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プロローグ

「ギル! いい加減起きて! 起きて起きて起きて! 今日は村長との大事な話がある日でしょ!」


「んっ……もう食べれないって……」


「もうっ! 起きてってば!!!」


 右頬に痺れるような痛みが走り、脳が半分覚醒する。

 固く閉じて離れようとしない瞼を半分開けて、俺をビンタしたであろう人物がいる方を見る。


 大きな黄色いリボンを付けた黒髪のくせっ毛を短くまとめ、小麦色の肌によく似合う白いワンピースを着ている女の子は、部屋の中なのに麦わら帽子を着用している。

 目覚めたばかりでぼんやりとしている視界でも、傍にいる元気いっぱいな幼馴染ははっきりとわかる。


「おはよう、ミッシェル。今日はずいぶん早起きなんだね」


「もちろん私も寝坊したわ! レオに起こしてもらったの!」


 どうしてそんなに胸を張れるのかわからないが、ミッシェルはいつも俺より大分遅く起きるし、少し得意げになっているんだろう。

 レオのおかげだろ、と言うのも無粋なのでさっさと布団から起き上がって活動を始める。


 今日はヴァレンシア王国への使者として一週間の旅に出る前日。

 これまで何度も話をしたが、最後の最後まで手順や礼節、忠告を確認しないと村長は気が済まないらしく、昼過ぎに来るように呼び出されている。


「レオはどこにいるんだ?」


「いつまでたってもギルが起きなかったから、先に村長の家に向かったわ」


「それは悪かったな。俺たちも直ぐに行こうぜ」


  軽く身支度を整え、家の外に出る。

 人口三十人の小さな田舎町で一際大きい建物に着き、村長の部屋に入る。


「よく来たな。さあ、そこに座りなさい」


 村一番の高齢者である村長が、長く伸ばした白い髭を撫でながら俺たちを手招きする。

 村長の前には三つ座布団が用意されていて、そのうちの一つには既に人が座っている。

 黒っぽい茶髪に、整った顔立ち。きっちりと身だしなみを整えており、視力が悪いためにかけている眼鏡が実際にその通りの頭がいいイメージを引き立てる。

 ミッシェルの言う通り、俺のもう一人の幼馴染であるレオが先に到着していた。


「ようやく起きたか。ミッシェルより遅いなんて珍しいんじゃないか?」


「昨日は夜まで剣の練習してたから疲れちゃって」


「ギルの夢はヴァレンシア騎士団団長ベルグリードさん率いる王国騎士団に入ることだもんね」


「そうそう。今回の旅だって、父さんが十年前の大戦で使ったっていう剣を持っていくからな。ピンチの時は俺が二人を守るよ」

 

 三人揃って座布団に座り、今日初めての会話に花を咲かせていると、ゴホン、とわざとらしい咳払いが聞こえ、口を動かすのを止める。

 何度も見てきた、村長が話を始めるときに注目を集めるための技だ。


「ギルバート、レオ、ミッシェル。いよいよ明日、このトイトピー村の使者としてお前たち三人にヴァレンシア王国へ向かってもらう。くれぐれもクマやイノシシ、そして最近目撃情報が多くなった魔物などに会わないよう安全な道を――」


「わかってますって! もう十回は聞きましたよそれ!」


 最近村の周辺に頻繁に出現するようになった、どの動物とも違う魔物と呼ばれる存在。

 村の大人たちが言うには姿、形は人のそれだが、黒い(もや)に全体が覆われているとか。

 なんでも魔物は剣で切っても刃を通さず倒せないらしい。さらに、首を落としても胴体だけで襲ってくるという話まで聞く。

 

「馬鹿者! 百回言っても足りないくらいじゃ。二週間前に使者として向かわせたまま帰ってこないタロとフートのように、何が起こるかわからない。飢饉と労働不足がここまで深刻じゃなければ、村で一番幼いお前たちを危険な旅に向かわせたりしないのだが――」


「大丈夫大丈夫! タロとフートはきっと王国で寄り道してるんだよ。あそこには何でもあるし、私たちが見つけて連れて帰ってくるよ」


「そういう話じゃないんじゃ! お前たち、本当に何のために王国へ行くのかわかっているのか!?」


「「もちろん!」」


 昔からちらほらと目撃情報のあった、魔物という不気味な生き物。

 目立った被害は出ておらず、王国の戦士たちが年に数回の遠征で一掃してくれるという話に安心して村の外で狩りや農業が営まれていた。

 しかし、一年ほど前から魔物と遭遇することが多くなり、狩りや農業が安全に行えなくなった。

 その結果が、村の食糧難。根本の原因である魔物討伐と、飢えを満たすための食糧援助を王国に求めるのが俺たちの仕事だ。


「返事だけじゃないだろうな?」


「「も、もちろん」」


「ギル、ミッシェル! 返事が怪しいぞ! 全く、お前らは昔から人の話を――」


「まあまあ、村長落ち着いて。こいつらが話を聞くわけないって言ったじゃないですか。ギル、ミッシェル、あとは僕が聞いておくから二人は明日の準備済ましといて」


「「はーい」」


 レオの機転で、俺たちは一目散に村長の家を飛び出る。

 後でレオにお礼を言わなければ。

 後ろから村長の怒声が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。

 明日はいよいよ世界の中心、ヴァレンシア王国に向けて村を出る。

 幼馴染二人と一緒に一週間子供だけの旅。



 この胸の高鳴りは何に対してだろう。

 初めて子供だけで遠くへ行くことにか。

 初めて王国へ行く楽しみにか。

 初めて腕を磨いた剣で敵から誰かを守ることができるかもしれないことにか。

 なんにせよ、きっと明日は俺にとって。そしてレオとミッシェルにとって忘れられない日々の始まりとなるだろう。

プロローグを最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます。


現在、絶賛序盤ストーリー大幅リフォーム中です。

読みやすくなった「俺たちが世界を作り直すから、悪と魔物は滅んでください改」を是非お楽しみください。

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