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やがて増えゆく吸血鬼  作者: 清水またろう
3/17

第3話 血の気の多さは兄妹そろって

「おいおい、ダイアン。こんな客もろくにいねぇ店をいつまで続ける気だぁ?」


男が怒声をはりあげる。夕陽の日差しにコーヒーの香りが漂うレストランの空気が、一気に張り詰めた。ダイアンは強く相手を睨みつけた。しかしその目には不安の色が隠せなかった。


「あんたの知ったことじゃないでしょ!ラウル!それより、用もないならお店に入ってこないで!」


ダイアンが強い語気で、狼のような男を威嚇する。しかしその声には明らかな震えが混じっていた。


「用だぁ?今月の守り代をまだもらってないぜぇ?金はどうした。1万リン!吸血鬼どもの襲撃から守ってやってるんだから、金を払えや!」


ラウルと呼ばれた男は、口汚くダイアンを恐喝した。


「あんたたちが吸血鬼から町を守ってるなんて、どこにそんな証拠があるのよ!ただ飲んで暴れて町のみんなに迷惑かけ・・・」


「うるせぇ!!!なんだその口のきき方は!それが町を守るハンターへの態度か!?」


ラウルはカウンターのテーブルを拳で叩いた。その音を合図にしたかのように、取り巻きの男が店にドヤドヤと入ってきた。その数5人。そのうちの1人が入ってくるなり近くのテーブルを蹴倒した。食器の割れる音が店内に響く。


「なんてことするの!もうやめて!出て行って!」


「はっはははは!もうやめてだとさ!やめてほしけりゃ守り代を払いやがれっての!」


男たちがこれみよがしにバカ笑いをはじめる。




「・・・ちょっとお兄ちゃん。なんなのこいつら」


カチュアが猛烈な不満をあらわにする。


「あーまったく、これから帰ろうとしてたのになぁ。」


ゼンがめんどくさそうに答える。


「なにいってるの!あんなにおいしいコーヒーとドーナツを出してもらったのよ?彼女、困ってるんだから、助けてあげてよ!」


ゼンのやる気のない反応に苛立ち、カチュアが兄の肩をグイグイと揺さぶる。


「おいおい、俺は金を払ってるんだぜ?ただで食わせてもらったわけじゃねぇ」


「もう知らない!わたしが助ける!」


カチュアが我慢ならなくなり、杖を力強く手にする。


「おい、カチュア!」


ゼンが止める間もなく、カチュアはズカズカとダイアンと男たちの間に割って入った。


「ちょっと!あんたたち!何様だか知らないけどね!こういうのやめなさいよ!大の男たちが集まってみっともない!」


「あぁ?何言ってるんだこのお嬢ちゃんは。ちんちくりんなシスターみたいな括弧しやがって。」


「ちんちくりん!!ギャハハハは!!」


「ぶはははは!おまえ、バカだな!!!ぎゃははは」


下卑た笑いがうずまいた。ゼンも一瞬つられて笑いそうになる。当然、カチュアに見られたら怒りのあまりに殺されると思い、すぐに口元を一文字に戻した。


「ちょっと、あなたやめなさい、危険よ!」


ダイアンがカチュアの肩を掴んでとめようとする。男たちがゲタゲタと笑い続けている。


「は!は!は!ちんちくりんシスターちゃん!神様なんかより俺らとあそぼーぜ!昇天させてやるぜ!」


「そりゃいいや!はっははは!」


ゼンは妹のただならぬ気配に気づき、青ざめた顔をした。


「あ・・・あいつら・・・言っちゃならねぇ言葉を・・・」


正義感をあらわにして間に入ったはずのカチュアだが、いつの間にか怒りで身を振るわせていた。


「あんたたち・・・・いま・・・神様を・・・・侮辱したわね・・・・!」


カチュアの怒気が、一瞬で空気に伝わり、足元がほのかに赤黒い光を発しようとしていた。異常な空気を肌で感じた男たちは、下卑た笑いをひっこめ、1歩2歩後ろにひいた。


「あーちょっとちょっと!お兄さん、お姉さんがた!」


この茶番じみた喧嘩も潮時と悟り、ゼンは妹と同じくズカズカと争いの場に踏み込んだ。


「お兄ちゃん!!」


カチュアが怒気に混じった声を放つ。まるで、これから男子学生たちと喧嘩をおっぱじめようとする、血の気の多い女子学生みたいな言い方だ。いっぽう、男たちは怪訝な顔とともにゼンを睨みつける。


「なんかめんどくせぇトラブルになりそうじゃねぇですか。ここは穏便にお互い店を出て帰りましょうや。」


ゼンは、ヘラヘラと下手に出てことをすまそうとするが、目元はまったく笑っていない。


「あぁ!?おめぇなんだ、出しゃばりやがって!」


取り巻きの男が凄みながら前に出てきた。


「あー。そうだな・・・お互い怪我しねぇように、いったん帰ろうぜってことだよ。おわかり?」


ゼンは喧嘩まじりの言葉でかえす。カチュアの喧嘩っ早さとくらべても、ゼンのは似たようなものだ。


「何だとコラっ!!死にてぇのか!!!」


他の男達も息巻いて絡んできた。ラウルと呼ばれた男だけが、ジッと二人を観察していた。そして、さっきの口汚い罵り口調とはうってかわって、よく通る声で男たちに命令した。


「やめとけ。そっちの女はビショップだ。しかもやたら喧嘩っ早い。こんな狭い店で魔術を使われたらやっかいだ。」


男たちが、ラウルのほうをふりかえる。そして睨みをきかせているカチュアのほうに視線を戻すと、2,3歩ひいてまた構えた。ダイアンも華奢な身体のカチュアを見て、一歩あとずさりした。


「それに、そっちの男はだいぶ使えそうな剣士だ。ビショップと組むと面倒この上ない。」


ラウルは鋭い目つきでゼンを値踏みするかのように見回す。


「へぇ・・・分別があるじゃないか。まぁ、ただのチンピラには変わらねぇがな。」


ゼンが挑発する。ラウルと呼ばれた男は、挑発にのらずにゼンをじっと睨みかえす。


「・・・いくぞ・・・」


そうして、鋭くつぶやいてとりまきの男たちに合図すると、店をドカドカと出て行った。



「さて。きょうも神様にいいことしたことだし。カチュア、帰るか」


「ちょっと!なによ神様って!気安く神様のこと言わないで!」


「ははは。カチュアはあいかわらず硬いな!誰かれかまわず喧嘩ふっかけてると、神様に怒られるぜ?」


「もう!知らない!」


さきほどの殺気に満ちた空気はどこ吹く風で、兄妹は軽やかにじゃれあう。



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