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第十話 魔王ギレオンの誕生

 ウィルストン・マイヤー。

 聞き覚えがある。それは隊長の名前だ。


「隊長が十傑の一人? ギレオンを殺した?」


「そうよ。どんなに激しい戦闘でも勝利を納め続け、いつしか最強の座を手にしたギレオンは十年戦争の勝利が戦場に伝えらた後、王国に戻る途中に心臓を隊長に刺された。同じく最強と称される隊長の不意の一撃を避けることはできず、ギレオンはそこで死んだわ」


「ギレオンはその後、戦場の魔力を吸収して魔人になったってこと?」

 

 アメリアが首を縦に振る。やはり最初の魔人、魔王ギレオンはここで誕生したのだろう。

 アメリアはそれ以上何も言葉を続けず、しばらく森の上ギリギリを低空飛行して、拠点がある岩山と同じくらい高い山を迂回すると開けた平野に抜ける。

 目の先にぼんやりと見覚えのある建築物の集合が見える。

 あれは間違いなく俺の故郷トイトピー村だ。

 しかしアメリアは平野を進むことはなく、翼の速度を徐々に弱めて森の端にゆっくりと降り立つ。

 

「ここで少し休憩しましょう」


「急ぎの任務じゃないんですか?」


「もちろん急ぐことに越したことが無いけど、かなり飛んだから魔力の消費が激しいの。万が一に備えて魔力を回復しなきゃ。ここらへんは魔力が濃いから十分くらい休めば問題ないわ。さっきの話の続きをしましょう」


 翼を使うのは膨大な魔力を使うらしい。

 俺の体重も支える必要があっただろうし、心なしかアメリアが疲弊しているのは魔臓に蓄えた魔力が少なくなってしまったのだろう。

 丁度いい高さの切り株に腰を下ろしたアメリアにならって、俺も適当に椅子替わりを見つけて座る。

 俺にも翼を使えるのかどうか聞きたいが、まずはギレオンについて聞くのが優先だ。


「ギレオンの死を確認した後、隊長は剣を鞘に収めたわ。後から聞いたんだけど、ギレオンを殺すのを最後に戦場から身を引く決心をしていたんだって」


「そもそも十傑って王国の英雄ですよね。そんな人達の間で衝突が起こる理由は……?」


「十傑も一枚岩じゃなったのよ。彼らの中で圧倒的な力を誇っていたギレオン派と隊長派で派閥があった。そのなかでギレオンが十年戦争前に十傑に持ち掛けた計画が全ての始まりよ」


 アメリアが腰に巻き付けた荷物入れから飲み物を二つ取り出して、片方を俺に渡してくる。 

 ありがたく受け取って水分補給しながら複雑な話の整理を頭の中でしていく。

 しかし今までの情報を思い出す前にアメリアが話始める。


「犠牲を(いと)わず他国を侵略し、いつしか敵はバジャリアード王国のみとなった。王国内の国民の生活は度重なる戦勝で潤い、繁栄したが、反対に保護領となった地域の街や村の状況は悪化した。稼ぎ手の男たちは戦争に徴兵され、人口減少が起こった。さらには重税を課され、生活はかなり苦しくなったと聞く」


 トイトピー村がまさにその例に当てはまるため、アメリアが話す戦争がもたらす地方の惨状はよくわかる。

 一番若い子供が俺とレオとミッシェルの三人。その次に若いのが三十二と三十四のタロとフートだったくらいだ。

 俺の父さんのように戦争から帰って来なかった大人は多く、自給自足も厳しい状況だった。

 そこに魔物という追い打ちが来て、村に限界が来た。


「ギレオンは王国に対する不信感を強め、十年戦争勃発の前夜、後の十傑を集め、ある計画の協力を持ちかけた。ヴァレンシア王国乗っ取り計画。つまりは反逆よ」


 地に置いた水が入った容器を再び口に近づけて透明な流体を喉に通すアメリアの口からは次々と信じられないことが飛び出てくる。

 しかしギレオンが企てたという乗っ取り計画は成功していないはずだ。

 今の王国は十年戦争勝利後に擁立された新国王のもと、ヴァレンシア王国騎士団団長ベルグリードさんが中心となり、戦争で疲弊した王国の信頼と内情を回復している最中だ。

 魔王ギレオンの計画が成功していたら、そんな平和な話にはならないだろう。


「ギレオンに賛同したのは四人。そして対立したのが平和的な解決を望んだ隊長を始めとする六人。丁度、二つの派閥で別れる構図になったの」


 背中から黒い靄を出したり消したりして何かを確認しながら話すアメリアから大方予想通りの展開が説明される。


「計画は保留になり、話を流して十傑はその場で最大の戦争を前に団結を誓ったわ。その時はまだ、ギレオンは民の平穏を目指す英雄だった……隊長に裏切られ、魔人となる前までは」


 やはり話はそこに繋がった。

 アメリアは何かの調整をしながらさらに話を続ける。


「戦闘において残虐性を見せるギレオンによる黒い野望を危惧した計画反対の十傑は、隊長にギレオン殺害を持ち込んだ。隊長は最後まで話し合いでの解決を求めたけど、戦場で荒れ狂うギレオンを間近で見て殺害を決断したんだって……」


 そんなことをしたらギレオンを殺した後、ギレオン派の十傑と衝突してもおかしくない。

 王国にだって、乗っ取り計画のことを話しても信用してもらえるかどうかわからない。

 その可能性を考慮しても、ギレオンという人間は危険だったのだろうか。

 

