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対角線に薫る風  作者: KENZIE
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第106話 褒められて伸びる男

そういうわけで、今日もハードな特訓の日々。


冬だから、2カ月くらいオフにして休もうかなんていうわけにはいかないのが陸上だ。

そんなことしたら、あっという間に肉体が衰えてしまう。

なので冬場も毎日練習なわけだが、寒いとケガもしやすい。

集中して練習が積めるように、一流選手は温かいところでキャンプを張ることが多い。


杏子さんら、ライテックスの短距離チームはカリフォルニア。

本間君は、オーストラリアの大学の合宿に混ざっていて、今は絹大におりません。

僕だってインカレ3位なんだけど、まあ向こうは世界ジュニアでメダル取ってるからね…。


とにかく、ほとんどの選手は絹山居残り組。

せめて、きちんと温かい格好をして、筋トレをする。

以前から課題となっている、上半身の筋肉の強化だ。

今日は、織田君に補助をお願いして100キロのベンチプレスに挑戦した。

速筋を鍛えるトレーニングだ。


「く、く、く…」


100キロはきつすぎる。

でも、前はせいぜい80キロだったので、だいぶ筋力はアップしているように思う。


「ふいー。はい、交代ね」


「ういっす」


今度は織田君の補助に回る。

それが終わったら腹筋と背筋、ハムストリングスを鍛えるレッグカールなど。

全体的にバランスよくメニューが並んでいる。


一通りこなして、ぼちぼち休憩しながら2セット目に突入。

一応、部室の中は暖房が入っているが、そんなに温かいわけではない。

ウインドブレーカーは着たままなので、動くたび、こすれ合う音がうるさくてたまらない。

もう、カサカサカサカサ…。


「ふー」


一通り、筋トレを終えて、水分を補給してからトラックに戻る。


まだ取材は続いているようで、テレビ局のスタッフが遠くで固まっていた。

だけどよく見ると、新見がバックストレートのほうで練習を続けている。

取材を受けているのは加奈のようだった。


「おや」


「あれ。加奈ちゃんっすよね」


ライバルにも話を聞いているのだろうか。

というか、緊張しいなのにテレビには出たいのかな。

テレビは緊張しないのか?

 

横目で見ながら村上道場のメンバーのところに戻ると、ミキちゃんは少し不機嫌だった。

真帆ちゃんと宝生さんの足の入れ替えドリルを見ているが、空気がピリピリしている。


「筋トレ終わったよ」


「そう」


いつもどおり無愛想に返事をしたけど、僕の顔を見て、少し表情が緩んだようだった。

精神安定剤になってもらえるなら幸いだ。


「困るのよね。大事な時期に」


「あいつ、調子に乗りやすいからなあ」


「変なこと言わなきゃいいけど」


そう言われると不安になってくる。

見ると、万歳をしてぴょんぴょんと跳ねていた。

キーパーの真似をしてるんじゃないかと気付いたのはこのときだった。


「前原さんの場合、あんまりあれこれ言うのも逆効果みたいなのよね」


「うん…」


「宮本さんなんかは、打てば響くから教えがいもあるんだけど」


聞こえたのか、真帆ちゃんがぴょこんとちょんまげを揺らして、うれしそうな表情をした。


「でも、最近は加奈ちゃんもぶつくさ言わなくなりましたよ!」


聞かれてもいないのにご注進する。

つまり、前はぶつくさ言っていたということか。


「いや、前はぶつくさ言ってたってわけじゃないんですけど…」


自分でも気付いたのか、慌てて打ち消したけど既に遅し。

ミキちゃんはまた不機嫌になって、結果的に、真帆ちゃんは友を売ってしまった。


「期待、してるんだけどなあ…」


遠くを見ながらミキちゃんが呟く。


「自分の置かれてる状況、分かってないのよね」


「確かに。今のままじゃ駄目だよね」


「その点、宮本さんはいいわ。よく理解してて、上を目指そうって欲があるもの」


真帆ちゃんがぺかっと笑顔を見せた。

ちょんまげを揺らしながら、うれしそうに宝生さんと目を合わせて笑う。


「褒めて伸ばしたら?」


提案してみると、ミキちゃんは難しい表情をした。


「褒められ慣れてない人だったら、それもいいと思うんだけど。星島君みたいに」


「え、おれ、そうなの?」


「だって、ときどき褒めると、犬みたいにうれしそうな顔するじゃない」


真帆ちゃんと宝生さんが笑った。

織田君も、笑いを我慢している。


意図的に操られていたのか。

そうなのか。

そうだよね。

単純王、星島だもんね…。

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