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対角線に薫る風  作者: KENZIE
117/206

第117話 関カレ代表決定

トライアルが終わるとすぐに恒例のミーティング。

記録や近況を踏まえて、稲森監督から関カレの代表が発表される。


誰が選ばれるのか全く分からないので、みんなソワソワだ。

もちろん、関カレの標準記録を突破していることが前提。

男子100mのA標準は10秒60、B標準は10秒80。

うちでA標準を突破しているのは、7人のはず。

1種目3名までなので、そのうち3人。


「えー、男子100m。本間、十文字、それと星島」


別に盛り上げる演出もなく、淡々とした発表だが、とにかく選ばれた。

横井には申し訳ないけど、ほっとした。

3番手でぎりぎり入ったか…。


「200mは、十文字、本間、向井。400mは田中と橋本」


一応、ロシア人の橋本聡志も代表入り。

オメデト。


「4Kは、横井、本間、十文字、星島。サブに金子」


その代わり横井も4Kには選ばれた。

スタートの得意な横井が1走。

コーナーの得意な十文字が2走。

僕と本間君で2走とアンカーだけど、走順はわりと流動的かも。


「女子100mは、前原、宮本、佐々木陽子」


続けて監督が発表する。

当然、新見は入っていなかった。


「4Kは、宝生、前原、宮本、佐々木陽子。サブに里崎と大平」


宝生さんが2年生、あとは全員3年生で、4年生は誰一人として入っていなかった。

4年生なんだし、最後の関カレなんだからどうにか出してあげたい気もする。

だけど、実力の世界だ。

2、3年生は来年もあるんだから、などとは口が裂けても言えない。

来年がある保証など誰にもできないのだ。


事実、新見でさえ、出番がなかったではないか。


「はい、解散」


ミーティングが終わって、短距離ブロックは軽めの全体練習。


その後、僕たちは新メンバーでの4Kの練習を開始した。

今日はとりあえず、1走と2走、それから3走と4走のところだ。

高柳さんがいないので、何となく4Kチームの雰囲気がいい。


「今年は、1年生が小粒だなあ」


バックストレートの中央付近で休憩中に、十文字が述懐した。

確かにインターハイで華々しく活躍した選手はいない。

去年のインターハイで勝った武藤何とか君は、10秒2台を連発してたけど。

武藤君は、どこだっけ。

東都大学に入ったんだっけかな…。


「栗林君が10秒69だっけ。それでも、おれの2年のときより全然速いけど…」


「でもまあ、なんだかんだでそのうち戦力になるか」


「だといいな」


伝統の力だ。

施設や指導者、部の仲間たち、雰囲気や風土。

あるいは学校の名前、過去の歴史や陸上界でのポジション。

そういったものがすべて「伝統」として僕らの力になる。


一言でいえば、環境だ。


もし僕が辰川体育大学に進んでいたら、今のようなタイムを出せなかったかもしれない。

もっといいタイムを出せていたかもしれない。

浅田次郎と折り合いが付かず、退部していたかもしれない。

それは分からないが、総体的な結果として、伝統の力というものは見えてくる。


「女子で注目は、真里ちゃんか」


十文字が言って、僕はぽんと手を叩いた。


「11秒6台持ってるんだってな」


「うん。高校歴代6位だっけかな」


1年生女子でトライアル最速は、伊藤真里の12秒11だ。

関カレのメンバーにこそ選ばれなかったものの、間違いなく次代のエースになるはず。


「加奈ちゃんも、楽しみだな」


「ああ。うん」


「11秒28だぞ。すげーよ」


「だな」


「あれで『わちゃっ』さえなければなあ…」


「だよなあ…」


「やっぱ座禅だろ。座禅しかねえよ」


十文字が断言する。

別に座禅を否定するわけじゃないけど、いきなりどうした。


「禅から程遠い人間な気がするけど」


「んなことねえだろ。どことなく虚無的な風貌してるじゃねえか」


「十文字って目悪かったっけ。あ、悪いのは頭?」


「留年しそうなやつに言われたくねえよ!」


「あふ…」


ブーメラン。

人を批判するというのは、こういうことです。


「禅が似合いそうなのは、千晶さんとかだろ」


「ああ。いいよね、千晶さん」


うなずいて、十文字はきょろきょろと周囲を見回した。


「ここだけの話、すごいらしいよ」


「何が?」


「おとなしそうな顔して、ものすごいセックスをするらしい…!」


うん。

禅から数兆光年離れた人の仕業ですね…。

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