「でもギレオンは魔人となって復活したんですよね。隊長は復讐されなかったんですか?」


「されたわよ。その場でね」


「その場で!? 俺が魔人になった時、目覚めるまで時間がかかった気がするんですけど……」


「そうね。ギルバート君は一週間寝てたわ」


「一週間!?」


 てっきり一日くらいかと思っていた。

 森で魔物に殴られ、頭から出血し、意識が途絶えた時は目覚めるのに三日かかった。

 魔人化はそれを大幅に超える一週間を要したらしい。


「魔力が全身に浸透するのには普通そのくらいかかるのよ。一度の魔力開放で、わずかに開いた魔力の通り道から徐々に全身の通り道が開いていくわけだからね。けれども、ギレオンの場合は話が違うわ。歴戦の英雄は魔力開放を何十回も経験してきた。無意識に生前から魔力の通り道を作っていたギレオンが魔人化するのにかかった時間は一瞬。隊長が剣を鞘に収め、完全に油断した時、死んだはずのギレオンの剣が隊長の心臓を貫いた」


「隊長が生きているってことは、隊長もその場で魔人に?」


 背中から黒い靄を出すのをやめ、俺と対面するように身体の向きを変えたアメリアが首を横に振る。


「隊長が目覚めたのは王国病院のベッドの上。戦争終結、ギレオン魔人化から三日経ったことを伝えられ、酷く混乱したそうよ。ギレオン殺害に失敗し、死んだはずの自分が生きていることを信じられなかったって。目覚めた後、隊長が王国兵から伝えられたのは三つの報告。一つ目は黒い靄を纏って、敵味方問わず殺害し、バジャリアード王国がある方向に消えていったギレオンのこと。二つ目は隊長以外の十傑の行方不明。三つめは同じように黒い靄を纏った人間が戦地に多数出現していること」


「それって魔物のことじゃ……」 

 

 アメリアが頷く。そのまま何かを思い返すように目を閉じ沈黙し、再び俺の目を見て話し始める。

 見間違いでなければ、(よど)みのない大きなブロンズの瞳が潤んでいるように見える。

 確か、アメリアは十年前に魔人化したと言っていた。

 この十年戦争の話にアメリアが関係しているのかもしれない。

 しかし今は確かめる時ではない。

 デリケートな話かもしれないし、そのうち彼女から話してくれるだろう。

 

「戦場で生まれた大量の魔力は魔人ギレオンだけではなく、魔力開放の経験がない人にも吸収され、おびただしい数の魔物が誕生したわ。戦争を生き残った人に襲い掛かり、更なる死者を生んだ」


 魔力を通した攻撃じゃないと倒れない魔物相手に一般兵が戦えるわけがない。

 この戦争で生まれたという魔物に対抗する術は無いに等しい気がする。


「話が少し戻るけど、ギレオンと隊長が十傑の中でもずば抜けて強かったって話をしたよね? あれは単純な戦闘の強さじゃないの。ギレオンはまさしく武の強さ。どんなに敵が強くても、どんなに敵が多くても、ギレオンは大剣を振り回して葬ってきたわ。反対に隊長は知の強さ。もちろん剣を持ったら他の十傑に引けを取らないんだけど、隊長は人を殺すことを嫌いって直接戦うことは少なかった」


 十年前の出来事をまるでその場にいたように話すアメリアは、やはり実際その場にいたのだろう。

 十六の少女が大戦に駆り出されるとは思えないが、ギレオンの王国への怒りはこういった状況を思ってなのだろうか。

 当時五歳の俺には知る由もないが、単純に話を聞いているだけだと生前のギレオンは英雄そのものだ。

 そんな俺の思考を遮るように、アメリアが話を続ける。


「最低限の戦闘で勝利に導く知将。それが隊長の強さであり、多くの人に尊敬される英雄の姿だった。そんな隊長が魔力、それによって生まれた魔物、不老不死の魔人という概念を一日で考え出した」


「隊長に挨拶する直前にアメリアさんが言っていた、語り切れないほど凄い人ってのがよくわかったよ。十傑の中で最強と謳われるのも納得です」


 もともとゼロだった魔力、魔物、魔人の概念をたった一日で考え出すなんて、化け物にもほどがある。

 どれだけの知識と創造力があれば、そんな離れ業ができるのか見当がつかない。


「そんな隊長が自分なら魔物を倒せると確信して戦地に戻った時には、そんな天才の隊長の想像を超える景色が広がっていたそうよ。それは隊長派の五人の十傑と、数人の剣士が魔物と果敢に戦って倒していく姿」


「魔物を倒すって……もしかしてその人たち全員……」


「そう。隊長が目にしたのは一度死んで生き返った理由など気にせず、人類を脅かす魔物に立ち向かう魔人たち。隊長が駆け付けた時には、ほとんど魔物は倒されてたのよ」


 切り株に座っていたアメリアは不意に立ち上がり、右手の親指を豊満な胸の真ん中に突き刺す。


「その中の剣士の一人が私よ」


















第十話を最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます。

第十話、第十一話、第十二話と最後の説明回が入ります。

あらすじにある三勢力の三つ巴の戦いになった理由が語られます。

この説明が終わったら後は本当にサクサク進むんでよろしくお願いします!



最新話の後書きの下にある評価ボタンを直感で押してもらえると制作活動の励みになります。

そしておもしろい、つまらない、アドバイスなど、どんなに些細なことでも感想、レビューを頂けると作者がベッドで宙返りして喜びますので、よろしくお願いします。

また、ブックマークしてもらえると布団にくるまって「ありがとう!」と叫ぶので、そちらの方もよろしくお願いします。

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