私は誰?(哲学)
「よく、寝たな。」
いつも通りの時間、いつも通りに目が覚める。
軽く伸びをして外を見る、日が上り始めて空の藍色が段々と明るいものになっていた。
さぁ、今日もいつも通り訓練をして勉強をしよう。
いい王様になるために、皆のお手本になるために。
そう思って寝台から降りたその時
「…違う。」
違う違う違う!!!
何自然にやってるんだ私!
私はそんなの知らない!
猛烈な違和感にはっと気づく。
私は私じゃない!
■■■だ!現代日本で暮らす日本人である!
(あーもう!寝ても解決しないんかい!知ってた!)
またもや鏡の前に行き自分の姿を確認する。
水色の寝間着を着て黒い真っ直ぐな髪を下ろした美少女がいた。
『アイス』の真ヒロインにしてラスボスのソフィアだ。
「ん?」
昨日とは違った違和感がある。
自分の姿では無いのに、私には鏡に写った姿も『私だ』と思う。
「あれ?」
(いや、でも私はソフィアだ。)
意識が混ざっているのか。
どうやら今の『私』にはソフィアともう一人の意識があるらしい。
(いやいやいやいや、落ち着いて分析してる場合じゃなくない!?)
いや、逆に冷静になる場合だろ、ここは。
(ひ、一人突っ込み…。こいつ、やるな…。私だけど。)
取り敢えず、現状整理をしよう。
昨日はいつもと変わらなかった。
就寝後に手洗いのため目覚めた時にもう一つの意識が生まれた感じだ。
そちらは?なんとなく分かってはいるが。
(いやぁ、さっぱりっすわ。自分、日本人なんですけどご存知で?)
そっちの知識は共有されているみたいだ。
頭が痛くなりそうだが『アイス』とかいう漫画の知識も入ってきている。
(うーん、私普通の社会人だったような?あれ?なんか…)
記憶が曖昧になっているな。
自分の名前が上手く思い出せない。
(うえぇ、思い出せないー!)
いやいや、落ち着け。
君が狼狽すると身体にも影響する!
(これってあれ?身体は一つでも心は二つみたいな?)
何言ってるんだお前は、とは思うがなんとなく理解出来てしまうのが地味に辛いな。
(お願い?馬鹿にしないで?)
安心しろ、身体も心も一つだ。
状態としては私、ソフィアの中に突然お前の記憶が生まれたって感じだろう。
いや、突然出てきても異物感がほぼ無い、元からあったものを思い出した、といった方が正しいか?
(わー、私では絶対分からないはずのことが分かる~。なんだこの感覚~。)
私も理解できないレベルの阿呆の気持ちが分かるぞ~、凄いな~。
…二重人格というわけでもない、人格は融合しているが考え方が違うから別れているように感じるのだろう。
もう一つのお前も『私』だ、という感覚がある。
(あー、私もあなたが『私』だって感じるわ。)
まぁ、人に報告するほどの不都合はないだろ。
(えっ、誰かに……、あー無理か。)
そういうことだな。
暫くは私の方を主体でやらせてくれ。
今後については落ち着いてからかんがえよう。
そう考えをまとめたところで
コンコンコン、扉を叩く音がする。
考えながら着ていた訓練服の最後の釦を締め、身なりを確認し入室の許可をした。
「おはよう、アマリア。今日も時間ピッタリだ。」
「おはようございます。ソフィア様、さぁお湯をお持ちいたしましたよ。」
ニコリといつもの様に侍女のアマリアが笑って部屋の洗面器にお湯を入れてくれた。
アマリアは私の乳母でもあった女性で、綺麗な金髪が自慢の美人だ。
「もう、いつも顔を洗ってからお着替えくださいと申し上げておりますのに。」
「そうしたら、アマリアは着替えを手伝おうとするだろう?何度も言っているけど自分で出来ることは自分でしておきたいんだ。」
顔を洗い、もう一度鏡を確認する。大丈夫、いつも通りの隙の無い私がいる。
さぁ今日も1日頑張ろう。