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対角線に薫る風  作者: KENZIE
179/206

第179話 開幕前日

金曜日。

世界陸上開幕前日。


いよいよ明日、開幕ということで、ブリスベンはお祭りのようなムードが漂っていた。

テレビや新聞も、世界陸上一色。

各種目のメダル予想、注目選手の動向などが取りざたされている。


「はい、お疲れさま。短距離チームは、午後はオフ」


午前中いっぱい体を動かして、に選手村に戻ろうかというところで加納コーチが言った。

誰からともなく、拍手が起こる。

別に拍手するようなことでもないのだが、僕もつられて手を叩いてしまった。


「だからといってはしゃぎすぎないこと」


「はーい」


「外出するときは必ず言うこと」


「はーい」


「無断外出して、カジノに遊びに行って、次から代表に呼ばれなくなったやついるの知ってるな?」


「はーい…」


理屈としては、オフなんだから何したって自由なわけ。

だけど、派手に遊んでたら、気に食わないって文句をいう人がいっぱいいるわけ。

税金使って海外行ってどうこうとか言う人がいるわけ。

それって単なる難癖にすぎないわけ。

だから理屈を振りかざして反論してもいいんだけど、それだと疲れるわけ。

わざわざ、競技外のことで集中を乱される必要はないわけ。


そんなようなことを、出発前にミキちゃんに説教いただきました。

要するに、脇を締めていけってことかな。


「まあ、食事くらいならいいだろう。変なもの食べるなよ。特に前原は買い食い禁止」


「ぎゃふーんっ!」


名指しで言われて、加奈はばたんと芝生の上にひっくり返った。

みんな笑っていたけど、加納コーチだけ笑っていなかった。

もしかすると本気だったのかもしれない。

食べすぎでお腹痛くなったとか、加奈だといかにもありそうだからだ。


「ほしじまーん」


サブトラックを出て。

選手村に向かって歩いているときにわめいて飛びかかってきたのは、杏子さんだった。

すぐ後ろにいたようで、どすーんと僕の背中にぶつかってくる。


いつもいつも思うんだけど、転んでケガでもしたらどうするのか。


「ご飯いこ」


「いいですけど。どこ行くんですか?」


「それは、男が調べて連れてくもんでしょ」


「そういうのは自信ないなあ…」


「自信あるのはエッチだけか」


「えーい、毎度毎度めんどくさい!」


ペシンと軽くチョップをすると、心底、杏子さんはうれしそうに笑顔を見せた。

つっこまれたのがうれしかったらしい。

ちょっと、可愛いなと思った。


「でも、行くならコーチに言わないと」


「許可とった。ね、コーチ?」


後ろを振り返ると、加納コーチがまじめな表情でうなずいた。


「食事して土産物屋に寄るとか、そのぐらいにしとけ。外で酒は飲むな」


「はーい」


いや、千晶さんや新見や水沢さんはともかく。

杏子さんや加奈と一緒に回るのは、ちょっと骨が折れそうかも。

何だか、遠足の引率の先生の気分が分かったような気がした。


「さー、行くよ!千晶、どこ行くか決めた?」


「はーい」


やっぱり、千晶さんの役目らしい。


いったん選手村に戻って、僕らはブリスベンの街に繰り出した。

先頭は、ガイドブック片手の千晶さん。

はなはだ不安ではあるが、一応、僕が通訳的な立場でその横に立つ。


「何食べるんですか?」


聞いてみると、千晶さんはガイドブックを指差してみせた。


「トルコ料理!」


「トルコ料理」


みんなニコニコとしている。

女子の間では既にコンセンサスが取れているらしい。

杏子さんも文句1つ言わず、ストリートに並ぶ店をきょろきょろと見回している。


「世界三大料理ですね」

 

ぴったりと僕に寄り添って、水沢さんは笑顔を見せた。

ときどき、肩がこすれあう。


「世界三大料理っていうと…」


「トルコ料理と、フランス料理と中華料理です」

 

「トルコ料理ってどんなの?ケバブとか?」


「どんなのと言われると難しいですけど」


「食べれば分かるっ…!」


言いながら、杏子さんがどしんと突進してきた。

ミキちゃんがいないので、ここぞとばかりに腕を絡ませてくる。


「ご飯食べて、おやつ買って帰ってビール飲みながらごろごろしようぜい」


「今、杏子さんが珍しくいいこと言ったっ…!」


「もちろん星島のおごりでね!」


「そんな、社長~」


「社長って言うなあっ!」


テンション高く、ブリスベンの街を歩いていって、少し迷い、トルコ料理の店に到着。

わざわざオーストラリアまで来てトルコ料理とか思うけども…。


「あー、シックスパーソン」


少々混んでいたが、僕の鮮やかな英語で問題なく座れた。


トルコ料理なんて初めてで、何を頼んでいいのか分からない。

なので、コース料理にしようということで、みんなで豪華なイスタンブールコースを注文。

お一人様38ドル。

日本円で4千円弱といったところだ。

ちょっとお高いが、社長がごちそうしてくれるらしい。


もう、杏子さんには一生ついていくっ…!

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