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第十一話 二年

 アメリアが十年戦争に参加していたことは予想がついたが、まさかこんなに早く自分から言ってくるとは思わなかった。


 他にも気になることがある。

 十傑が魔人化したということは一度死んでいるということだ。

 

「魔人化した十傑とかアメリアさんたち剣士は戦争中に死んじゃったの?」


 一度立ち上がったものの、またすぐに座りなおしたアメリアが首を横に振る。


「私たち全員、戦争は生き残ったわ。けれどその全員が魔人化したギレオンに殺されたわ。ただでさえ最強のギレオンが魔人化し、無意識に戦地に漂う膨大な魔力を纏って私たちを攻撃してきた。どんな攻撃も通さず、一方的に私たちはやられたの」


「十傑最強の隊長ですら魔人化に三日掛かったんですよね? どうして他の十傑とアメリアさんたちはそれより前に魔人化することができたんですか?」


「その理由を話すと長くなるけど、いいわ。ここで話しておいた方がいい。隊長に刺されて確かに死んだギレオンは、それでも生きている自分の身に起こったことを理解していなかった。それでも裏切られたことへの怒り、失望、絶望が彼を動かし、隊長派のギレオン派は殺された。けれど、幸運にも彼が十年戦で使った大剣は魔力を通しにくい性質をしていたの」


 もう一度立ち上がったアメリアが俺の方に向かってくる。

 そして座っている俺と同じ目線までおもむろにしゃがむと、両手を俺の方に伸ばし、前が空いている黒いローブの下に着ている白いシャツを捲り上げた。


「なにするんだよ!」


「このくらい我慢して。そして敬語! ほら、何か気づかない?」


 突然森の中で上半身を露出させられてテンパる俺を気にせず、アメリアはシャツを掴んでいる両手の内、左手を離して俺の左胸を指さした。

 しぶしぶ捲り上げられたシャツ越しに自分の裸体を見ると、すぐに違和感に気付いた。


「隊長に刺された傷がない……?」


 俺が魔人になり、ベッドから目覚めた時に確認した傷跡が綺麗さっぱり消えている。

 シャツから手を放したアメリアが短く頷く。


「魔人化するのには死んだときに大量の魔力が必要って言ったよね?それは大気の魔力だけじゃ到底足りない量。何千、何万の死によって解き放たれた魔力が必要なの。ここで問題、ギルバート君の魔人化に必要な魔力はどこから出てきたでしょう?」


 真正面で俺の目を真っ直ぐ捉えながら首を傾げるアメリアから目線を外し、質問の答えを探す。

 そういえば、今いる森は魔力の濃度が高いとか言っていた気がする。


「隊長の部屋は大気中の濃度が濃いとか?」


「ぶっぶー。自殺者が多い森とか、毎日亡くなる人がでる病院とか以外は魔力の濃度は同じだよ」


 両手をバッテンにして口を尖らせるアメリアから誤答を示される。

 若干馬鹿にしているような口調で言われるためムカッとくるが、そんなことよりも森の魔力濃度が濃い理由が不吉すぎて怖い。

 理由はわからないが、子供ながらに戦地に立っていたくらいだ。

 今更自殺者くらいで騒ぐことじゃないのだろう。


 魔量濃度の線が違うとなれば、いったい何だろう。 

 俺が死んだ後に何かされた可能性ならありえる。


「魔力を蓄えれる何かがあって、それを死んだ俺に投与したとか?」


「ぶっぶー。魔力は保存したり、持ち運ぶことはできないよ。外から吸収した魔力を魔臓が蓄えることができるだけ。でも投与ってのは近い!」


 またも両手でバッテンマークを作るアメリアからここで初めてヒントが得られた。

 魔力の投与は近い。

 そして、魔臓には生命活動の維持ができるだけの膨大な魔力を蓄えているという話だ。

 

 俺が隊長に刺された場面を思い出して、俺に魔力を投与した可能性のあるものを探す。

 あの時、隊長は俺の心臓を一突きして殺した。

 出血を大量にして、心臓の鼓動が弱くなり、静かに俺は意識を失った……。

 

「まさか、俺を刺した小さなナイフは魔力を通す……? そして、そのナイフを通して隊長の魔臓に蓄えられている魔力を俺に送った?」


 意識が途切れる手前で、俺は正体不明の暖かい何かが全身に生じるのを感じた。

 あれが魔力だとしたら、説明がつくのではないか。


「正解!」

 

 いつの間にか元々座っていた切り株に戻ったていたアメリアが、両手で大きく丸の形を作った。


「魔人化するためには、自分の魔臓に蓄えている魔力を全部送るくらいじゃないと魔力が足りないんだけどね。隊長の魔臓には物凄い量の魔力が蓄えられているから、ギルバート君を魔人化しても大丈夫だったんだ」


「でも、隊長はギレオンの後に魔人化したんですよね? その場所の周りに漂っていた魔力はギレオンに全部吸収されたんじゃ……あっ! でも、ギレオンの武器は魔力が通しにくいって……」


 疑問を口にして、自分で答えに気付きかけ、そしてまた疑問に戻る。

 ギレオンが魔人化して復活し、隊長の心臓を貫いた時。

 その時に、ギレオンが一気に吸収した魔力が隊長の中に送り込まれたとしたら?

