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対角線に薫る風  作者: KENZIE
165/206

第165話 不労所得

ミキちゃんと、ご飯を食べる。


たっぷり1時間くらいかけて、何とか機嫌を直してもらった。

コツは、ひたすら謝罪することだ。

ミキちゃんを言い負かそうと思っても無理。

僕より何倍も頭がいいし、理論武装はできているし。

嘘をついてもばれるので、正直に言って謝るしかないのだ。


まあ、謝るようなことは、してないんだけど。

そんなには…。


「ごちそうさまでした」


大体機嫌が直ったところで戻ってくると、大変なことになっていた。

スタンドで、いまだに聡志と織田君が酒盛りをしている。

いや、そうではなく、男子200mで日本記録が出ていたのだ。


「おおお」


思わず、感嘆の声を漏らしてしまう。


記録板の前で、本間隆一が記者に囲まれていた。

いつの間にか、トラックの上は風が巻いていた。

追い風1.2mと条件がよかったのもあるのだろうが、堂々の日本記録だ。

1千万円プレゼント、第1号である。

本間隆一の横のほうで、当たったらしい女の子が大きな目録を抱えて半狂乱になっている。


そりゃ、陸上見に来ていきなり1千万もらえたらね。

でも、多分、来年も絶対来てくれると思う。

友達をいっぱい連れて見にきてくださいね!


「ごめんね。見たかったでしょ」


座りながらミキちゃんが言う。

もちろん、観戦するつもりで余裕を持って帰ってきた。

しかし、階段のところで、人を避けようとしてミキちゃんが足をひねってしまったのだ。


慌てて、詩織ちゃんを呼んで。

面倒くさがるミキちゃんを引っ張って医務室に連れていって。

湿布とテーピングをしてもらって。

それで、スタンドにきたころにはレースが終わってしまっていた。


「あとでビデオ見るからだいじょぶ」


「弟が2位だぞ」


「お」


聡志に言われて電光掲示板を確認すると、確かに本間君が2位に入っていた。

兄の本間隆一が20秒03の日本記録。

それに引っ張られてか、弟の本間秀二が20秒25。

A標準が20秒60なので、かなりいいタイムだ。


これは、もしかすると兄弟で代表入りか。

確か、200mはA標準突破者が2人しかいなかったはず…。


「はー。さすがだなあ」


思わず感心してしまった。

十文字は5位。

タイムもいたって平凡。

こっちは駄目だろう。

何というか、実力の世界だから仕方ないのだが、ちょっとかわいそうだった。


「兄弟で代表か。また何か騒がれそうな…」


「そうね」


「またテレビきそうだなあ」


「そうかもね」


ミキちゃんはあまり興味がなさそうだった。

プログラムを開いて、スタートリストのところに何か書き込んでいる。


「今シーズン終わったら、200mも始めてみる?」


ふいに、ミキちゃんはそんなふうに言った。

ちらっと僕を見て、それからまたプログラムに視線を落とす。

200mか。

やってやれないことはないと思うけど…。


「そんな余裕ないかしら」


「いや、チャンスがあるなら何でもやる。オリンピックもあるし」


「そうね」


「おーれーはー、どうすればいいでしょう」


聡志が割り込んでくる。

ミキちゃんは顔を上げて、ちょっと考えるような顔をした。


「橋本君は、どうすればいいのかしらね…」


「あーん。さじ投げられた」


「とりあえず朝練してみるとか」


「ぐう…」


聡志はまた眠ってしまった。おやすみなさい…。

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