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人生は間に合わせ

作者:改訂木魚
間に合え。
〇序文

この物語は、フィクションでありたい。というより、この世に存在する全ての悲しい出来事、都合の悪い過去、消したい記憶、恥ずかしい体験、膨大な罵詈雑言は、全てフィクションであるべきだ。

オックスフォードが、2016年を象徴するワードは「post-truth(ポスト真実)」だと発表した。この世にはびこるものはだいたいポスト真実なのだろう。人々が信じたい真実は、総じてポスト真実なのだろう。この物語も、ポスト真実だ。以上、『流行りの言葉を使って知的アピール』。

この物語は、女のインタビュアーが男の作家にインタビューする形式をとっている。

このインタビューを読んでくれている方にお詫びしなければならない。このインタビューは何の役にも立たないだろう。あなたの人生に花も添えなければ、うんちくももたらさないだろう。そういうものだ。人間が作り出すものは、多かれ少なかれ、そういうものだ。ある人にとって役立つものであっても、別のある人にとってはゴミに過ぎない。「一寸先はゴミ」とはよく言ったものである。

ただ、そんなゴミを出さなければいけないほどの何かが、このインタビュアーにも、作家にもあるのだと思う。どうか、この物語が誰かに間に合ってほしい。間に合わなくてもいいが。


〇『俺、休みをはさみつつも順調に仕事してる感』

「このたびは作家活動10周年、おめでとうございます。すごいですね。10年も続けて」

「いやー、まあね。10年ずっと常に書いていたってわけでもないからね。時には休みつつ、時には仕事しつつ、ね」

「さすがです、先生。『俺、休みをはさみつつも順調に仕事してる感』出してますね!」

「え、何それ?褒められてる?それ褒めてくれてるの?軽くディスられてるんじゃない?」

「いいえ。ディスってなどいませんよ。ディスる、とか言っちゃうんですね。先生。お茶目だな~」

「なんかバカにされてる感」

「バカにしてます。だってバカな話しか書いてないじゃないですか。一部の人にしか人気ないし」

「君、マジでヒドイよね!俺、編集の経験あって、偉い人に質問したこととかあるけど、そんな失礼な態度とれなかったわ!おー怖!おー怖!」

「このインタビューは、一部でカルト的人気があると言われているクリエイターに、可愛い私がズケズケと質問していくのがコンセプトなんで。むしろ、私の可愛いさと失礼さで人気コーナーになったようなところがあるので」

「うわー!可愛いとか自分で言ってるわ、この人ー!スゴイよスゴイよー!ってか、一部のカルト的人気ですか!そうですよ!そうです。私は一部でのみ人気の人ですよ。マイナーなゴミで悪かったな」

「はい、次行きましょう」

「何もフォローしてくれねーし!」

「甘ったれないで下さい。メディアでインタビューしてもらえるだけでもありがたいと思って下さい。このクズが」

「え」

「では、ここからは読者からの質問コーナーです。と言っても、一部からのカルト的人気の為、あんまり質問来なかったんですよね。」

「そんな悲しい事実、報告しなくていいから!もう、いいわ。どんどん来いよこのやろー!」

「では、行きます。ペンネーム“お前売れてねーだろ”さんから。好きな食べ物は何ですか?」

「何だそりゃ?小学生の自己紹介か!ってか、何?その悪意あり過ぎなペンネーム!売れてるわ!一部の人に売れてるわ!好きな食べ物はスイカだ、この野郎!」

「はい、どうでもいい答えありがとうございます。スイカがかわいそう」

「うわー、なんかもうごめん」

「次、行きます。ペンネーム“もう書くなよ”さんから。『未来から来た野郎』がクソしょうもなかったです。こんな未来は来ないと思います。もう書くのやめて下さい。才能ないんだから」

「うわあ。何も言えねえ」


〇『未来から来た野郎』

『未来から来た野郎』に記載されていた内容は、こうだ。
2018年5月に、「スーサイドフェスティバル」が開催される。自殺者21人、重傷35人を出す惨事となり、社会的に問題になる。

自販機を破壊して釣銭を盗む犯罪が各地で増加。日本国内は急速に自販機が減っていく。
高齢者を狙った犯罪がエスカレートしていく。10代の若者を中心とした高齢者ばかりを狙った犯罪者集団が、日本各地で生まれる。彼らのほとんどは、貧困家庭で生まれた。彼らは「RM(老害抹殺隊)」「Gジジイ狩り」などの名称で呼ばれ、貧しい若者の中には彼らの行動を支持する者も多数いた。オレオレ詐欺はもちろん、ひったくりや集団リンチによる金品強奪などが相次ぐ。逮捕された少年グループのリーダーが、高齢者に向けて言った言葉「てめえらがこんな国にしたんだろーが!てめーらが俺らを生んだんだろーが!」

