹介されていたのである。


 この時、既に私は悟る。

 もう今までの生活には戻れないのだ、と。

 未知のウイルスにより世界が混迷を極めている最中、私の家はさらに混迷を極めているのだと。


 地獄が、開園した。


 軽く調べてみると、コキプリベイビーは基本群れで行動するらしく、単体でコキプリベイビーを見た場合は群れからはぐれた場合が多い、とのことだった。

 そんなことを知りたいわけではない。 

 誰が好き好んで最悪の敵、コキプリのことを調べなければいけないのか。

 だがこれを見ている皆さんはコキプリベイビーのことが分かっただろう。

 

 そして。


 重要なことはここからだ。


 コキプリベイビーを家の中で発見した場合、家の中で産卵をしている可能性が高い。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」


 嗚咽。目じりから流れる涙が頬を伝う。

 感じたことのない恐怖に身がふるえ、縮こまる。

 最悪だ。

 最悪だ。

 最悪だ。


 口元を手で押さえ、吐き気を抑え込んだ。


 私の家は現在、コキプリの住処となっている。


 前回の執筆から一年が経った。

 続編を書くほどではなかったため、何も書いてはいなかったが、実は前回、扉の隙間をするりと抜けて行った超巨大コキプリ、コキプリマザーはその後すぐに私の設置した罠にかかっていた。

 死んでいた。


 だが、そのコキプリマザーが私の家のどこかで子をなしていたと考えれば不思議はない。

 

 そしてコキプリベイビーを見つけてから約一カ月。

 これまで幾度となく死線を潜り抜けてきた。

 迫るコキプリベイビー、撃滅するSランク冒険者、利苗。

 

 一度コキプリベイビーを目にしてからコキプリベイビーは後を絶たず、既に二十は撃滅した気がする。


 巨人を前にして「数をちょろまかすなよ?」と息巻いていた進撃の主人公に伝えればどんな顔をしてくれるだろうか?

 笑うだろうか。

 きっと、寂しい顔で苦笑するんだろう。


 数はちょろまかしてはいない、と思う。


 私は既に大量のコキプリベイビーを撃滅した。爪より小さいくらいの大きさなら、コキプリベイビーでもそこまで怖くはない。

 が、あの触覚がコキプリマザーを想起させる。

 

 怖い。怖すぎる。


 今、私の家は完全にコキプリにむしばまれている。

 いや、虫ばまれている。


 おそらく、この部屋にはこの家の住人の百倍以上の住人がいるんだろう。

 単独ではぐれたコキプリベイビーだけで二十となるといよいよ本格的にまずい。


 そしてその二十匹の大まかな出所が分かった気がする。


 リビング。

 そして執筆している今、この場である。


 なのに、何もわからない。

 どこから孵化したのか、全く分からない。小さな隙間こそあるものの、卵なんて大きなものがあればすぐにわかりそうなものなのに。

 

 コキプリベイビーは、今執筆しているこの近くで見ることが多かった。

 最悪な時は一分で二度同じ場所でコキプリベイビーを撃滅した。


 一体どういうことなのだろうか。どこに潜んでいるのだろうか。

 全く分からない。


 助けて欲しい。

 切に、助けて欲しい。


 そういえば女友達の……いえ、正確には友達ではなかったので、女の子の知り合いよあの子は、コキプリが家に出た時は気になっている男を呼んで倒してもらえばいい。ロマンスが発展するから、というようなことを言っていた。

 

 彼女はコキプリを倒してもらい、そして男も手に入れていた。

 恐ろしい女だ。コキプリさえもラブコメに使うその神経の図太さを感心したものだった。


 そんなことを言っている場合ではない。

 最近はほぼ毎日、どこかでコキプリを撃滅している。

 罠も大量に購入した。

 今私の家には既に二十を超えるコキプリトラップ、そしてコキプリ薬品が揃っている。


 どこから来ても安心だと思いたいが、事実、そんなことはない。


 なんでこんなことになってしまったのか。

 本当に泣きたい。

 本当に怖い。


 これが、今後必ずやって来る地獄。

 このペースでいけば六月の下旬には、毎日成虫、コキプリアダルトと敵対することになる。


 嫌だ。絶対に嫌だ。

 怖い怖すぎる。誰か助けて欲しい。

 本当に嫌だ。


 私はどうすればいいんだろう。


 最近はコキプリの恐怖に怯え、夜もまともに寝られない。

 夜寝ている時にこのベッドに成虫が潜り込んでくるのではないか。

 そもそもこのベッドは安全圏なのか。

 そんな考えがずっと脳内をくるくるとしている。

 

 実はベッドの手すりみたいなところで一度コキプリベイビーを見かけたこともある。

 いわんや成虫をや。


 本当に、最近寝れていない。

 コキプリのせいで、寝れていない。


 もし今後私の更新が滞ることがあったらば、察してほしい。


 利苗はコキプリに殺されたのだ、と。


 世界に、幸あれ。


 そしてコキプリに、鉄槌あれ。





 続(かないでほしい)。









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