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対角線に薫る風  作者: KENZIE
168/206

第168話 恒例の夏合宿

学生最後の、夏。

それを締めくくるのは当然、世界陸上。



と言いたいところだが、僕は出れないので、そのあとのインカレになる。

締めくくるには若干早い。

まだ夏はしばらく続いていくが、中休みということで、僕らは恒例の夏合宿へ出発した。

みんな、本当はそんな暇ないんだけど、ちょっとだけ。


「とうちゃーく!」


運転していた杏子さんが、別荘のガレージに車をとめてサイドブレーキを引く。


参加者は、杏子さんと千晶さんと新見。

それに僕とミキちゃんと聡志と加奈。

真帆ちゃん、水沢さん、織田君。

まあ、去年とほぼ同じメンバーだが、初参加の本間君と詩織ちゃんがいる。


知香ちゃんと金子君と宝生さんは、不参加。

それぞれ、世界陸上を見に行くためにバイトをしているみたい。


亜由美さんは、マラソン代表のメンバーと一緒に、メキシコで高地トレーニング中。

すごいよね。メキシコで合宿。

将来は本気で金メダルを狙えそうだし、帰ってきたらサインをもらっておこうと思う。


「さーて。さっそく泳ごうかね!」


車を降りて元気よく杏子さんが言ったけど、誰一人として賛同しなかった。

ざんざん降りで、すっかり雨模様だったからだ。


「去年は全然降らなかったのに」


千晶さんがぽつりと言うと、杏子さんが新見のほっぺたを両手でぷにっと挟んだ。


「雨女発見!」


「違いまふよお」


女性陣がじゃれあっていると、ちょっとだけ遅れていた聡志の車がやってきた。

 

車から荷物を下ろし、ガレージの中からそのまま家に入る。

お勝手口みたいなところから。

短い廊下がキッチンの横につながっていて、僕たちはそこを通ってリビングに出た。


「荷物置いたら下りてきて」


言いながら、杏子さんはソファーにごろんと横になった。


「ちべたいアイスコーシーでも飲もうぜい」


「はーい」


みんな、ふかふかのじゅうたんを歩いていって2階にいき、適当な部屋に荷物を置く。

勝手知ったるじゃないが、毎年のことなので慣れたものだ。

いくつか二人部屋もあるので、ミキちゃんと一緒に…、と考えなくはなかったが、向こうがさっさと奥のほうの一人部屋に入っていってしまったので、僕は聡志と二人部屋に入った。

反対側の角部屋で、窓からの見晴らしがよかった。


本間君と詩織ちゃんが、堂々と2人部屋に入っていく。

ちょっと羨望の眼差しを向けてしまう。


「モモちゃんも、おやつにしましょうね」


下りていくと、リビングで、水沢さんが目を細めてモモちゃんを抱っこしていた。

亜由美さんの飼い猫のマンチカンだ。

亜由美さんがメキシコ合宿から帰ってくるまで、預かることになったらしい。


水沢さんが目を細めて頬をすり寄せると、モモちゃんは舌を出してぺろぺろと舐める。

うらやましい。

どっちの立場もうらやましい。


「モモちゃんより、先にあたしに何かつくってえ」


ソファーにうつ伏せになって、杏子さんが長い素足をぶらぶらさせていた。

おやつの時間だけに、小腹が空いたらしい。


「フライドチキン食べたーい」


「フライドチキン…」


キッチンで、ミキちゃんが冷蔵庫の中を確認してちょっと困った顔をする。


「骨なしでもいいですか?」


「あとシェイクが飲みたいな。チョコシェイク」


「それはちょっと時間かかるかも」


「つくれるんかい」


自分で言ったくせに、杏子さんがつっこんだ。

それから、顔を上げて僕らのほうを見て、聡志を見つけると手をくるくると回した。


「橋本、チーズバーガーとチョコシェイク買ってきて!」


フライドチキンがどこかにいってしまったが、聡志は露骨に嫌そうな顔をした。


「えーっ…」


「あとでキスしたげるから」


「嘘だ。絶対嘘だっ!」


信じない聡志。

それはそうだけど、杏子さんはいたって真面目な顔だった。


「ほんとだって」


「嘘だ…、ほっぺに?」


「いやいや、ちゃんと口に」


「おれと、杏子さんが?」


「キスだけね。ディープキス可」


「絶対嘘だ…」


「そんな嘘ついてもしょうがないでしょ。みんなのいる前で」


「マジすか…」


「行くの?行かないの?」


「えと、何個買ってくればいいのかな?」


けっこうな風雨の中、織田君をお伴に連れて、聡志は車に乗って来た道を戻っていった。

絶対騙されていると思ったけど、黙っておいた。

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