Second Impact
皆さんこんにちは、利苗です。
本当はこの二回目のコキプリとの遭遇を描きたかったのですが、思った以上に一回戦が盛り上がり、分けることにしました。
前提条件は一回戦と同じです。それでは二回戦、本編どうぞ。
■ Second Impact
それは、本当につい先日のことでした。三連休を前にして盛り上がっていた私は、その夜、後悔することになりました。
今までの、といってもこれが二回目なのですが、今までのコキプリが可愛く見えてくるほどの体験でした。
前回の遭遇は前座で、今回こそが本番なんだと、そう思わせるほどでした。
夜。
時計の短針が十二を指そうとしていたその時、私は小説を書いていました。暇だなあ、と思いながらなんとなく書いていると、唐突にそれは現れたのです。
「……?」
目の端に、何か動くものがあったのです。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」
そう、コキプリです。
今回コキプリは後ろを歩くなどの狡猾な戦術をとるでもなく、ただ私の真横を歩いていました。彼我の距離、数十センチ。手を伸ばせば届く距離に、そいつはいました。
そして、大きい。
今までのそれが子供だとすれば、今回のそれは大人。
百人にコキプリを想像してください、と言えば九十人が想像するような、そんなテンプレじみたコキプリでした。
私は発狂し、叫びながらベッドの上へと飛び乗りました。
「あ、さっきの文章保存したかな?」
そんなどうでもよいことを考えているうちに、コキプリはメモ帳代わりにしていた紙の中に埋もれていきました。
「これはまずい」
メモ帳、ネタ帳は大事です。コキプリの体液で汚すわけにはいきません。
私はを遠くから棒を使い、メモ帳の山を押しました。
途端にコキプリはその中から出て来、相手の攻撃の届かない安全圏にいたのにもかかわらず、私はまた叫びました。
今回も身ばれを防ぐため、私の作品内、大野君の言葉で実況をお届けします。
『これはあかん』
『一番あり得んところからコキプリ出て来た』
『これは徹夜コースや……』
私は安全圏のベッドから『セルファー』に投稿しました。投稿する前にコキプリを探せばいいのでは、と思われるでしょうが、まあその通りでしょう。
ですが、今回の私は前回とは一味違います。突然の来襲にあたふたしてスーパーまで行くなんてそんな愚行はもうおかしません。そう、私には武器があったのです。
三個の虫捕り網に一個のコキプリズン。そして各所に設置してあるコキプリズン。
私は虫捕り網一つを持ち、コキプリズン一つを組み立て、設置してあるコキプリズンを二つ持って来ました。
そしてコキプリが逃げた場所を、一メートル以上離れた場所から虫捕り網を使って押したりつついたりしました。
ですが。
「……」
「……」
何も出て来ませんでした。その場にあった紙などを全てどけてみても、何も見つかりませんでした。
そうです。
私は、またしてもコキプリを見失ったのです。
『【悲報】コキプリ、姿を見失う』
『もうこのベッドの上だけが聖域や。ここだけはなんとしても死守せなあかん』
私はベッドの上で震えながら、コキプリを探していました。コキプリが逃げたかもしれない場所を隈なく探しましたが、いませんでした。
『どうしたらええんや』
『今が人生で一番、掃除しとけば良かった、って思っとる自信がある』
そうです。前回コキプリが出たことに加え、本も既に収納できるレベルではなかったということもあり、私は引っ越しをしていました。そしてその広さに甘え、自分の身近な場所にメモ帳や落書き帳などを置き、掃除をさぼってきたのです。
ゴミにあふれてこそいない物の、私の机の周りだけはどうしようもないことになっていました。
新しい家はどちらかというと都会から遠く、広い家に安い家賃で住むことが出来ました。
『かなりしっかりした、ガチ物のコキやった』
『こういう時に寝れんのが俺の良い所でもある。もう諦めよかな、コキプリズン設置したし』
そうです、私は虫捕り網を持ったまま、眠ろうとしていました。前回と同じ道を辿ろうとしていたのです。
『明日一日かけて家掃除する必要がありそう』
『このリビングでコキプリのコロニーでも発見しようものなら、俺は首をつって死ぬ』
『なんで前の家より上の階住んどんのにコキプリ出んねん』
『俺はこうして今日も、水面下でコキプリがいることを知りながらのうのうと眠らなければいけないのか』
『社会経済と同じやな』
『未来のコキプリ』
そう、その日は金曜日。丁度テレビで映画を見ていた所でした。
『コキプリが一匹出て来たっていう、たったそれだけで著しい精神の摩耗や』
『うかうか地面に足つけれねえ』
コキプリを探すのに飽きた私はベッドの上でテレビを見ながら投稿していました。
『外で見た時は気持ち悪いなあ、くらいしか思わんけど、家で見た時の恐怖がヤバすぎる』
『今この家が世界で一番盛り上がっとる自信ある』
テレビを見ながら投稿して、ぼんやりしていた時です。
「~~!」
数メートル離れた眼前の壁で、大きな大きなコキプリが動いているのを見たのです。
今まで私は、コキプリは壁を這いあがれないものだと思っていました。
それが故に前回の家でも安心して眠れました。まさか壁を這うことが出来るとは、知りませんでした。いとも簡単に壁を自在に動き、その大きなコキプリはカーテンの後ろに姿を消しました。
もし向かいの家の人が私の部屋を見たならば、間違いなくこの部屋は修羅場だろうと分かったでしょう。
カーテンの後ろからはコキプリの姿が見えるのですから。
『さっきコキプリが壁に張り付いとるん見てもたんやけど、これは無視できるサイズじゃないわ。デカすぎる。女王や、確実に』
私はすぐさま投稿しました。
『しかもめっちゃ余裕で壁上っとったわ。これはおちおち寝とられん』
すっかり眠るつもりだった私は、起きておくことを決めました。そして本腰を入れてコキプリ退治をすることにしました。
『コキプリの逃走経路になりそうな道を予め予測し、あえて道を開けさせ、そこにコキプリズンを置く』
私は先ほどコキプリがいた場所から全ての荷物をどかし、開けた場所にコキプリズンを置きました。
『焦ったコキプリは一目散に、相手の死角になるコキプリズンに入る。
笑止千万!
