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対角線に薫る風  作者: KENZIE
197/206

第197話 狭間の時間

途中、店によっておやつを買って選手村に戻る。


僕らの部屋に、杏子さんが来てごろごろしていた。

ソファーに寝そべりながら焼き肉を焼いている。

僕のやつを使って、真帆ちゃんと協力プレイをしていた。

千晶さんがそれを後ろから覗き込んでいる状況だ。


「あ、お帰り」


真帆ちゃんが言って、杏子さんは半分だけ振り向いた。


「星島、マンモ倒せないんだけど!マンモ!」


「マンモスはまだ無理ですって」


「ぬーっ」


「はい。おやつ買ってきました」


「ん」


ゲームに夢中でそれどころではないのか、杏子さんも真帆ちゃんも見向きもしなかった。

食いしん坊がいないので、せっかく買ってきたのにちょっと寂しかった。


千晶さんがコーヒーを入れてくれたので、僕と水沢さんと3人でティータイム。

後藤さんと本間さんは、世界陸上の動画を見ている。

参加している立場なので、見れない種目とかあるからね。

僕も、あとで録画したやつを見よう…。


「よし、決めた」


と杏子さん。


「アサミACのメンバーは、みんなこれ買うこと」


「何それ」


「人海戦術でマンモス倒す!」


「なるほどね」


ちらりと覗いてみると、マンモスにだいぶやられたらしい。

僕の村の人口がかなり減っていた。

ちまちま育ててきたのに…。


「面白そうですよね」


水沢さんが呟いて、真帆ちゃんが振り返った。


「ちょっとやってみる?」


「えと。いいんですか?」


僕がうなずいたので、水沢さんと真帆ちゃんが交代。


席を替わるなり、真帆ちゃんが僕の袖を引っ張った。

何だかよく分からないまま、玄関のほうに連れていかれる。

ちゃんまげがくるくる揺れているが、何かあったのだろうかと思った。


「な、何?」


「デート、どうだった?」


「え、いや、別に、ご飯食べて帰ってきただけ」


「今日、何の日か知ってるよね?」


「水沢さんの誕生日」


答えると、真帆ちゃんは眉を開いた。


「珍しい!朴念仁なのにちゃんと覚えてたんだ!」


「やかましい」


ぐりぐりとちょんまげを回す。


「ちゃんとメモしといたから。プレゼントも買ってあるし!」


「ならいいや。今日の夜、サプライズでパーティーするからね!」


「OK!」


ニヒヒと2人で笑う。

何だろうね、サプライズパーティーって、何でこんなにワクワクするんだろうね。


「じゃあ、ケーキ受け取ってくるから」


「うん。1人で大丈夫?」


「亜由美さんと一緒に行く」


「そっか」


真帆ちゃんはケーキの受け取りへ。


怪しまれないように、僕はさりげなーく部屋をフラフラした。

それから、水沢さんのを後ろから覗き込んでみる。

人口が1になっている。

全滅しちゃったみたいだ。


「ねえねえ、星島クンさあ」


ゲーム画面から目を離さずに、杏子さんが言った。

星島、クン…?


「あたしネ、前から思ってたんだけど、咲希のこと、水沢さんって呼ぶじゃないのさ?」


「うん」


「杏子さん、亜由美さん、千晶さん、ミキちゃん、真帆ちゃん。みんな名前で呼ぶじゃんヨネ」


「うん…」


「なのに咲希だけ水沢さんっておかしいと思うワケヨ?」


ああ、ぎこちない女王。

きっと、水沢さんから頼まれたんだろうな。

首筋まで真っ赤になっている水沢さんの後ろ姿を見ながら、僕は悟った。


「じゃあ、これから咲希ちゃんって呼ぼうかな…」


「うんうん、それがいいよネ。いいんだヨネ?」


水沢さんがコクコクとうなずく。

かわいかったけど、若干、気の毒だった。

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