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対角線に薫る風  作者: KENZIE
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第72話 ムスファンマで検索

そして今年も、陸上漬けの毎日から解放される日がやってきた。

浅海軍団恒例の夏合宿だ。


天気は絶好だった。

僕が駅前に着くと、加奈がもう来ていた。

日やけした肌に、大きな麦わら帽子をかぶっている。

いかにも夏という感じでよく似合っていた。


どうにも、夏が似合う女だ。

何か、夏のビーチリゾートのイメージキャラクターでもやればいいような気がする。

不覚にも、ちょっと可愛いと思ってしまった。

おばかタレントでデビューしたら、

ちょっと人気出るかも…?


「おはよーっ」


ミキちゃんに叱られたときとか、失敗したとき以外は大抵元気だし。


「おはよ」


「荷物全部積めるかな?」


加奈の荷物がものすごいことになっている。

果てしなく大きいバッグが2つだ。

外国に行くみたいだった。


「お前、何持ってきたんだよ」


「ムスファンマ!」


ニコニコと答える加奈。

ああ。

あれね…。

ムス…。


「何だって?」


「ムスファンマ!」


「何それ。聞いたことない」


「何って、魚」


「えーと、ちょっと待てよ。イルカの浮袋とか?」


「それ!まさにそれ!」


加奈はびしっと僕を指差した。

あれだけのヒントで正解するなんて偉いと思いませんか。

伊達に絹山のクイズ王の異名は…、まあそんなのはないけれども。


ちなみに、「い、る、か、は、魚じゃねえよ!」って心の中で思いました。

面倒なので口には出さなかったけど。


「そっか。そういう商品名のがあるの?」


「ううん、名前」


「ああ。自分で付けた名前ね」


「そう!」


「イルカの浮き袋の名前が、ムスファンマなわけね」


「コンビ名!」


「コンビ名。あ、イルカ2匹いるんだ」


「いないっ!」


よく分からないけど、何か、もういいや…。


すぐにミキちゃんが来て、真帆ちゃんと水沢さんが来る。

聡志が車で来て、織田君が助手席に乗っていたので合計7人だ。

聡志の車は8人乗り。

だけど、荷物がかなりあって大変なので、杏子さんが車で来てくれることになっている。


「お待たせーっ」


10分ほどたって、杏子さんがスポーツカーに乗ってやってきた。


シルバーの車体が、太陽を反射してギラギラと輝いている。

サングラスをかけた杏子さんが降りてきて、僕にどすんとぶつかってきた。

夏らしいセクシーなキャミソールで、すごく大人っぽかったけど目のやり場に困る。

胸はないけど、だからこそ見えちゃいそう。


「これ、杏子さんの?」


聡志がスポーツカーに興味を持って、杏子さんは僕の腕に肘を絡ませながら答えた。


「中古だけどね。1850円」


「やす!」


「ご飯一回で譲ってもらった。車検切れてたし」


「ああ、なるへそ」


「初心者だし、ぶつけても平気なやつがいいと思って」


杏子さんは快活にあははと笑った。

いかにも、細かいことは気にしない杏子さんらしい。

確かに、よく見るとあちらこちらに使用感がある。

それに、塗装の質感が古い感じ。


「さ、乗って乗って」


荷物を2台に分けて積んで、適当に車に乗り込む。

杏子さんの車にミキちゃんを先に乗せて。

僕も乗り込んでドアを閉めようとすると、水沢さんがやってきて滑り込んだ。

期せずして、両手に花の構図になる。


「おっ、豪家3P!」


バックミラーを覗き込んで杏子さんが下品に言う。

助手席の千晶さんが優しく肩を叩いて突っ込んで、車はゆっくりと出発した。


「別にいいんだけど、なんでこっちこんなぎゅうぎゅうなの?」


走らせておいてから、杏子さんが言った。


聡志の車は、8人乗りなのに、聡志と織田君と加奈の3人。

こっちのスポーツカーは、杏子さんと千晶さん、ミキちゃんと水沢さんと僕。

スポーツカーだし、狭い。

そんな不条理なことをしちゃうのも、若さですよね。


ま、単純に、乗ったことのないほうに乗ってみたいってのはあるけど。

あるよね…?

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