第十五話 グングニルVS月影
空中で身動きが取れないアメリアをグングニルが無慈悲に捉える。
俺は一瞬の出来事に声を上げることもできず、目の前で起こるであろう悲劇の瞬間を待つ事しかできなかった。
細身の身体を魔力を帯びた真紅の槍が貫き、抉られた肉体から鮮血が溢れ出る。
そんな想像の惨劇は現実とはならなかった。
グングニルの穂先が宙を舞うアメリアの残像を突き刺す。
赤く染められた槍は虚しく空を切る。
勝利を確信していたジュリアーノが目を見開き、初めて驚きを見せた。
「まさか小娘! お前も黒翼を使えるとは……」
ジュリアーノから戦闘を楽しんでいた、余裕とも取れる笑みが消える。
黒翼――そう表現された、魔物の全身を囲う黒い靄で構成された、魔力の翼。
上空からジュリアーノに向かって一直線に降下するアメリアの背中には大きな黒翼が広がっていた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ジュリアーノがどういう仕組みか、槍を元のサイズに戻して迎え撃とうとするが、猛スピードで突っ込んでくるアメリアの長刀が十傑の肉体を切り裂く方が速かった。
気合の入った雄たけびと共に、太陽の光を反射し白く光る刀身が、即座に前に構えられた槍をすり抜け、武器を持つ右手を捉える。
血しぶきが上がり、だらんと力なく垂れ下がった右腕で支えられなくなった真紅の槍が地に転がり落ちる。
「小癪なああああああああ!」
思わず耳を塞いでしまうほどの怒声を上げたジュリアーノは、左手で地面に落ちたグングニルを拾い上げ、背中からアメリアよりも一回り大きい漆黒の翼を出現させる。
急降下した勢いのままに黒翼で森の中に入るアメリアを追いかけようと、ジュリアーノの身体がふわりと浮上したその時。
眩しい閃光と猛烈な爆音と共にジュリアーノの右上半身が消し飛んだ。
片翼を担っていた右側の黒い靄が消え、体勢を崩したジュリアーノが地面に叩きつけられる。
「ギルバート君無事だった?」
目の前で起こった衝撃的な光景に釘付けになっている俺の横に、いつの間にか近づいていたアメリアが降り立った。
「アメリアさん、今の爆発って……」
「そう、私の攻撃によるものよ。魔装武器、月影の力」
地面にうつ伏せに倒れたまま動かないジュリアーノの身に起こった現象を見たのはこれが初めてではない。
初めてアメリアと出会った森の中。
魔物の首を切り落として油断していた俺は、胴体だけで動く魔物に気づかず、瀕死の重傷を負った。
その時、アメリアがたった一振りで魔物を倒して俺を守ってくれたあの場面。
意識が薄れゆく中、俺は確かに魔物の身体がアメリアの長刀に切り裂かれた場所から発光し、直後に爆発して粉々になったのを見た。
距離が離れていても、一瞬で伸びることで遠距離から攻撃できてしまうグングニルと名付けられた真紅の槍をジュリアーノは魔装武器と言っていた。
同じく、アメリアは切り傷から爆発を発生させる身長と同じくらい長い刀を魔装武器、月影と言っていた。
魔装武器というものの正体はわからないが、普通ではあり得ない性能なのは確かだ。
それだけじゃない。
間近で見た魔人同士の戦いはどこを切り取ってもあり得ないことだらけだった。
もしかしてアメリアは――
しっかりと両足で立っていたはずの地面から離れて身体が浮き、自分の世界から現実に引き戻された。
びっくりして、剣を持つ右手とは反対側の左側をぐいっと引っ張っている主の方に目を向ける。
「また何か考え込んでいるでしょ? さっ、あいつが倒れている間に拠点に戻るわよ」
「トドメを刺さないんですか! それにまだ、隊長からの任務を達成してません! このまま拠点に戻るなんてできないでしょう!」
背中の鞘に剣を納めたアメリアは、じたばたと暴れて抵抗する俺を見て呆れたのか、短くため息をつく。
「薄々わかってると思うけど、私の月影は魔装武器って呼ばれる魔人専用の魔力を通す武器なの。月影の攻撃を食らった以上、いくら十傑といえど魔力の放出は免れない。ここまでフレイム村に漂う濃い魔力で戦ってきたけど、それももう尽きかけている。あいつは失った肉体を再生できず、魔力が底をついて時期に死ぬ」
「でも、それなら尚更俺たちが拠点に戻る必要はないじゃないですか!」
「おおありよ。私たちの人間離れした力の源は魔力。村の魔力が尽きた以上、私は使える魔力をすべて黒翼に使って拠点に戻る必要がある。これ以上の戦闘はできないの」
「その戦闘が今終わったじゃないですか! ギレオン派の十傑をここまでアメリアさんが追い詰めたんだ。確実に殺すべきです!」
「無理よ。君は気づいていないと思うけど、もう一人来てる。多分ジュリアーノの仲間が物凄い勢いでこちらに近づいて来ていたわ。」
ヒートアップした俺をなだめるように、アメリアは静かにそう呟いた。
高い樹々の枝に付く青々とした葉を突き抜けて上空に出ると、スピードを上げ、フレイム村を背にして元来た道を辿る。
何もかも未熟な俺はこれ以上何も言えず、アメリアも口を開かなかった。
沈黙の帰路は行きより大分長く感じ、体感で三十分程運ばれ、拠点の入り口である岩山に着いた時には日が沈みかけていた。
空一面がオレンジ色に染まり、夕焼けの光に照らされた森は赤々と燃え盛っているように見える。
出発の時にアメリアから教えられた絶景が確かに目の前に広がっていた。
景色とは対照的に戦闘において何もできなかった無力さと、任務を完遂できなかった不甲斐なさが心を青く満たし、暗い気持ちを抱えながら俺は拠点へ繋がる下り階段を下りた。
第十五話を最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます。
この作品初めての本格的な戦闘、ジュリアーノVSアメリアが一応決着しました。
十傑の強さを十分書けたとは自分でも言えません……でもグングニル扱うのはめちゃくちゃムズイことだけ言っておきます!笑




