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第四話 魔物

 アメリアから伝えられた事実は驚きではあるが、薄々わかっていたことだ。俺が斬り落とした魔物の首は黒い靄が晴れ、そこには普通の人間の頭が転がっていた。

 衝撃の事実を伝えたはずが、リアクションが薄い俺を不思議がっているのだろう。アメリアの首が斜めに傾いている。

 短く理由を伝えると、なら話が早いと、また説明を始めた。


「死んだ人間は魔臓に溜めこんだ魔力を全て放出するの。生きている間は口を通してしか魔力は出入りしないんだけど、心臓が止まるとのと同時に全身から魔力を通すようになるの」


 紙の上に描かれた白い人間の一人に、魔物に描いたのと同じく全身に外側に向かう矢印を書く。

 されに顔の目の位置にバツが二つ書き込まれたのは死んだことを表すのだろう。


「これが人間の死。心臓が止まり、体内の魔力が全て放出されて生命活動が終わる。全身から漏れ出る魔力はもちろん透明だから見えないよ。だから、一般的には心臓が止まって死とされる」


「その言い方だと、本当の死は違うみたいな感じですね」


「ギルバート君は話が早くて助かるよ。その通り、心臓が止まって死ぬわけじゃない。魔臓から魔力が全て無くなって始めて死ぬんだ。といっても、一般人が生きている間に吸収する魔力と放出する魔力の差は微量だから、魔臓に溜まっている魔力が全て無くなるのは心臓が止まってから、たった数秒以内なんだけどね」


 アメリアが紙上の黒い人間の頭と胴体の間に横線を引く。


「魔物が(まと)っている黒い靄が魔力って話はしたよね。君が落とした魔物の首の黒い靄が晴れてたって話、あれは首から上が魔臓からの魔力の供給を絶たれたからなんだ」


 今度は消しゴムで、引いた横線の上――つまり頭の部分を塗りつぶしていた黒色を消していく。

 アメリアの説明で、段々話が見えてきた。

 魔物の正体が死んだ人間。そして魔物の全身に見える黒い靄は魔力。つまり、魔物とは心臓が止まった人間が魔力を全身から放出している状態なのだろう。

 ただ、ここまでの情報だけでは説明がつかない。魔力は透明という話だし、死んでから魔臓に蓄えられた魔力が尽きるまでは数秒という話だ。俺が対峙した魔物は少なくとも数秒以上は黒い靄を纏いながら動いていた。

 ここまで気になることを我慢してアメリアの進行に任せていたが、終わりの見えない話を聞き続け、この疑問を放置するのは気持ち悪い。

 素直にアメリアに聞いた方が早いと確信する。


「なぜ透明なはずの魔力が魔物の場合黒いの? あと、魔力の放出がずっと続くのはなんで?」


 思わずレオに対して質問するように聞いてしまったが、少し引っかかったようにムッとした表情をしたが、何も追及せずにアメリアは答えてくれた。


「魔物はね、魔人の成り損ないなの。最初の魔人、魔王ギレオンによって生み出され続ける失敗作」


「魔人……? それに魔王ってなに?」


 ここまで理解するのにかなりの脳を酷使していたのに、新しい単語が追加されたとなると、情報整理が追い付かない。

 早く増えていく疑問に答えて欲しいのだが、タメ口が気に障ったのか、紙の上で走らせていたペンを止めて(うつむ)いたまま、アメリアは急に黙りこくってしまった。


「あの――……、聞いてますか――……」

 

 右手をアメリアの顔の前で上下させるも反応はない。

 そんなにタメ口で話されるのが嫌なのか……と、失敗を反省していると、突然、アメリアが俺の右腕を両手で掴んだ。ドアから引き離された時の痛みを感じるほどの強さではなく、そっと両手で触れられ、包み込まれる。

 抵抗すればすぐに振り切れるが、そのままアメリアの両手に右腕を操作をゆだねる。

 何をするつもりなのか、と考える暇もなく俺の右手が柔らかいものに包まれる。

 右手全体を隠すほどの弾力がある大きな二つの丸みを帯びたそれは、間違いなくアメリアの胸だ。

 

「へあっ!?」

 

 あまりに唐突なアクションに思わず変な声を出してしまった。

 すぐさま手を引っ込めようとするが、アメリアの両手と両胸が俺の右腕をつかんで離さない。

 

「なにしてんの! ねえ、なにしてんの!」


 アメリアの奇行に敬語を使うことも忘れてしまうが、思考が完全に目の前の出来事の処理に奪われてしまっているのでしょうがない。

 当のアメリアに目を向けると、俺から顔をそらしてそっぽを向いてしまった。

 肩から垂れ下がる艶のある黒い長髪に大分隠れてしまっていが、その横顔が微かに赤みがかっているのがわかる。

 ずっとお姉さんぶっていたアメリアも流石に男に胸を触られるのは恥ずかしいのだろう。

 でも照れるなら、何で自分からこんなことをしたんだ……。

 

「少し黙って」


 俺の思考を読み取ったかのように、アメリアがポツリとつぶやく。

 身動きが取れない状況で、気まずい空気が形成される。

 静寂の中、右手から伝わってくるアメリアの心臓の鼓動が直に……伝わってこない。


「心臓が止まってる!?」


 空いている左手で自分の胸を触る。

 手のひらを通して確かに生を示す、ドクンドクンという音が聞こえる。

 左手を降ろし、改めてアメリアの胸に触れている右手に意識を集中する。

 やはり、そこにあるはずの心臓の鼓動は聞こえない。


「わかった? 実は私、一度死んでるの」

 

 アメリアはずっと掴んで離さなかった俺の右腕を離して、今度は自分の両手を自分の心臓にあてる。そのまま何かを思い出すように、目を閉じて下を向く。

 目の前の女の子の心臓は確かに止まっていた。しかし、彼女は今もこうして俺の目の前で生きているではないか。

 一度死んでいるということは、心臓が止まっていることを表すのだろうか。

 いったいどうやって心臓が止まった状態で生きているんだろう……。


「もしかして……」


 俺は短い思考の中で、一つの結論を導き出す。


「魔臓にずっと魔力があれば死なないのか?」


「正解!」


 目を開けた少女は、今までお姉さんぶっていたことを忘れたのか、初めて十六の子供らしい笑顔でそう答えた。

第四話を最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます。


第三話、第四話、第五話と続けて、この物語の核となる魔力、魔人、魔人の説明が入ります。

読者様からしたら長々しい設定を永遠と読まされる地獄。

作者の文章力の拙さと相まって、分かりにくいことこの上なしって感じでしょうが、どうか寛容な心で読んでもらえると助かります。



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