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やがて増えゆく吸血鬼  作者: 清水またろう
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第13話 王との謁見

「こんだけ派手に吸血鬼どもを殺してまわっていれば、いつかは粉にたどり着くと思ってたが・・・やっかいなことになったな。」


ゼンは口惜しげにスティレットを鞘に収める。


「お兄ちゃん、ダイアンさんを助けなきゃ。ノーライフパウダーが彼女を汚染しきるには1日かかるはずよ。それまでにダイアンさんをなんとかして助けないと。」


焦るカチュアの顔を見つめるゼン。


「そのためには浄化の魔術が必要か・・・。」


「早い段階でダイアンさんに浄化をかけられれば成功する確立はあがるはず。でも1日経過して吸血鬼になってしまったらきっと私の今の技術では・・・」


カチュアはうつむきながらか細い声で答える。自分の技術が未熟なことを恥じているかのように兄には見えた。


「自信をもてよカチュア。今は北の森を抜けてジャンセニア湖に向かうことを考えよう。」


「でもジャンセニア湖までの北の森は吸血鬼の巣窟よ。私とお兄ちゃんだけで吸血鬼の巣を抜けられるとは思えない。」


「・・・そこは大丈夫だろう。こっちは招待を受けた側だ。森で足止めされることはないとオレは思っているよ。招いているやつがオレたちに何かしらの価値を見出していればの話だが。」


ゼンは思わせぶりに顎に手をやって少しだけ笑った。こういう時の兄は何か勝算を秘めているものだ。一緒に旅をしてきたカチュアにはそれがなんとなくわかっていたので、少し安心した。



二人は町をでて北の森に入っていった。


ゼンが予想したとおり、北の森を抜ける時に吸血鬼が襲撃することはなかった。森を抜けた先のジャンセニア湖に辿り着き、ほとりにそびえ立つ不気味な館を前にした。


「信じられない。吸血鬼どころか野犬や狼にも襲われなかったわ。」


「ダイアンの誘拐とオレたちへの誘いの手は、明らかに誰かの策略だろうからな。ほんとにオレたちを始末したいなら、目的地を告げたりこんなに手を込んだことはしないだろう。夜の吸血鬼が潜む森を抜けるなんて人間にはできないことだからな。それに・・・」


「それに?」


「いや、なんでもない。」


自分たち兄妹を始末したければ、あのレストランの戦いで決着はついたはず。あのラウルという人狼は遊びと言っていた。つまり全力を出していなかったはずだ。戦力の多寡が勝敗の全てを決めるわけではないが、剣技をもって全力で戦ったゼンにとっては、剣士として受け止めねばならない事実。それにこの訪問が既に二人の武力では不利な状況にあることを予見させた。


もっとも、カチュアはそれに気づいているようで、それ以上を聞いてこようとしなかった。兄の考えていることはなんとなく感じていたから。


「よし、館に入るぞ。目的はダイアンの救出だ。」


入り口の門には鍵がかかっておらず、そのまま敷地に入ることができた。庭を抜けて館の玄関まで来ると、この館がただならぬ空気に満ちているのがわかった。ドアをノックしたが誰も出ない。試しにドアノブを回してみると、ドアもまた開いていた。重苦しく気がこすれる音とともに玄関のドアをあけると、館の中は冷たい闇に包まれていて、氷のように冷たい空気がドアの隙間からゾッと流れ出てきた。


兄妹は館に入っていった。中は不気味なほどの静寂に包まれていた。


薄暗い広間に足を踏み入れると、先ほどダイアンのレストランで闘ったラウルが待っていた。ウェアウルフに変身する前の人間の姿になっていた。破けた服は着替えたのだろうか。清潔感のあるスーツに身を包んでいた。ゼンはそれを見て、意外に律儀でしっかりした奴だなと、少し親近感をもった。敵とはいえ、剣を交えてみると何かと相手に近づくものだ。普通は剣を交えた相手は死に至っているので、生きている相手と再会するとなおさらだったりする。


「さぁ奥へ進むと良い、剣士。そのちんちくりんのシスターもだ。」


「な・ん・で・す・ってぇ!!!!」


ゼンが笑いをこらえながら、カチュアをなだめる。


広間の向こうの応接室に通された。ドアをあけると、橙色に輝く大きな暖炉が目に映り、そして暖炉の前には一人用のソファに深々と腰掛けた男がいた。


「マスター。例の剣士とビショップをお連れしました。」


男はソファから腰を上げ立ち上がった。威圧のオーラを身にまとった長身の男。長く伸びたうねる髪は、神話を語った絵画に出てくる軍神のようだった。そしてルビーのように紅く怪しく光る眼。


ゼンはその姿を見て戦慄した。ハンターであれば誰もが恐れ首を奪ることを憧れる伝説の化物。


「ヴラド・ドラキュラ公・・・!こいつはとんだ大物がでてきやがった」


ゼンは全身に冷や汗をかく。人狼を使いに出すなど吸血鬼でも位の高い者がくるとは思っていたが、まさか吸血鬼の王が出るとは。


ヴラド・ドラキュラ。数千年続くと言われる吸血鬼の血脈の中で、百年前に台頭してきた新興勢力の大頭。吸血鬼にして稀代の戦略家。特にゲリラ戦と焦土戦を組み合わせた独自の戦略に定評があり、本人自ら書いたとされる戦術書は、吸血鬼用と人間用で言語を分けて書いたとさえ言われる。


いま目の前に座るヴラド・ドラキュラは、吸血鬼の王としての禍々しさを身にまとっていたが、その紅い目にはどこか哀しみが感じられる。吸血鬼の王に自分の剣技は通じるのか。ゼンは力量を計りたく、じっとドラキュラを見つめた。


「よぉ。オレの飼い犬と遊んでくれたそうじゃねぇか」



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