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第十二話 革命軍VS王国軍VS魔王軍

 アメリアが隊長の部屋を後にする際に言っていた言葉を思い出す。


「隊長、くれぐれも無理しないでくださいね」


 今思うと、その言葉の意味も理解できる。

 ギレオンに治らない傷を負わされた隊長にとって、俺を魔人にするという行為は無理をするどころの話ではない。

 日々減っている生きるためのエネルギーである魔力を大幅に減らすその行為は、寿命を縮めることに直結する。

 魔人に成った十六のまま時を過ごすアメリアと比べ、隊長が四十、五十代に見えたのは、同じく魔力の減少が関係しているのだろうか。

 もしかしたら、普通の人間が過ごす一年よりも、魔力で生命を維持している魔人の衰えは早いかもしれない。

  

 なんにせよ、隊長が多大な負荷を背負っていることは明確だ。

 そこまでして俺を強くしてくれたのか。隊長が俺に何を見出して、ホワイトリベリオンの仲間に入れてくれたのかはわからない。

 たった一言、忠誠の言葉で自らを犠牲に、俺を魔人にしてくれたとは考えづらい。

 

 しかし、いくら考えても今ここで俺に出来ることはただ一つ。

 自らの命をすり減らしてまで俺に力を与えてくれた隊長から与えられた任務を完璧にこなすことだ。


「隊長に残された時間は少ないってことですよね。すぐにトイトピー村に行きましょう! 早く任務を終わらせて、隊長に次の計画を進めてもらわなきゃ……」


「やる気が出たようで何より。そうね、長話が過ぎたわ。私の魔力もかなり回復したし、このまま翼を使ってひとっ飛びで行きましょ」


 言い終わらないうちにアメリアが背中から黒い靄を出し、背中のローブから黒い翼が出現する。

 そのまま俺の方に歩いてきて、右手を左手で掴まれる。

 翼がゆっくりと動き始め、慌ててフリーになっている左手でアメリアの手首を掴む。


 ふわっとアメリアの足が落ち葉でいっぱいになっている地面から離れ、次に俺の足も宙に浮く。

 二度目の浮上だが、一度目は落下からの浮上だったため、今回の安全な離陸は何の問題もなく対応できた。


「そういえば、俺もこの翼は使えないんですか? 俺も使えるようになれば、移動時間も消費魔力も大分抑えられると思うんですが」


「ギルバート君も練習すればすぐにできるようになるはずよ。けれど、今は説明してる時間も練習している時間もないからね……そうね、この任務が終わったら一緒に練習しましょうか」


「ありがとうございいいいいいいいいいいいっ……まっっっすううううう」


 アメリアの厚意にお礼を言いたかったのだが、森から抜けて、またも緑を見下ろす高さまで浮上してから、アメリアは視認できる距離まで詰めたトイトピー村までとんでもないスピードで飛び始めた。

 とても目を開けられず、見える色が黒だけになるが、風を切る音と翼の振動音でどれだけ早く飛んでいるのか大体わかる。

 これはここまで来るときに飛ばした速さの比では無い。

 この調子だと五分もしないうちに目的地に着きそうだ。


 過去の話をしているうちに、俺と同じようにやる気が溢れたのだろうか。

 辛うじて薄目を開けることしかできない俺を気にせずにスピードを出し続けるアメリアからは笑顔が消え、真剣みを帯びている。

 会話をする余裕など無く、あっという間に村の真上に到達し、翼を動かす速度が減速して徐々に降下する。

 

 懐かしの――と言っても、一週間と四日ぶりの――故郷の地に足がつき、ようやく俺は目を完全に開くことができた。

 俺の家、ミッシェルの家、レオの家、村長の他と比べてかなり大きい家、タロとフートが一緒に住んでいた家、村の重要な会議を行うための部屋、大浴場や三人でよく食べた村の名物を売っている屋台まで。

 何もかもが旅立つ前と変わらずそこにあった。

 そこに誰もいないことを覗いては。


「村が魔物に襲われたって話、本当だったんですね」

 

