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対角線に薫る風  作者: KENZIE
181/206

第181話 開幕

翌朝、僕は5時半に目を覚ました。


「んー…」


あまり上手に眠れなかったが、いよいよ、世界陸上開幕だ。

ついに、勝負の日がやってきた。

んが、男子100m予選は20時45分からなので、こんな早起きしても意味がない。


本間さんや後藤さんは、まだ眠っている。

ベッドの上で伸びをして、もうちょっと寝ようと思ってごろごろしたけど、脳が目覚めてしまったのか眠れなかった。

欠伸をしながら体を起こす。

ゲームでもしようとスイッチを入れたけど、一人だといまいち面白くない。

すぐに飽きて、僕はもぞもぞとベッドから脱出した。


(うーん…)


寝起きだけど、お腹が空いた。


散歩がてら、コンビニでも行こうかと思ったけど、ここは日本ではないことを思い出した。

ブリスベンは治安がいいとは聞くけど、それでも日本と比べたら気分的に怖い。

早朝だろうが深夜だろうが、1人で出歩けるのは日本くらいなものだろう。

そもそも、コンビニがあるかも分からんし。



「お腹すーいた、お腹すーいた」


加奈の真似をして歌いながら部屋を出る。


6時ころに食堂が開くかもしれない。

そう思って、あくびをしながらエレベーターで一階まで降りていく。

やってたやってた。

既に、けっこうな人数の選手が食事をとっていた。

午前中のセッションに出る選手だろう。


食事は、基本的に無料。

ヴァイキング形式でいろいろな料理が並んでいて、注文すれば出してくれるものもある。


「おはようございます。これを、ください」


4番のカウンターのところで、無表情の女の子にメニューを指差して注文。

チキンサンドみたいなやつ。

女の子に無言で番号札を渡される。

ミキちゃんみたいだなと思った。


「オープンは、何時ですか」


「open for 24 hours」


「大変ですね。ありがとう」


そこまで言うと、やっとちょっとだけえくぼを見せる。

コーヒーを入れてトレーに乗せてしばらく待っていると、番号を呼ばれる。

チキンサンドをゲットしたぞ。

それから、洋梨があったので一つ選んで、チョコケーキと目が合ったのでトレーに乗せた。

一人暮らしではできない豪華な朝食だ。


まあ僕の場合は、ミキガミサマがいるからあれだけども。


「…しじま君、星島君」


誰かに呼ばれて、キョロキョロと探すと、奥のほうに亜由美さんの顔が見えた。

手を振って呼んでいる。


トコトコと歩いていって、遠慮がちに隣に座る。

女子マラソンの鈴木沙織と高山奈緒美がいて、ニコニコと僕を見ていた。

女子マラソンは朝9時にスタートだから、もうすぐだ。


「おはようございます。早いですね」


「4時に起こされた」


「星島君はなんでこんな早いの?」


「あ、何か目が覚めちゃって」


軽くおしゃべりしながら食べる。

 

洋梨は大味でいまいち。

チキンサンドも微妙だった。

前回の、オタワ世界陸上の選手村の食事は美味しかったらしい。

本間さんがため息まじりで言っていた。

今回はハズレらしい。


「チョコケーキ、美味しい?」


鈴木沙織が覗き込んで言う。


「まあまあ。レース終わったら食べてください」


「そうしよ。ね、星島君、充電ってのしてもらっていい?」


「あ、あたしも!」


女の子からこんなふうに言われてですよ。

駄目ですとか嫌ですとか、断ることができますでしょうか。


むろん、断ることもできず、食堂を出たところの柱の影で2人をぎゅっと抱き締めた。

もちろん、こんなことをしてもどうならないと思う。

だけど、プラシーボ効果というものもあるし、とにかく頑張ってほしいと思った。

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