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対角線に薫る風  作者: KENZIE
176/206

第176話 練習ではわりと出るらしい

スタジアムでの練習は、ほんの30分ほどで切り上げる。


調整はサブトラックですればいいわけで、無理に硬いレーンでやる必要はない。

ほかの国の選手も、ほとんどがサブトラックで体を動かしている。

特に、大会序盤から競技が行われる短距離の選手だ。

まだ大会期間に突入していないので、今のところはまだ牧歌的な雰囲気。

皆、比較的平和な表情をしている。


「お腹すーいたっ、お腹すーいたっ」


しばらく体を動かしていると、例によって加奈が連呼し始めた。

加納コーチが時計を覗いて考える。


「いい加減、前原に餌やらないとダメか」


「えへへ。褒めてもご飯は出ないよ!」


「うん。褒めてないし意味分からんけど、昼にしよう」


「わーいっ!」


加奈が万歳して、ぞろぞろと選手村に戻る。


お昼ご飯を食べて、若干休憩。

腹ごなしに、僕は肉を焼いていた。

シカの肉だ。


「どうする?またマンモス行ってみる?」


また、杏子さんが無茶を言い出す。

マンモスは、相当な戦力がないと無理だ。


「まだ無理でしょ、マンモスは」


「うち食糧全然足りないよ」


「無計画に村人増やすからでしょ」


「あたしらも子づくりしない?」


「しない」


「ちぇっ。ちょっと食糧ちょうだい」


「ちょっとだけよ」


僕たちの部屋のリビングで、ソファーでごろごろしながら焼き肉ゲームをする。

 

本間さんは、何かイヤホンで音楽を聞きながら本を読んでいる。

後藤さんは暇そうにスポーツドリンクを飲んでいる。

時折、構ってほしそうに杏子さんにちょっかいを出していた。


後藤さんと杏子さんは、以前から仲がよかったみたい。

同い年だしね。

昔からずっと、全国大会とか合宿とかで一緒だったんだと思う。


新見と加奈、千晶さんはお昼寝中らしい。

ひとりぼっちで退屈だったらしく、水沢さんが僕の横でゲームを覗き込んでいた。


「にゃ…、猫は出てこないんですか?」


「にゃんこは出てこないなあ」


からかうと、水沢さんに軽く腕をつねられる。

拗ねた微笑もまた二枚目だった。


「女子の高跳びって、大会の最後のほうだよね?」


気になったのか、スポーツドリンクを飲みながら後藤さんが尋ねた。


「なんでこんな早く来てんの?」


バカ正直な物言いだった。

助け舟が必要かなと思ったけど、水沢さんはちらりと僕を見てから後藤さんのほうを見た。

まあ、僕が舟を出したところで泥船か笹舟がいいところなので、適切な判断だ。


「初めての世界大会なので、いろいろ勉強しようと思って」


「ふうん…」


「みんなのエネルギーを分けて欲しかったのもありますし」


「みんなの、ねえ」


含みのある言い方をして、杏子さんはゲーム画面から顔を上げた。


「だったらさ、一番活躍した人と付き合っちゃえばいいじゃん」


「え?」


「ナンバーワンスプリンターと付き合う」


「何でそうなるんですか」


水沢さんは当然のつっこみをしたけど、後藤さんがぐっと身を乗り出した。


「今、ナンバーワンスプリンターといったら、まあオレだろうな!」


「そうかなあ」


興味なさそうに杏子さんが言うと、後藤さんはさらに身を乗り出して前傾姿勢になった。


「自慢じゃないけど、インカレ4連覇したしな!」


鼻息がめちゃくちゃ荒い。


「前回の世界陸上でもオレだけ予選突破してるし!練習で9秒台マークしてるしな!それに…」


半ば冗談で力説していたけど、皆、黙って聞いていたので恥ずかしくなったらしい。


「待って、今のなし。カッコ悪い。忘れて」


慌てて手を振って前言を撤回する。

何となく、可愛かった。

顔はゴリラだけども。

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