 俺と同じように周辺を散策しているアメリアが頷く。

 家々に近づいて目を凝らすと、赤黒い染みが付いているのがわかる。

 しゃがんで地面の土をよく見ると、茶色い土がわずかに濁っているのがわかる。

 村全体に確認できる血の跡は、村で何があったのかを確信せざるを得ない。


「君が寝ている間、トイトピー村が襲われた情報が入って仲間がすぐに向かったんだ。村の人間はおろか、魔物の姿もなく、そしてもう一つ。この村にあるはずのものが無かったんだ」

 

 十五年間この地で育った俺の記憶を振り返っても、特にあるはずのものと言ったものが無い様子はない。

 俺の知らない重要な書類とか、秘宝とかならお手上げだが、村の広場に置いてある椅子に座ったアメリアが答えを言う様子はない。


 短い付き合いの中でアメリアについてわかったことがある。

 彼女は十五の俺に対して、お姉さんぶることが多い。

 それは彼女が実際は二十六年生きていることを考えれば納得がいく。

 ホワイトレべリオンの先輩と後輩という関係を、アメリアは俺に根付けようとしているのだろう。

 それは悪い意味じゃない。

 かなりの時間がかかるはずなのに、俺に一から新しい世界を教えてくれた。

 そして彼女は質問を多くする傾向がある。

 俺が自分自身で答えに辿り着くように上手く誘導しながら、間違えた時は否定しつつも時にヒントを出し、正解した時は優しく褒めてくれる。

 

 質問形式では無いが、答えを言わずに沈黙するアメリアのこの時間は、俺が答えに気付くのを待っているのだろう。

 だとしたら答えは俺の知らないものではないはず。

 目に見えるものだけではなく、何か普通に考えていたら見落とすような何か……。


「もしかして魔力?」


「その通り! 凄いね、こんなに早く答えられるとは思わなかったよ」


 やはりアメリアは俺が答えるの待ちだったようだ。

 俺の正解を拍手で称えてくれる。


 魔力という答えに辿り着くのに、ここでもアメリアのヒントが役立った。

 森の中で彼女は大気中の魔力はどこも殆ど同じだと言っていた。

 しかし、例外として死者が多く出る場所は濃度が濃いとも。

 トイトピー村が魔物に襲われて、村のみんなが死んだというなら、魔力が放出されて、大気中の魔力濃度が高くなっているはずだ。

 目には見えないし、俺はまだ魔力を感じることもできないが、与えられた情報からちゃんと答えを導き出せた。


「魔力は持ち運べないんですよね? その魔力が消えたということは、魔人が全て吸収していった? いや、村を襲った魔物がそのまま吸収した可能性も……。その魔物を王国兵が不自然な速さで倒したっていうのが怪しくて……」


「前々から思ってたけど、ギルバート君は理解力が凄いね。今なんて、私が質問する前に答えに辿り着いちゃったし。考察通り、隊長の考察は魔人による魔力吸収。ヴァレンシア王国が魔人兵計画を企んでいるんではないかってね」


 驚いたように目を丸めて賞賛してくれるアメリアは知らないが、俺が自分でも十五にしては高いと思う理解力や考察力を手に入れたのは、全てレオのおかげだ。

 俺より遥かに頭のいいレオから色々な知識や考え方を教わった。

 

 しかし、今は思い出話を話すような暇はない。

 アメリアの口から飛び出した、魔人兵計画という物騒な単語。

 王国が魔人を大量に作ろうとしているという風に受け取れる。

 確かに普通の人間相手に無敵の強さを誇る魔人を量産できれば、最強を確実に手に入れることができる。

 バジャリアード王国を倒してヴァレンシア王国一強の時代が来たというのに、また王国は戦争をする気なのだろうか。


「ギルバート君はヴァレンシア王国をどういう風に思っている?」


 アメリアからまた質問が飛んでくる。

 しかし、今度は答えがある質問といった感じではない。

 単純に俺が考えていることを話せということだろう。


「十年戦争時は保護国に対して酷い扱いをしていたと聞いています。その後は新国王の誕生と共に、ヴァレンシア王国騎士団団長ベルグリードさんを中心として善政を行っているって……。魔物が沢山現れ始めた時も、倒してくれたのは王国兵でした。だから、どんどんいい方向へ向かっているのかなって思います」


「もし魔物を生み出して、村の周辺に放ったのが王国だとしたら?」


「どういうことですか……?」

 

 その仮定をもとに考えると、頻繁に出現するようになった魔物を放ったのが王国で、その魔物を王国兵が倒すということになる。

 これだとただの時間の無駄な自作自演になってしまう。

 目的は王国のイメージアップくらいしか思いつかない。

 そもそも生前に魔力開放の経験がない死体に魔力を摂取させて生み出すという魔物の製造は、善とは程遠い。

 そんなことを王国がしているなら、魔王ギレオンと同じ悪ではないか?


