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対角線に薫る風  作者: KENZIE
167/206

第167話 サプライズ

翌日の昼遅く。


新見はトラックに顔を出すと、ストレッチをしていた村上道場のメンバーのところにやってきて、トテッと倒れた。


例によって、密着取材のカメラが付いてきている。

最初はカメラの存在に緊張したけど、最近はもう慣れてしまった。


「疲れた…」


大きく、息を吐く新見。

たぶん、あまり寝ていないんだと思う。


「お疲れさん。大丈夫?」


「ミキちゃんのご飯、食べれなかった!」


横になってごろごろしながら、ぷいぷいと唇をとがらせる。

それどころじゃないような気がするが、心残りだったらしい。


「いや、昨日は何もしなかったよ。杏子さんも千晶さんもいなかったし」


「ふうん。まいっか、高級焼き肉弁当食べさせてもらったから」


「焼き肉?」


その言葉に反応して、身体を起こしたのは加奈だった。


「焼き肉弁当。焼き肉屋さんがつくったやつ」


「焼き肉屋さんっ…!」


「1個3800円だって」


「3800えんっ…!」


「ふたつも食べちゃった」


「ふたつうううっ…!」


奇声を上げて後ろにばたんと倒れる加奈。


「お腹すーいたっ、お腹すーいたっ」


「お昼食べてないの?」


真帆ちゃんに聞かれたけど、加奈は無言。

もう消化してしまったんですね…。


「今日?今日やる?」


「ん?」


「ごちそう的な」


新見がやっと、笑顔を見せる。

偉業を達成したのに、それを誇るでもなく、いつもどおりだった。


「いいけど、ミキちゃんが何というか」


「ミキちゃんは?」


「あれ。部室にいなかった?」


言っていると、ミキちゃんが部室から出てきた。

何かプリントを持っている。

待っていると、こちらに歩いてきて、新見を見て少し眉を持ち上げた。


「おはよう」


「おはよ。何それ?」


「日本代表、発表されたから」


「わっ。見せて見せて」


みんないっせいに集まる。

首を傾けて、僕もプリントを覗き込んだ。

 

視線を走らせたけど、男子短距離のところに、星島望の名前は載っていなかった。

そりゃそうだ。

本間隆一、後藤俊介、玉城豊。

それから、土井恒星、本間秀二と載っていて、あとは400mの選手だった。

4Kは、男子100mの3人かな。

それと、200mに出る土井恒星か、本間秀二がメンバーだろう。


仕方あるまい。

覚悟していたので、さほどショックはなかった。


そして、女子短距離のところに視線を移すと、新見沙耶の名前が載っていた。


「おおお」


日本選手権に出ていない新見が、世界陸上の代表に選ばれている。

グランプリを日本記録で優勝したことが、考慮されたのか…?


「新見、載ってる!」


「え、嘘」


新見が目をぱちぱちさせて覗き込んだが、嘘じゃなかった。

堂々、一番最初に山田千晶と載っていて。

新見沙耶、前原加奈、山本幸恵、宮本真帆と続いている。


「わっ。ほんとだ!」


「おめでと!」


「やったーっ!」


新見がうれしそうに万歳をした。

手を伸ばすと、うれしそうにハイタッチしてくれる。


「いやーっ、超うれしい!」


「おめでと!」


真帆ちゃんと加奈も代表に選ばれた。

何かやけに静かだと思ったら、二人とも抱き合ってわんわんと泣いている。


「うれしいよう」


「あーん」


「うわーん」


新見までぼろぼろと泣き出して、危なくもらい泣きしそうになってしまう。

その点、ミキちゃんはさすがです。

眉毛をちょっと動かして、やれやれといった感じで見ているだけなんですから…。


並び順を見る限り、女子100mは千晶さんと新見と加奈だろうか。


「結果的に、A標準を突破した3人ね」


ミキちゃんの言葉に、新見がぽんと手を叩いた。


「あ、そうかそうか。2人しかいなかったんだ」


「山本さんあたりがB標準出してきてたら、また事情も変わってきてたんだろうけど」


「そだね。日本選手権3位だから…」


A標準突破者が、千晶さんと加奈。

B標準は誰もいなかった。

1枠空いているところに、新見が滑り込んだ格好だ。

日本選手権は出てないけど。

まあ、ほかにいないからいいんじゃない?みたいな。


そのほか、杏子さんと亜由美さんも代表入り。

水沢さんは女子フィールド種目で唯一の代表だった。

まず、順当なところか。


(うーん。ミキちゃんと2人で、オーストラリア旅行しようかなあ)


ゴルフクラブを売ったお金で、そうしたい。

だけど僕がお金を出すだなんて言ったら、ミキちゃんはいい顔をしないだろうなあと思った。

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