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対角線に薫る風  作者: KENZIE
183/206

第183話 メダル第1号!

やがて、女子マラソンの選手が競技場に戻ってくる。


現在、長距離の世界はエチオピアやケニアといったアフリカ勢の勢いがすごい。

だからどうしても難しいと思われたが、鈴木沙織が頑張った。

30キロ付近で先頭集団から離されかけたものの、粘って粘って3位でゴール。

見事銅メダルを獲得したのだ。


「充電っ、あれ、マジで効くかもっ!」


選手たちが続々ゴールしていく中、興奮気味に亜由美さんが騒いだ。


「だって、沙織さんとまおちゃんだよ、充電してもらったの!」


銅メダルの鈴木沙織と、5位の高山奈緒美。

上位の選手は、どちらも、僕が充電した選手だ。


「偶然ですよ、偶然」


「偶然かどうか決めるのはあんたじゃないっ!」


亜由美さん、壊れちゃったかもしれない。

大声で騒いで、周りの人の半分は苦笑い、残りの半分は興味津々といった感じだった。

杏子さんは、何も言わずにアハハハと笑って手を叩いている。

水沢さんは熱い視線。

何というか、もう、好きにしてください…。


「今日、絶対、レース前に充電してもらうからね!」


「はい…」


女子マラソンが終わって、午後になる。

日本チームとしては、最高の滑り出しだ。


明るくおしゃべりしながら、いったん選手村に戻って食事をとる。

1時間ほど休憩したけど、午後のセッションは19時からなのでまだだいぶ時間があった。

男子100mの予選は、20時45分から。

こんな遅い時間にレースをしたことはない。

だけど、オリンピックや世界陸上では大抵このくらいの深い時間になる。

その点でも、調整は難しいかも。


「そろそろ、行こうか」


「はい」


16時過ぎ。

選手と指導陣がロビーに集まって、ぞろぞろと競技場へと向かう。

微風。

白い雲が空を走っていて、気温はさほど高くはなかった。


まだだいぶ時間はある。

のんびりサブトラック内を歩いたり、ストレッチをしたり。

おしゃべりをしながら徐々にエネルギーを体内に蓄えていく。

各国の選手が、色とりどりのジャージでそこかしこにたたずんでいる。

それを見ただけでも、何だか妙に緊張感が高まってくる感じだ。


「スタートリスト、出たぞ」


日が落ちて、サブトラックの照明が点灯したころ、加納コーチが戻ってきた。

予備予選の結果を受けて、予選の振り分けが終わったらしい。


「どれどれ」


関係のない杏子さんが受け取って、それをみんなが覗き込む格好。


目で追っていくと、本間さんが1組、後藤さんが3組、僕は6組といった感じだった。

6組の選手は、と見ると、シーズンベスト9秒台が2人。

ジャマイカの選手とバハマの選手だ。

それぞれ、世界大会でよく見かける名前である。

トップアスリートと呼んでも過言ではないだろう。

金メダルはともかく、決勝でも上位を狙える選手だ。


それから10秒09が1人、10秒14が1人。

シーズンベストで見ると僕は5番目といったところだった。


「うーん。死ねる…」


後藤さんの入った3組には、優勝候補、アメリカのギルバート・ガードナーがいる。

さらに、ジャマイカのダミアン・ロドリゲスもいた。

予選は3着+3なので、2人が抜けて当確になってしまうと残りは大変だ。

  

もっとも、日本の選手に限っての話ではない。

楽な組などどこにもないのだ。

どの組にも持ちタイム9秒台は2人以上いるので、予選突破はかなり困難なのである。

ジャマイカの選手だって、アメリカの選手だって、準決勝に残るのは簡単ではない。


「勉強だぞ。勉強勉強」


加納コーチが手を叩きながら言った。


それから、ありがたいお説教。

特に真新しい話でもないし、無駄に熱くて長かったので割愛。

要するに何事も勉強だぞ、ということだ。


「分かったか」


「はーい」「はーい」


皆、返事はいい。

別に、聞き流しているわけではない。

コーチを軽んじているわけでもないのだが、暖簾に腕押しという気分になったのだろう。

加納コーチが鼻白んだところで、新見が立ち上がってぶんぶんと手を振った。

トラックの外の、誰かに向けて振っている。


「知香ちゃんきた」


「お」


見ると、サブトラックの外で、知香ちゃんと宝生さんがこっちを見て踊っていた。


その横で、帽子をかぶった美女が稲森監督と何か話している。

遠目に見ても、風になびく長い髪がとてもきれいだった。

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