 ギレオンと比べ、自分自身で戦うことが少なかった隊長が魔力開放の経験はあっても少なく、目覚めるまでに三日かかった。

 ギレオンの武器が魔力を通しにくいという話を覗けば、これで説明がつく。


「かなり正解に近づいてるね。私の剣みたいに魔力を通しやすい物質で作られた専門武器は全く無かった。でも、魔力を本当に僅かながら通すことができる武器は沢山あったわ。とても難しいけど、戦争が日常のように起こっていた時代では、そんな武器でも魔力開放が起こりえた。十傑を始め、私のような一般の兵士も魔力開放の経験があったわけ」


「それでも、魔人化に至るほど魔力を通すのは難しいんじゃ……」


「普通は絶対無理だわ。けれど、ギレオンの隊長に対する憎悪が絶対を超えた。彼の計り知れない負の感情を乗せた一撃は、大剣にありったけの魔力を乗せて隊長の心臓を貫いた。その結果、隊長は魔人になって生きているんだから皮肉よね……」


 魔物を使って世界を滅ぼそうしている魔王ギレオンと、その野望を打ち砕かんとするホワイトリベリオンの隊長、ウィルストン・マイヤーの因縁の全貌が見えてきた。

 ギレオンが消えた後、何を考えて、何を思ったのだろう。

 生前は民を思い、国の乗っ取りまで計画した英雄が、世界を滅ぼすことに目的を変えた理由は何なのだろう。

 今の俺にその答えを出せることはない。

 切り替えて、アメリアの話に集中する。


「反対にギレオン派の十傑は、魔人化して最強のさらに高みに上ったギレオンにただ殺され、戦場に漂う大量の魔力を吸収して偶然魔人になったのよ。ギレオンほどではないけど、数々の戦争を勝ち抜いてきた彼らにも魔人化に十分な魔力開放の経験があったわ。人によって差はあったけど、みんな隊長より早く目覚めたのだから流石だよね」


「もしかして、アメリアさんも十傑の一人……?」


「違うよ。彼らの戦いに巻き込まれた近くの兵士も何千と死んだ、私もその一人なの。目覚めたら、あるはずの傷が綺麗さっぱり無くなって、私の身に不思議な力が宿ったことに気付いた。首から横っ腹まで切り裂かれたのに、跡一つないんだよ? 暫くその場で茫然としていたわ」


「そんな重症が癒えるって、俺の胸の傷と同じ現象ですよね。もしかして、魔人って不老不死以外にも、治癒能力があったり?」


「半分正解で、半分間違いかな。魔物の黒い靄が魔力を通した武器以外を通さないように、私たち魔人も魔力を帯びた攻撃以外は効かないの。物理的な怪我は負うけど、痛覚はない。傷程度なら魔力の力で回復するの。身体が真っ二つになっても、それを回復するだけの魔力があれば元通り。ついでに言うと、魔力によって生命活動が維持されているから食事もいらないわ」


 俺の傷が綺麗さっぱり消えているのはそういうことか。

 そして一週間寝ていたというのに、全くお腹が減っていないのも今のでわかった。


「でも、魔物と同じように魔力による攻撃は受けるの。傷口は修復するのに時間とかなりの魔力消費が必要になる。もちろん痛覚もあるわ。ギルバート君を魔人化する時も、隊長が肌に触れている場所だけ魔力を通す量を弱めて、怪我の直りが早いようにしているの。もちろん隊長だから成せる神業だけどね」


 ははは、と少しはにかんで笑いながら話すアメリアの顔に俺は確かに影が差したのを見た。

 そして、何がそうさせるのかも予想がつく。


 アメリアの話を隊長の魔人化の場面に当てはめる。

 魔人に昇華し、ありったけの魔力を込めた一撃が隊長の心臓を止め、同時に魔力を送り込んで魔人と成るに至った。

 俺を含め、今話に出てきた魔人と成った人間と隊長との違い。

 隊長だけが、魔力を帯びた一撃――しかも戦場の魔力を吸収しつくして、初めての魔人と成ったばかりのギレオンが放つ――を受けている。


 それはつまり、魔人と成っても治らないものなのではないか?


「気づいた? ギルバート君、察しがいいもんね」


 少し黙り込んだ俺が何かを掴んだことを、アメリアは感じ取ったらしい。

 短いため息を吐いた後、大きく息を吸う。

 何か言いたくないことや、言うのを躊躇(ためら)われることを言う前のそれに似ている。

 

「ギレオンから受けた傷は今でも治ってないの。そこから常に魔力が放出されている。全身から吸収している量を差し引いても、徐々に隊長の魔臓に蓄えられた魔力は減っているわ」


「魔人化に必要な魔力ってとてつもない量なんですよね! そんな状況の隊長から俺は魔力を受け取っていたんですか!?」


「今から話すことに、ギルバート君が責任を感じることは無いわ。他でもない隊長自身が判断して、君を魔人に昇華させ、仲間として共に歩むことを選んだのだから」


 ここまで説明された後だからわかってしまう。

 魔人の不老不死は、全身から魔力を取り込み続け、生命活動を維持するエネルギーが尽きないシステムの下に出来ている。

 おそらくその関係が崩れたら……魔人は死ぬ。


 大きく深呼吸したアメリアが俺の目を真っ直ぐ見つめる。

 

「隊長の寿命はこのままだと後二年。それまでに必ず私たちホワイトリベリオンが目的を達成する」


 


 




明日投稿の十二話で本当の本当に説明会は完結します!

ここまで長ったらしい世界観と設定の説明を読んでくれた読者様には感謝しかありません。

第十三話からようやくバトルシーンが!!!

こっから面白い(はず)なので、どうか一見さんがここまで読んでくれることを祈っています。



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