「魔物に襲われた四つの村の共通点を探してみたんだ。するとね、二つの奇妙な共通点が浮かび上がるのよ。一つはサンテーノ町の管轄地域だということ。もう一つはどの村にも十年戦争を生き残った兵士が住んでいるということ」


 確かにトイトピ―村はサンテーノ町が中心の地区に該当し、十年戦争経験者はタロとフートが条件に当てはまる。

 俺の頭で一つの推論が浮かびあがる。

 王国の魔人兵計画に必要なのは魔力開放を経験している人のはずだ。

 十年戦争で生き残った猛者なら、魔力開放を経験している可能性がある。

 その人が住んでいる村を襲って殺せば、魔力開放を経験していた人の死体に村全体の魔力が吸収され、魔人が出来上がる……。


「アメリアさん、一つ教えてください。ヴァレンシア王国は魔王ギレオンと同じ悪なんでしょうか」


「それをこの任務で確かめるのよ。ヴァレンシア王国の実権を握っている、騎士団長ベルグリード。かつて隊長を心酔し、ギレオン殺害を一番に主張した十傑。彼が魔王ギレオンとその野望を潰すために動いている可能性を隊長は考えたわ」


「ベルグリードさんが十傑の一人……? しかも隊長派で、目的だってホワイトレべリオンと同じなんですよね。どうして隊長と一緒に行動しないんですか?


「彼は隊長以上にヴァレンシア王国を愛しているの。王国を乗っ取る計画を立てたギレオンに対する殺意もそれ故だった。そして隊長と道を違えた決定的な理由。それが、ヴァレンシア王国とその国民こそが神に選ばれたエリートであり、その他は王国の糧となるべきだという選民思想なの」


 アメリアが一際大きなため息をつく。

 善政を敷いていると聞いていた王国、そしてベルグリードさんの本性がそれなら、村は希望を抱き、俺たちを送った使者の話も、レオから聞かされた圧倒的な強さを目指して毎日剣を練習した俺の憧れも根底から崩れることになる。

 そして同時に魔人兵計画の説明がつくようになる。

 最初の魔人ギレオンを倒すため、同じく魔人の戦力が必要なのは明確だ。

 保護領の命を軽視し、魔人一人を作り上げるために魔物を生み出して村を襲ってもおかしくない。


「他にも隊長派の十傑で王国側についた人はいるんですか?」


「魔王ギレオンには三人の十傑が。騎士団長ベルグリードには二人の十傑が。そして、ホワイトリベリオン隊長のウィルストンさんには二人の十傑が味方についたわ。四対三対三。それが道を違えた十傑の勢力

図よ」


 魔物を使って世界を滅ぼそうと企む魔王ギレオン。

 王国の繁栄を第一に考え、ギレオンを倒すために他の犠牲は(いと)わないヴァレンシア王国騎士団長ベルグリード。

 魔物の脅威から民を救い、世界に安寧をもたらすためにギレオンの野望を打ち砕かんとする革命軍ホワイトリベリオン隊長ウィルストン・マイヤー。


 ギレオンにとって王国と革命軍は計画の邪魔をする敵。

 ベルグリードにとって王国を脅かすギレオンは絶対悪。革命軍に対する感情は謎。

 隊長にとってギレオンは世界の平穏の為に止めなければならない宿敵。選民思想は到底許容できない考えの為、ベルグリード率いる王国も止めるべき悪だろう。


 これが対立する三大勢力。

 かつて共に王国の英雄として活躍した十傑がそれぞれの正義を掲げて戦う勢力図なのだろう。


 

 

 







第十二話を最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます。

ようやく三大勢力の全貌が明らかになりました!

ここからドンドン、スピーディーに進み、バトルシーンもたくさん出てきます!

是非応援よろしくお願いします!




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