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対角線に薫る風  作者: KENZIE
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第77話 水沢咲希自爆す

翌日、昼前に起きてリビングに下りてくると、まだ部屋全体が酒臭いような気がした。

 

大きな窓が全開になっていたから、きっと気のせいだろう。

ソファーで杏子さんが唸っていたからそう思えただけだ。


「おはよ」


「おはよっす」


「うー…」


杏子さんは唸ったけど、ほかのみんなは元気そうだ。

聡志と織田君と加奈と真帆ちゃんが、4人でテニスゲームをやっている。

千晶さんがそれを見ていて、杏子さんが千晶さんのひざの上で唸っている状況だ。


千晶さんの隣には水沢さんがいた。

横に座ると、少し恥ずかしそうに会釈をしてくれた。

そっと肩を寄せて、僕の耳元に囁く。


「き、昨日はごめんなさい。酔ってたみたいで」


「え?あ、いや、お互いさまだから…」


昨日のあれは、とにかく、あれだ。

よかった。

よかったですよ…。


「あうー、死むー」


思い出してうっとりしていると、千晶さんの膝の上で、杏子さんが唸った。

アスリートなのになあと思っていると、ミキちゃんがアイスコーヒーを出してくれた。


「あ、ありがと」


「うー」


「軽く何か食べる?」


「ぬー」


「あ、お昼と一緒でいい」


「むー」


杏子さんが唸り続ける。

大体、弱いくせに、いつもいつも飲み過ぎなのだ。


「杏子さん、大丈夫?」


「だいじょばない…」


「飲み過ぎると身体に毒ですよ」


「分かってるけど、久々にみんなと一緒で楽しくて」


杏子さんは皆の琴線に触れることを言った。


「夕べなんか、あたしと星島とミキで3Pする夢見てさあ」


だけどその直後、それを全部台無しにするようなことを言う。

まあ杏子さんらしいといえば杏子さんらしい。


「ミキが、あたしが先にエッチするとか言い出して…」


そこまで言うと、顔を上げて、杏子さんは首を捻った。


「あれ。これ夢だっけ。夢だよね?」


「ばかばかしい」


ミキちゃんがそっけなく言って、杏子さんは不思議そうな顔をした。


「おかしいな。あたしが先にしたいって…、左の子が先に?あれ?」


だんだん、正解に近付いてきて。

慌てたのか、水沢さんが立ち上がって不必要に大きな声を出した。


「さて。お昼、何つくりましょうかね」


気持ちは分かるけど、それが逆に、杏子さんの注意を引いてしまったらしい。

 

杏子さんはじっと水沢さんを見つめてしばらく黙り込んだ。

ごくりと息を呑んで、水沢さんがまた座る。

杏子さんが水沢さんを指差して、その指をくるくると回した。

懸命に、記憶の糸を手繰り寄せようとしているらしい。


「あれ。ミキじゃなくて咲希だったかな?」


「……」


「いや、ミキだったよね。左の子が先で…、それで、先に?」


「……」


「あれ?右が先だったかな?右が先…、ん?やっぱミキじゃなくて咲希だった?」


そこまで言って、ぴかっと思い出したらしい。


「あ、咲希だ!咲希のファーストキス奪ったんだ!」


ブラジルまで聞こえるくらいの大声で杏子さんが言って、全員が水沢さんに注目した。


よほど思い出したくないのか。

一生ネタにされると思ったのか、とにかく水沢さんは慌てて手を振った。

急いで立ち上がり、また落ち着きなく座り、大きく左右に手を振る。

こんなに慌てている水沢さんは初めて見た。


「浅海さん、違います。違うんです」


どうにも、水沢さんは混乱して頭がぐるぐるしているようだった。


「それは、ですから、要するに、私のファーストキスの相手は星島さんなんです!」


本人は、地雷を避けたつもりらしい。

だけど実際には、それよりもはるかに大型の爆弾を炸裂させてしまった。

いきなり巻き込まれて死んでしまいました…。


「それで浅海さんが、私もしたいって無理やり私にしたんです!」


「あ、そうだっけ?」


「そうなんです!そうなんですよ!」


「そ、そっか。てかさ、あたし、夢の話のつもりだったんだけど」


「…ああっ!」


水沢さんは撃沈して、ぐにゃりとその場に崩れ落ちた。

結局、杏子さんのせいで、誰一人得をしない結果になってしまったのだった。

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