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第八話 初任務

 青々と雄大に広がる空を見上げ、久々に見た太陽は、地下の部屋を天井から照らす謎の物体よりもかなり明るく、暖かい。

 直視することはできず、顔を真正面に向けると、今度は対照的に一面に緑色が広がっている。

 見渡す限り樹々の生い茂った葉で、本来存在するはずの地表を覆い隠している。暑いと感じる程に遥か上から照り付ける太陽が自然の成長を促進しているのだろう。


「綺麗でしょ? 太陽が沈むころには夕焼けが全体を赤々と染め上げるの。任務が終わって、ここに戻ってくるのは大体夕方くらいかな。楽しみにしておきなさい」

 

 目の前の景色にくぎ付けになっている俺に、アメリアはだいぶ上からそう教えてくれた。

 しばらくは上下関係がハッキリしそうだと思いつつ、垂直に切り立つ崖のギリギリまで近づき、視界全体で大自然を収める。

 上は青、下が緑。そして、振り返ってホワイトレべリオンの拠点に続く階段の方に目を向けると、今度は灰色を中心とした殺風景な景色が広がっている。

 俺が今立っている冷たくて固い物質で構成された地面は明らかに石でできている。

 真下に広がる森までは千メートルはありそうだ。

 どうやら敵に見つからないように、拠点は岩山の中にあるようだ。

 地下という言い方も、階段から外に繋がるこの場所を地表としての表現だろう。

 

「景色はいつでも見れるし、さっさと任務に行きましょう」


「でも行くってどうやって?」


 階段から出た開けた空間は空と森が見える断崖絶壁の他に外に繋がる道がなく、固い岩で覆われて薄暗い。

 ここからだと永遠と森が続くだけで、人や村、ましてや国の気配はなく、どこにいるのか全く見当がつかない。拠点というだけあって、敵に見つからないような立地になっているのだろうか。

 どこかに下に降りる道が隠されていると予想し、辺りを捜索していると、アメリアに俺の新品のローブの襟を掴まれる。

 そのまま物凄い力で引っ張られ、後ろ向きで引きずられる格好になる。

 

「ちょ、ちょっとやめて! 自分で歩けるから! ローブ伸びちゃうから!」


 俺の抵抗もむなしく、アメリアは俺を引きずりながら、唯一外に繋がっている崖際に歩いていく。

 まさか……ね。

 いくら魔人と言っても、千メートルはあるだろう崖から飛び降りるなんてことはしないはず……。

 脳裏に浮かんだ一つの可能性を首を激しく横に振って振り払う。

 次の瞬間、俺の足が地面から離れて宙に浮いた。

 そして、そのまま重力の法則に従って、鋭利な枝が待ち構える森の中に急降下――いや、急落下する。

 今はもう止まっているはずの心臓がキュッとなり、声を上げる余裕もなく、ただただ下に落ちる。

 魔人は死なないというが、外傷はどうなるのだろうか。

 この距離から落ちて死なないとしても、生身のままの以上は骨はバラバラに砕け、肉はズタズタに切り裂かれるだろう。

 そんなの絶対痛いに決まっている。アメリアに腕を掴まれただけでも痛みを感じたんだから、痛覚があることは実証済みなのだ。

 ついさっきまで上から見下ろしていた緑が目前に迫り、衝突を覚悟して強く瞼を閉じる。


「……?」

 

 目測では森に突っ込んでいるはずだったのだが、十秒経ってもその瞬間は訪れない。

 それどころか謎の浮遊感を感じ、重力に逆らって上昇している感じがする。

 ゆっくりと目を開けて、俺を右腕一本でぶら下げているアメリアを見上げると、ローブを纏う背中から真っ黒い靄が出ている――正確には生えている。よく見ると、肩甲骨辺りから生えている二つのそれは翼の形をしている。


「こうやって行くのよ」

 

 俺を見下ろしながら、アメリアは背中の黒い翼を羽ばたかせて浮いている。

 信じられないが、アメリアは背中の翼で飛ぶことができるらしい。

 魔物が纏っている、吸収する魔力と放出する魔力が衝突することで高密度になり、視認できるほど濃くなった黒い靄。

 それと同じであろう靄がアメリアの背中から出ている――つまり魔力がアメリアの翼を構成しているようだ。

 

「いろいろ聞きたいことがあるんでしょ? ここから目的地まで十分ってところかしら。どうぞ、その間好きなことを聞いて」


 アメリアは喋りながら、ゆっくりと前に進み始め、見る見るうちに翼の振動が早くなり、やがて物凄いスピードで空中を飛んでいく。

 風圧が顔面を直撃し、目どころか口も開けられない。

 命綱であるアメリアの右手に両手でしがみつき、振り落とされないよう必死に食らいつく。

 鳥のように翼を広げて飛ぶという小さい時に見た夢が現実になっているのだが、実際体験すると、感動や喜びよりも不安や恐怖がだいぶ大きい。

 五分程経って移動スピードが落ち着き、飛行に少し慣れた俺はようやく目と口を開けることができた。


「さっきからだんまりだけど、どうしたの? まさか飛ぶの怖かった?」

 

 ニヤニヤと見下されたあげく、図星を突かれ、言い返したかったものの、俺の生命線である両手の運命はアメリアが握っていることを思い出して言いとどまる。


「目的地はどこ!」


 代わりにずっと答えてもらっていない質問をぶつける。

 移動中に聞けと言っていたアメリアは少し時間を置いた後、ようやく俺の質問に答えてくれた。


「トイトピー村よ」


 それは俺の故郷。そして、魔物によって滅ぼされた村の名前だった。

 


 

 




 

第八話を最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

いよいよギルバートの初任務編が始まります。

そこまで長くはなりませんが、いろんな新展開が待っているので楽しんでもらえると幸いです。



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