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対角線に薫る風  作者: KENZIE
122/206

第122話 多分永遠の謎

とりあえず、今日のところは終わったので、スポーツ科学センターをあとにする。

だいぶ、空の水色が薄くなっている時間で、ちょっと肌寒かった。


「会社辞めちゃったのに、こんなとこ来て大丈夫なんですか」


気になっていたことを聞いてみる。

だって、普通、1年間お世話になった会社をあっさり辞めて独立なんてしちゃったらね。

気後れとか、しそうなものだけど…。


「ふえ?」


「や、ライテックス辞めたわけでしょ」


「あー、いいのいいの。最初から1年の予定だったし。円満退社よ」


杏子さんはメールを打ちながら答えた。

よそ見をしながらメールを打てるのは、職人技に認定していいと思う。


「さて。まっすぐ帰る?」


「えーと…、杏子さんは絹山泊まり?」


「うん。千晶んち行こっかな。今のうちに」


「今のうち?」


「あー、アサミの寮できたら引っ越すから」


「へー」


「引っ越しは星島も手伝ってよね」


「それは、はい」


杏子さんはこの前さっぱり手伝ってくれなかったじゃないか、とか思ってはいけません。

そういう人なんです。


「さーて。せっかく都心まで来たし、ちょっと買い物してくか」


「わーい」「いえーいっ」


杏子さんの言葉にミキちゃん以外の女性陣が色めき立って、買い物に付き合わされる。

まあ、たったの3時間ほどです…。


買い物を終えて、電車で絹山市に戻ったころには真っ暗になっていた。

とりあえずミキちゃんのマンションに荷物を運ぶ。

それから、タクシーを呼んでみんなで近くのスーパー銭湯へ。

大きめのお風呂に入ってゆっくりする。


「たまにはいいね、こういうの」


女性4人、リラックススペースの畳の上に寝転んで、亜由美さんがほっと息を吐いた。


「シーズン終わったら温泉でもいこっか。混浴の」


「う。亜由美さんが杏子さんみたいな発言を…」


「え~?あたしけっこうそういう人だよ」


「けっこうね」


千晶さんが同意して笑う。

へー。

そんな人なんだ。


「まさか亜由美さんもお嬢様ってことないですよね」


「全然ちゃうけど。普通よ、普通」


「ほー」


「え、何、あたしに興味あり?」


「や、そういうあれじゃないですけど。未来の金メダリストとは仲良くしておきたい…!」


「金目当て…」


千晶さんがぼそりとつぶやく。

それ、字にすると分かりづらいし、声に出しても分かりづらいです…。


珍しく杏子さんが静かだなあと思ったらウトウトしていた。

きっと、疲れているのだろう。

それで、みんなで目くばせをして、休ませておこうと思ったら、杏子さんはがくんと頭を動かしてぱっと目を覚まし、足をばたばたさせた。


「うー。ビール飲みたい」


「はいはい。じゃあもう帰りますか」


「動くの嫌…」


何にしろ、少しは疲れがとれたようだ。

湯上がりの美女軍団が浴衣で寝転んでいるので、通りすがりの男性諸君がちらちらと盗み見ている。

僕は番犬役。


この星島望、美女たちのためなら犬になりましょう。


「日本選手権のあとさあ」


ごろんと、あおむけになりながら杏子さんが言った。


「グランプリの予選やるから、参加してよね」


「おお。え、予選って?」


「それで陸連のお偉いさんとすったもんだして…」


「もうそんなとこまで進んでるんですか」


「去年の冬から動いてたじゃん」


「いや、何か全然駄目そうな雰囲気だったから…」


「やー、今度紹介するけど、うちの近藤さんってのがすごいやり手なんだわ。あの人いなかったら、来年どころか10年たっても何もできないと思う」


「ふうん…」


呟くと、杏子さんはがばっと身体を起こした。


「え。何、今の、ひょっとしてやきもち?」


「あれ。そんな流れは全然なかったと思うけど」


「近藤さんは既婚50さーい。残念でした!」


「聞いてないから」


「予選会もさ、全国100カ所でやるから」


「100カ所?そんな大がかりなことになってるの?」


「陸連のデータ管理を一切合切引き受けることになっちゃった。それでてんやわんや中」


「ふうん…」


「まあとにかく参加してちょうだい。参加費は1000円。中学高校は500円」


「誰でも参加できるんだ」


「それがみそだね。味噌ラーメンでビールも…、味噌ラーメンもいいよネ…?」


出た。

ぎこちない女王…。


「はいはい、帰りましょう」


帰りがけに、みんなでスーパーに寄ってわいわい騒ぎながら買い出しをする。

明日も、杏子さんは二日酔いになりそうな感じだ。


「あ。お好み焼きもいいねえ」


そろそろ会計だっていうときに、また杏子さんが騒ぎ出す。

でも、ちょっとその意見には賛成。

なんか急に食べたくなってきた。


「やっちゃいます?」


「やっちゃうか。あゆがいるからたこ焼きでもいいけど」


「おっとお!たこ焼き器ってある?」


亜由美さんも乗り気になったけど、ミキちゃんは首を振った。

まあ、東日本の家庭にはあまりありません。


「そっかあ。残念」


なぜ、亜由美さんはたこ焼きを焼くのがうまいのか。


あとで、こっそり杏子さんに聞いてみた。

だけど、真面目な顔して絶対に教えてくれなかった。


え、そこに何かものすごい秘密が隠されているわけ…!?

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