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First Encount


 皆さんこんにちは、利苗です。唐突ではありますが、皆さんGというものをご存知でそうか。

 それはギガでもグラムでも、ましてや重力加速度でもありません。 

 そうです、夏になればどこからともなく沸いてくる、黒光りするあれ、ゴキブリです。


 そのあまりのおぞましさにある人は業を煮やし、ある人は名前を聞くだけでも総毛立つほどの、国民的嫌われ虫です。名前を言ってはいけないあの虫とすら言っても過言ではないでしょう。

 ゴキブリというと名前だけで既に恐怖の対象となりそうなので、今回ここでは今後この虫のことをコキプリと言わせて頂きます。

 コキプリと言うと、なんとなく普段は寡黙で、前髪の長い静かな女の子を想像するでしょう。そして可憐な魔法少女に変身し、空を駆けることでしょう。


 というのも、先日、私の人生でも二回目となるGとの遭遇があったからです。今回その恐怖を克服するために、書きしたためている限りです。煮えたぎるパトスと憤怒の奔流に身を任せ書いている次第です。

 今回はその一部始終をお届けいたします。

 私はコキプリが出てきた際に大規模SNSアプリ『セルファー』で投稿する癖がありますので、今回はその私の投稿内容と共にお伝えいたします。


 私の口調と文体をそのまま使用するのは身バレの恐れがあるので、投稿内容は今回は私の心の友達、大野幸二郎君の口調で読んでいただきます。


 それでは、本編どうぞ。



■ First Encount


 それは、私がまだ十二畳一間の部屋に住んでいた時の話です。当時、都心に近い所にんでいたということもあり、私は倹約のためこじんまりとした家を借りていました。

 そのころから本が好きだった私は、十二畳一間のその部屋に千を超える本を置いていました。今でこそ電子書籍に切り替えつつありますが、当時まだ電子書籍はあまり有名ではなく、ただただ大量の本に私の生活スペースを取られつつありました。


 一間に生活する全てがあったので、皿洗いをしながらニュースを聞いていたりと、中々利便性は高かったです。

 そして、ある夜。

 パソコンで絵を描いていた時、私はかすかな違和感に気付きました。


 前に何かが見える訳でも、横に何かが見える訳でもありません。ましてや音がするわけでも、ありませんでした。


 ただ、何かの違和感があったのです。これを、シックスセンス、第六感というのでしょう。


 人が何かの特殊能力に目覚める時というのは、どういう時でしょうか。

 

 それは、敵に攫われたヒロインの女の子を救出するときでも、草葉の陰から見守ってくれている祖父との約束を果たす時でも、親友を守るため敵の猛攻に侵されているときでも、ピンチの際に突如目覚めるものでもありません。


 そう。


 私はふと、後方を見てみました。


 それは、後方にコキプリがいたときです。


「~~~~~~~~~~~~~~~!」


 私は大声で叫びました。

 幸い防音だけはきちんとしていた家だったので、あまりこの大声も聞こえなかったことでしょう。


 突如としてシックスセンスに目覚めた私は後方で音もなく動くコキプリに気付き、すぐさま安全圏であるベッドの上へと逃げました。

 今でも、私と目が合ったコキプリの姿を思い出します。

 「やあ」と、彼が気さくに挨拶をしていた気がしました。


 私の悲鳴に驚いたコキプリはベッドの下へと隠れこみ、私は姿を見失いました。


 そして、私はこの時、自分の失態に気付くのです。


「武器がない……」


 私は、無手でした。

 それは、彼を相手にするには余りにも下策。準備を怠って来た戦士が助かろうはずもありません。

 私は死を覚悟しました。

 だが、ここで終わる私ではありません。コキプリが逃げる可能性も考えながら、最寄りの24時間スーパーですぐさま武器を購入し、再度家へと戻ってきました。


 そして、私はまた奴の退治に身を乗り出しました。


 コキプリは知らない間に、姿を消していました。

 私は、生き物を殺すのが苦手です。生き物の命を自分の手で終わらせるのが、苦手なのです。出来れば私の目のつかない所でひっそりと絶命して欲しいという、どうしようもない願望があったのです。


 また、ベッドの下には大量の本が段ボールに入れてあったので、コキプリの体液が万が一にも本に、段ボールに付着するようなことは避けたかったのです。


『コキプリが消え去ったんやけど、これどうなってんねん』


 私は『セルファー』に投稿しました。


 投稿しながらベッドの上で市販のコキプリ退治用品、『コキプリズン』を組み立て、そこらに置きました。


 そしてコキプリに最大限有効な武器が、洗剤入りスプレーだったと思い出し、すぐさま作りました。

 私は恐らくコキプリが隠れたであろうベッドの下に、スプレーをまき散らしました。姿こそ見えないものの、何らかの効果はあると期待しました。


『洗剤入りスプレーですっげぇ動き鈍くなったと思って物陰見ても何もないんやけど、これほんま何? 生きとん? 死んどん? どこにおるん?』


 私はコキプリの姿を見失いました。


『ほんまにコキプリどこ行ったんや?』


 連投。


『時をかけるコキプリ』


 私は手段を失いました。


 もはやどこにいるかもわからないコキプリ、私にできることはありませんでした。

 その後ベッドを壁から離し、厳重に何も入ってこれないようにした後、寝ました。


 コキプリがいることを分かっていながら寝れたのは正直どうかしていたと思います。

 ですがこの時私は私生活が忙しく、寝不足で耐えられなかったのです。


 コキプリズンを設置し、明日の朗報を期待して、寝ました。

 


 そして翌日。


『コキプリズン設置してからこの中あらためるんすげぇ怖いわ。もしかしたら俺は開けてはならない、パンドラの箱を開けようとしとんかもしれへん』

『禁断の果実を口にし、知識を得た俺たちはコキプリズンというパンドラの箱を作ってしまった。俺たちは口にするべきじゃなかったんかもしれへん、禁断の果実を』

『そもそもノアの箱舟にコキプリを乗せたこと、それが俺たちの最も大きな過ちだったのかもしれない』


 恐怖から、連投しました。


『いざ中見てみてゴールデニアファミリーみたいなっとったら恐ろしいからな』

『そもそもコキプリって名前が気持ち悪いねん。リンネ、とか可愛らしい名前ならまだ愛着もつきようものを。なんやねん、コキプリって。濁音だらけやんけ。気持ち悪さが凄い』


 とにもかくにも見なければ話は進みません。私は意を決して、中を覗き込みました。




 いた。



『取り逃がしたコキプリがコキプリズンの中に捕まっとった。これで安心して生活できるけど気持ち悪い。いや~、スーパー行って買ってきてよかった』


 コキプリは、コキプリズンの中に捕まっていました。

 そして家の中を隈なく探してみましたが、コキプリの巣や、それに関するものは見られませんでした。


 一体あれは何だったんでしょうか。

 

 今でもあのコキプリは私の中で、生きているのかもしれません。









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