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対角線に薫る風  作者: KENZIE
110/206

第110話 ミキがみさま

今日のご飯は、美味しそうなオムライスにコーンスープ。

それから大盛りのじゃこサラダ。

うまそう。

あとで果物が出てくるというから、栄養もばっちりだ。


「星島、筋肉付いてきたね」


杏子さんがそんなふうに言ったけど、ミキちゃんはまだ少し不思議そうな表情。

カンフーとのつながりがピンとこないのかな。


「だいぶ鍛えたじゃん。本番に間に合いそう?」


「ええ。まだ半年ありますから」


「そっか。ま、オリンピックもあるしね」


2人の会話を聞きながら、慌てて乱れた服を直す。

それから、みんなで座って、いただきますを言ってからオムライスにとりかかった。

平べったい皿に大盛りで、濃厚なデミグラスソースがかかっていて美味しかった。


「星島が世界陸上出れたらさ」


もぐもぐとオムライスを食べながら、杏子さんはスプーンを僕のほうに向けた。

くるくると回す。

この人、行儀よくないです。

お嬢さまなんだけどなあ…。


「ミキも応援に来なよ」


「そうですね」


「旅費出してあげるから」


「それは別に要らないですけど」


「いいから。出すから」


今シーズン後半の調子を維持できれば、世界陸上も夢ではないかもしれない。

ライバルは数多く、片手が届いているとは言えないかも。

でも、指2本ぐらいは届いていると思ってもおかしくはない。


ただし、杏子さんの世界陸上への道も非常に困難なはずだ。

特に女子400mは、世界レベルにはかなり遠い。

自己ベストの更新が必須だが、杏子さんは自分が出れると疑っていないようだ。

一流の選手というのは、メンタル面から違う。


唯我独尊な杏子さんだけど、そういう点は見習うべきかもしれないなと思った。

どうも僕はのんびり構えてしまう感がある。

でも絶対こんな人間にはなりたくないけど。


「旅費は出すけども、も、も、も!」


「も?」


「その代わり、ちょこちょこっとテレビ出てほしいのさ」


杏子さんが付け足したので、ミキちゃんは眉を持ち上げた。


「テレビ?」


「アメリカのテレビ局が取材したいんだって」


「嫌です」


ミキちゃんは端的に断ったけど、興味がわいた。


「テレビって、何の取材?」


「んと、ベッカーの特集か何かだって」


「クリスティアーネ・ベッカー?」


ご存じ、女子100mの女王だ。


「そう。若き日のライバルとして取り上げたいんだって」


「え、ライバルだったの?」


「ライバルってか、4歳も下の日本人に負けてびびったんだってさ」


杏子さんが答えたけど、ミキちゃんは無表情のままだった。

そんなことがあったなんてミキちゃんは全然教えてくれないし、聞いたこともない。

あまり話したくないだろうと思って、昔の話は全然していないのだ。


「それって、いつの話?」


思い切って聞いてみると、ミキちゃんはちらりと僕を見た。


「世界ユースの時の話」


「うえ。ミキちゃん世界ユース出てるの?」


「そんときだよ、11秒49で銀メダルとったの」


サクサクとサラダを食べながら、杏子さんが補足した。


「え、銀メダルとったの?」


「そうそう。なんで知らないのあんたは!」


杏子さんに笑われる。


「中1で?」


「そうだってばよ」


世界中から足の速い高校生が集まる中で、中学1年の日本人が銀メダルをとったわけだ。

それはさすがに、きっとものすごいインパクトだったのだろう。

ものすごいパフォーマンスだ。


そういえば、世界何ちゃらで100mで誰かが銀メダル獲得とか?

そんなことがあったのは、漠然と覚えている気がする。

中学生のころは、オリンピックや世界陸上ばかり気にしていたのだ。

ジュニアやユースの大会結果など気にしていなかった。

まだ中1だったしね。

本格的に陸上にのめりこんだのは中2の夏ぐらいからだったから。


サッカーのフル代表のことは知ってても、16歳以下とか全然分からないでしょ?


「拝んどこ。あやかれますように」


僕は慌ててスプーンを置いてミキちゃんに手を合わせた。


「あははは」


杏子さんが笑って、ミキちゃんも唇を持ち上げた。

笑ってくれたのでちょっとほっとした。

昔のことは思い出したくないというわけではないようだった。

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