それこそが、俺の策略!』
『そういう道筋を立てた』
一方私は、自分の策略を得意げに投稿していました。
『令和の諸葛孔明とは俺のことや』
『CRフィールド、展開!』
『さっきコキプリが壁に張り付いとったところにコキプリズン放り投げてセルファーしとる』
私はまた投稿していました。
そして暫く。
カサカサカサ、と音がしました。
カーテンの奥から、コキプリズンの中から、音がしました。
『なんかすげぇカサカサいっとるんやけど。なにこれ』
私はもしかするとコキプリズンの中にコキプリが入ったのではないか、と思いました。
『おのれ孔明! 死してなお我の邪魔をするのか!』
私はまた、コキプリズンの中をあらためることなくテレビを見始めました。
『テレビでも見るか。もう俺に出来ることはない。というか確認するのが怖すぎる』
と言いながら、カサカサとする音は継続的に聞こえてきます。
『これ、コキプリズンかかったんじゃね……?』
半ば、確信していました。
『一体今コキプリはどこにおるんや?』
『プリズンの中なんかもしれへんけど、迂闊に触って出てくるんが怖すぎて手をこまぬいとる』
『今この世界で俺が一番神経尖らせとる自身ある』
『今なら三百キロ先で水を飲む蟻の音まで聞こえる』
そして勇気を出して、コキプリズンを覗きました。
コキプリは、コキプリズンにかかっていました。
『コキプリは、コキプリズンにかかっていた。
こんなにも
かんたんに。
かかっていた』
『壁に張り付いたからコキプリズンを投げる。こんな小学生じみた考えに、コキプリは、やられた』
『馬鹿が……早まりやがって……』
『こうして、俺とコキプリの戦いは幕を閉じた。コキプリは最新科学、いや、むしろいたってアナログな古代の兵器に、やられることになった』
『問題はこいつがコキプリズンから出てくるんちゃうか、ということや』
私はコキプリズンの中は見れても触れまでは出来ませんでした。
『さっきからカサカサいっとるしデカいし、自力で抜け出してくる可能性ある』
そう言っている間にもかさかさと音は鳴っています。
私は精いっぱいの勇気を出し、日本の虫捕り網を箸のように扱い、ナイロン袋の中にコキプリズンを入れました。
『コキプリをナイロン袋の中に閉じ込めた。さようなら、コキプリ』
『こうして、二時間半にわたるコキプリの決着は、圧倒的な俺の勝利により、幕を閉じた』
『人生で二戦目になるコキプリとの戦い。辛い戦いだった……』
『ただ、一番でかい問題が解決してへん。こいつが、どこからやってきたか、ってことや』
『リビングに入って来た、んか、リビングにコロニーがある、のか。コロニーになりそうなもんはないけど、明日調べてみよう』
『それにしてもコキプリズン、恐ろしい玩具だ。これはダンジョン攻略の役に立ちそうだ。今度フィオラたちのために十個ほど買って帰ろう』
こうして私とコキプリをめぐる戦いは、幕を下ろしました。
そして翌日。
『まだ俺は昨日のコキプリショックから抜け出せてない』
『常にどこかにコキプリがいる感覚がある』
『世界三大ショックの一つ、コキプリショック』
『株価めっちゃ下がるかと思ったわ。世界経済が揺れかねんわ』
これからしばらくは、私はコキプリの恐ろしさに悩まされ続けなければならないでしょう。
『コキプリで検索して、皆の悲鳴を閲覧しとる』
コキプリに勝った私はコキプリに悩む国民の声を聞き、優越感を感じていました。
今後このような悪人が征伐される平和な世の中になりますように。
完