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第三話 魔力

「ま、待ってください! せめて少しくらい二択の意味を教えてください!」


「そのまんまの意味よ。ちょっと訳ありでね」


 答えになっていない。

 死か忠誠。

 いきなりそんなことを言われたって、なんことか全くわからない。

 ただ、目の前で二択を迫るアメリアの表情からは冗談めいたものは感じられず、死を選べば本当に死が待っている気がする。


 「どっち」


 一歩前進して距離を詰められ、身長差の関係で少し低い位置にある俺の顔を覗き込むようにアメリアに精神的にも身体的にも迫られる。

 昨夜……ではなくアメリアに聞いた話によると三日間に森で感じたものと同じ悪寒がする。死と言えば、目の前の命の恩人が俺を殺すのだろうか。

 ふと、魔物に襲われ、腹を抉られたミッシェルが思い浮かぶ。明確な死のイメージ。

 ミッシェルだけではない、十五年間共に過ごした村のみんなも死んでしまったらしい。

 俺には何も残っていない。ならば、生きていても死んでも同じじゃないか?

 いっそ辛い現実に耐えて、先の見えない未来を生きるより、ここで死んでミッシェルたちのもとに逝くほうがいい気がする。


 ――死にたい


 そう言いかけた時、間近に迫るアメリアから目を背けた先に、ソファの後ろに立掛けられた剣が見えた。

 ここでの忠誠とはアメリアに、ということだろうか。

 森の中で、瀕死の俺の前に突然現れた女剣士の姿を思い出す。

 可憐で華奢な女性とは思えない力強さで、長刀を振り回し、魔物を一刀両断したあの強さ。

 

「俺もアメリアさんのように強くなれますか?」


 アメリアは顔を上げて、数秒思考する素振りを見せた後、ドアの前から離れてソファの方に歩いて行った。


「三日前、森の中で遭遇した魔物の首を斬ったのはギルバート君で間違いない?」


「はい。その剣でズバッと」


 空想の剣を持って右上から左下に振り下ろし、魔物を斬り裂いた時の再現をする。

 ソファの後ろに回り、俺の剣を掴んだアメリアは右手で持ち上げて何度か上から下に振り下ろす。

 何をしているのかわからないが、何かを確認するような行動に見える。


「魔物ってね、普通は剣で斬ることはできないの。どんなに手練れの戦士でも一般的な武器では黒い靄を斬り裂くことはできないんだ」

 

「でも俺は確かにその剣で斬りました」


「そう、君は魔物を斬ることができた。この剣のおかげでね」


 素振りをやめたアメリアが右手で剣の持ち手を握り、左手で鋭利な刃の部分ではなく、その側面の平らな部分を撫でる。

 

「この剣は特別な鉱石が混ぜられている。体内の魔力を伝える鉱石が」


「魔力……?」


 聞いたことが無い単語だ。村長から剣を貰った時に、魔力という言葉は出てこなかった。

 でも、この剣が特別だという話は聞いたことがある。

 確か、村長の知り合いの王国で働く鍛冶師が珍しい素材を使って錬成したとかなんとか……。


「知らないのも無理はないよ。普通の生活をしていたら一生知らないようなものだから」

 

「その魔力というものが俺が魔物を斬れたことと関係あるのですか?」


 アメリアは首を縦に振って肯定する。

 剣を立掛けてあった場所に戻してソファに座ると、散らばったままの書類から一枚を取って裏返し、白紙の面に何かを書き始めた。


「一から説明すると長いから、大雑把に絵で説明するね」


 俺が強くなれるのかという質問と何の関係があるがわからないが、ドア前の硬直状態から変わったということは意味があることなのだろう。

 熱心にペンを動かすアメリアと机を挟んで反対側の床に座る。

 下を向いて紙と向き合っていたアメリアが、ペンを握っている右手の反対側の左手を抑えていた紙から離して、ソファの空いている空間を指す。どうやら隣に座れということらしい。

 図解して説明してくれるというなら、隣に居た方がやりやすいに決まっている。

 断る理由はなく移動してソファに座ると、アメリアは既にかなり書き込まれている紙を俺の前にスライドさせて、設枚を始めた。


「これ、魔物ね。黒で塗りつぶされているのが、周りを囲んでる(もや)を表してる」

 

 紙には三人の人を表した絵が描かれていて、その一人は黒く塗られてる。

 アメリアが指を指した黒い人が魔物。他の二人は普通の人らしい。


「魔力について私も全ては知らないし、詳しくは説明できないんだけどね。まず魔物を取り巻く黒い靄。これが魔力と呼ばれているもの、って言ってもわからないよね……。そうだ、ギルバート君。ちょっと深呼吸してみてよ」

 

 両手を広げて例を示すアメリアに習って、言われたままに、大きく息を吸って吐く。


「今、君の体内に魔力が入り、出ていきました」


 そんなこと言われても、俺には空気を吸って吐いた感覚しかない。

 アメリアの話通りなら、黒色の何かが見えるはずだ。

 困惑する俺を、ニヤニヤしながら見つめるアメリアが言葉を続ける。


「本来、魔力は無色透明なの。そして大気中に散らばっている」

 

「空気みたいなものということですか?」


「そうそう。私たちが、酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すみたいに、呼吸を通して魔力を常に取り込んでは吐き出しているの」


 アメリアは紙書かれた白いままの人間の右胸部分に小さな丸を書き加える。


「心臓と反対の胸にある、この魔臓って呼ばれる見えない実態のない器官が大気から取り込んだ魔力を蓄えていると考えられているの。誰でもこの魔臓は持っていて、魔力も魔臓を通して常に循環しているってわけ」


「魔物の黒い靄が魔力って話と違いませんか? 透明どころか、あれはどっからどう見ても真っ黒な色をしてました」


「それがこっからの話しの肝なんだよね」


 アメリアの右手が握るペンが、魔物を表す黒い人間の全身から外側に向かって矢印を書いていく。

 

「魔物って人の姿形をしてるでしょ?あれって本当に人間なの。正確には死んだ人間。それが魔物の正体よ」




第三話を最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます。


元々一つの話だったものを第三話、第四話に分けてみました。

これによって長々とした説明を読む抵抗が少しでも緩和されると嬉しいです。

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