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対角線に薫る風  作者: KENZIE
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第46話 本気出してみた

目覚めるともう外は暗くて、杏子さんの姿はなかった。


まだ頭が重いけど、だいぶよくなったようだ。

力を振り絞って、のそのそとベッドから起き上がってトイレに行く。

用を足して、冷蔵庫に入っていた水を飲んでまたベッドに戻る。

そこでTシャツが湿っていることに気がついて、着がえようと脱いだところで玄関のドアが開いた。


「あら。起きた?」


杏子さんだった。出かけていたらしい。

慌ててTシャツを着ると、するすると僕によってくる。


「そんなに急いで着がえなくてもいいのに」


「あ、汗がすごかったんで…」


「答えになってないけどまあいいや。お腹すいた?何か食べれそう?」


「うん」


まだだいぶ熱っぽい気がするけど、体の節々がギシギシ苦しいのはよくなった。

普通に、動ける。

山は越えた。

皆の衆、山は越えたぞ…!


「適当に何かつくってあげるからさ」


「今日はなんか杏子さんが神様に見える…」


「杏子様とお呼び」


杏子さんはオホホホホと言いながら口に手を当てて、それからウヒヒと笑った。

本当、一緒にいて退屈しない人だ。


覗かれないように、布団にもぐってこそこそと下着を替える。

そのまま横になって様子をうかがうと、杏子さんはキッチンでせっせと何かつくっていた。

余計なことかもしれないけど、料理なんかできるのかと心配になった。

いつも千晶さんやミキちゃんに任せきりで、包丁を握っている姿など見たことがない。


「熱測った?」


手が空いたのか、ベッドのそばに来て僕の額に手を乗せる。


「ううん」


「測りなさい」


体温計を挟むと、杏子さんはまたキッチンへ。

黙って待っていると、体温計の電子音が鳴って、杏子さんが慌ただしく戻ってきた。


「何度?」


「37度6分」


体温計の数字を読み上げると、杏子さんは体温計を覗き込んで、それから僕を見た。


「少し楽になった?」


「うん」


「ご飯食べて寝れば治るかな」


そういって、杏子さんはまた戻っていった。

新婚さんみたいだなあと、不覚にも思ってしまった。

 

ぼんやり、天井を見ているとやがて杏子さんが料理を運んでくる。

たまご雑炊と大根のサラダ、もやしとほうれんそうのナムル。

ナスとひき肉の味噌のやつ。

どれもこれも美味しそうで、僕は驚いた。


てっきりレトルトカレーとかインスタントラーメンとか出てくると思っていたのに。


「これ、本当に杏子さんつくったの?」


「そだよ。やるもんでしょ?」


「そのへんにミキちゃん隠れてないかな…」


「探すな!」


杏子さんは笑って、僕の前に座った。


「よーし。一緒に食べよ」


「はい」


「このあと、星島のことも食べちゃう予定だし!」


「いえ」


いただきますを言って、おそるおそる料理を口に運んでみた。

正直あまり期待していなかったけど、杏子さんの料理は想像していた以上においしかった。


「あれ。おいしい」


素直に言うと、杏子さんはかくんと頭を落とした。


「あれってのはどういう意味よ…」


「あ、いや、料理できないって思ってたから」


「星島って、あたしのこと誤解してない?」


「そうかも。茄子美味しい」


「あたしのも食べる?あたし食べる?」


「わざわさ言い直さなくていいから」


食事を終えると、杏子さんは片付けまでしてくれた。

それから僕をベッドに寝かしつけ、ベッドに頬杖をついて僕の顔を覗き込んだ。

顔が近くて照れていると、杏子さんは自分の髪をつかんで僕の顔をくすぐった。


「星島が寝たら帰る。顔に落書きしてからね!」


ウヒヒと笑う。

本気でしそうだから怖いけど、いつもいつも明るい杏子さんに僕は感謝をした。


「杏子さん。いろいろありがとね」


「ん。惚れた?」


「うん」


「ならよし。寝なさい」


「うん」


とは言っても、ずっと寝てたから眠くない。

結局、1時間くらいとりとめのないおしゃべりをしてから杏子さんは帰っていった。

2人きりでそんなに話をしたのは初めてだったけど、何だか心が温かく落ち着いて、少し具合がよくなった気がして深く眠れたのだった。

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