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対角線に薫る風  作者: KENZIE
128/206

第128話 森のバター

結果だけ見ると、今年の関カレはいまいちだった。


男子はよかった。

本間君が100mで準優勝。

かなり遅れてきた天才こと星島望は3位に入ったし、十文字は200mで2位に入った。


だけど、女子がさっぱりだった。

短距離は、真帆ちゃんが100mで2着に入ったほかは、どうにもぴりっとしなかった。

最終日、水沢さんが172センチと平凡な記録ながら優勝したけど、遅かった。

4Kではバトンミスで失格となり、マイルリレーでも3着に破れ、まさかの総合4位に終わった。


今まで、女子はずっと総合優勝してきたのに。

オールラウンダーの千晶さんのありがたみがよく分かる結果だ。

新見がいないとどうのこうのとか、また浅田次郎に言われそう。

しっかりしてください!


ちなみに、男子の4Kは…、まあ過ぎたことはどうでもいい。


「はー。こんないいとこ住んでるんすね」


最終日が終わって、打ち上げ名目でマンションにみんなが集まる。

織田君が羨ましそうに言ったけど、ミキちゃんの部屋というか杏子さんの部屋というか。

表現的にちょっと微妙なところだ。


今日のメンバーは、食いしん坊の新見が筆頭。

それから、ちょんまげスプリンター真帆ちゃんと、水沢さん。

金髪スプリンターの宝生さん。

男子は、ロシア人の聡志と、高校の後輩の織田君。

以上のメンバーでお送りします。


加奈がいないのと、宝生さんがいるのが珍しい。

加奈は法事で実家に帰って、宝生さんは真帆ちゃんと水沢さんにくっついてきたようだ。


「織田君、初めてだっけ」


「そっすよ」


「そっかそっか」


新見と水沢さんは料理のお手伝い。

聡志も最近自炊にはまっているとかで、美女に囲まれて鼻の下を伸ばしながら手伝っている。

料理の苦手な真帆ちゃんは、ソファーに座ってジュースを飲んでいたが、突然、立ち上がって織田君と一緒に外へ出ていった。

お酒とアイスを買ってくるらしい。

それで、宝生さんと二人になってしまって、リビングが無駄に広く感じられた。


「宝生さん、何か飲む?」


「ああ。別にいい」


「そう…」


若干、重い雰囲気。

キッチンに顔を出してみたけど僕はどう考えても役立たずなので、冷蔵庫からスポーツドリンクを出して、グラスに入れて宝生さんのところに持っていった。

それで僕の仕事が全部終わってしまって、仕方なく少し距離を置いてソファーに座った。


「宝生さんは、料理しないの?」


ぎくしゃくと、聞いてみる。


「まあやってやれないことはないけど…」


「ふうん…」


会話は弾まない。

落ち着かない様子で、宝生さんは貧乏揺すりを始めた。

見た目によらずというか、意外と小心者のようだ。

そんなに、悪い子ではないのかなと思った。


「げ、ゲームでもしようか」


「いいけど…。何あんの」


「何があるかな。何もないけど」


「DR4あるじゃん」


「対戦する?」


「…まあ、いいけど」


バイクで峠道をレースする人気のゲームだ。

いかにも宝生さんらしいなあと思った。


30分くらいたって。

買い物から帰ってくるなり、真帆ちゃんはぽかんとした表情で僕たちを見つめた。

僕と宝生さんが、いつの間にかすっかり仲良くなってゲームをしていたからだ。


「うげ。また負けたーっ!」


「うひひひひ」


負けて悔しかったのか、宝生さんが僕を見てイーっと歯を見せて変な顔をしてみせる。

知らなかったけど、表情豊かな子だ。


「ずいぶん盛り上がってますね」


「真帆ちゃんもやる?」


「え、どうやんのこれ。あ、あ、ぶつかる、ピョッ」


織田君も入れてわいわい遊んでいると、キッチンから料理が運ばれてきた。


大きな皿にポテトサラダが山盛りになっていた。

これがまた最高に旨いのだ。

それと、これも得意料理のから揚げがいっぱい。

あとは僕の大好きなアサリの味噌汁。

 

そして、今日はできあがるのが早いなと思ったらメインは手巻きずし。

思わずテンションが上がってしまった。


「すげえ。超うまそう!」


ゲームのコントローラーを放り投げて、宝生さんが料理を覗き込んだ。

みんなで料理を覗き込み、わたわたと手を洗ってテーブルの前に座る。

いっぱいあるけど、何しろ体育会系、食いしん坊集団だ。

常人の倍くらいは食べてしまう。


「ごちそう、ごちそう」


新見がうれしそうに言いながらぺたんと座った。

水沢さんが僕の隣に座って、最後にミキちゃんが箸をみんなに配って全員がそろった。

一応、グラスにビールを注いで、乾杯をする。

別に何がどうというわけではないので、堅苦しいあいさつなんかは一切ない。


「かんぱーい」


「いただきまーす」


「もぐもぐもごもふ」


いきなり、宝生さんはガブリとから揚げをほおばった。

熱かったのかハフハフハフハフして、ごくんと飲み込む。

小動物みたいだ。


「うまーっ!」


罪のない笑顔。

まるで子どもというか、ちょっと杏子さんに似ているかもしれない。


「ほら、落ちついて食べて」


「もぐもぐもご、もふう、はふはふ…」


真帆ちゃんに諭されて、何か食べながらコクコクとうなずく。

その横で新見が笑顔のままリスみたいにほおばっていて、何だかちょっとおかしかった。


手巻きずしなので、自分の好きな具を適当に入れて巻くのだが、これがなぜか楽しい。

アボガドを入れて巻くとうまいのだ。

森の…、森の何だっけ、森の賢人?とか呼ばれていて、栄養も豊富でいい。

手巻きずしが嫌いな人間は、日本には2、3人しかいないと思う。

星島調べ。


話題は当然、関カレの結果が中心だったけど、走り高跳びの話題になるとテーブルの下でいきなり水沢さんに腕をつねられた。

珍しく、拗ねたような表情をしている。


「充電してもらおうと思ってたのに、いないから」


「え。あ、ウン…」


ミキちゃんがじっと見ている。

ひそひそ話だったので聞こえていなかったと思うけど、逆にそれが不審だったようだ。

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