2019年5月、スーサイドフェスから一年後、今度は「生きるためのライブを」という呼びかけで「LIVE LIVE」が開催される。しかし、同時に小規模の「第2回スーフェス」も開催され、ここでもまた自殺者が12人出る。

2020年、東京オリンピックは、開催までずっともめる。スタジアムの完成が間に合わず、塗装もされていない状態でオリンピックをむかえ、国際社会から嘲笑の的になる。チケットの値段は高騰。チケット詐欺が後を絶たず、特に高齢者がターゲットとなる。各競技で電子チケットが導入されたが、不正アクセスやサーバーエラーが相次いだ。
日本は金6個、銀12個、銅27個を獲得。金メダルが予想以上に獲得できなかった為に、強化委員会は猛批判を浴びる。メダル有力視されていた選手が結果を出せずに、強烈な批判をあび自殺未遂。
「オリンピック景気」が期待されるも不発。むしろ、東京は治安が悪くなり、飲食店や百貨店の閉店が相次ぐ。「期待はずれのオリンピック」という見出しがネットニュースを飾る。

「外国語を話せる人材」を急ピッチで募集した為、都内のコンビニ、ファーストフード、ファミレス、アパレルなどその他もろもろの小売・サービス業は、外国人スタッフが9割を占めるようになる。こうして、日本人はますます排他的になっていく。

バカ丁寧な接客を求めるくせに低賃金で効率よく働かせようとした結果、販売店員らを中心とした暴動が起きる。これを2020年11月の「サービス・ライオット」、日本におけるサービス業の危機的状況を「サービス・クライシス」と呼ぶ。

2021年、1月。渋谷センター街と各地の原発を狙ったテロが発生。国防が急ピッチで進む。
8月、対テロ戦争、勃発。日本は多数の兵隊を国内および海外に送り、戦闘に参加することになる。正確には、「会社員」や「ボランティア」を名乗る人々が戦闘に参加するはめになった。平和憲法うんぬんという間もないくらい、急速に各地で戦闘が頻発。民間の軍事会社が利益を上げた為、多くの人々がこれにのっかった。結局、人は金のために動いた。

2022年7月、対テロ戦争終結。現代の戦争らしく、決着は早くついた。しかし、世界各地画で尋常でない量の被害が出る。日本も多数の死傷者を出す。皮肉なことに、この戦争後に日本の出生率はようやく上昇していくようになる。

未来人が、こう言って物語は終わる。「以上が、私が観てきた未来の世界だ。しかし、常に道は分岐している。私が体験した未来とは異なる未来が待っている可能性もあるのだ。どうかこの時代の人々よ、良き選択でより良き未来を作り出していってほしい」

インタビュアーの女は、この『未来から来たクソ野郎』を読んでいた。そして、あまりのばかばかしさに失笑していた。

「これ、何のために書いたんですか?『俺は未来を予言するぞ』アピールですか?」

「さすがいちいちトゲがあるわ。これはですね、予言というよりも、こういう未来になってほしくないな、というある種の思いが根底にあるわけだ。ね、今や、日本にいても、なかなか明るい未来を想像できないじゃない。だったらいっそのこと、これから起こりそうな最悪な事態をあらかじめ予想しておいて、そうならないよう気をつけよう!ってことですよ。カート・ヴォネガットが言うわけよ。作家は炭鉱の鳥であると。俺も炭鉱の鳥を目指しているわけよ!」

「はい、出ましたね。『有名な作家の言葉借りて俺知ってんだぜアピール』。さも、自分の言葉のように言うところがさすがですね」


「まあ、ここ数年ずっと言われているように、日本は格差社会に突入している。日本社会全体がどんどん貧困に向かっているということはずっと言われているが、その進行具合は想像を超えている。例えば、俺は接客販売業の経験と、事務職の経験があるが、もうこの二業種だけでも、とてつもない差がある」

「差っていうのは、何ですか?忙しいとか給料が安いとか?」

「あくまでも俺の経験のみを照らしてだが。正直、給料はほぼ変わらない。にも関わらず、接客業と事務職では違う国に来たんじゃないか?というレベルで、圧倒的に仕事の質自体が違う。もちろん、企業にもよるし、時期にもよるし、その時の構成人員にもよるし、一概には一般論にはできないだろう。でも、俺は思った。これは暴動が起きると」

「それが『サービス・クライシス』で書きたかったことなんですね」

『サービス・クライシス』は、この作家が書いた長編小説のタイトル。サービス業の人間が暴動を起こし、日本中が大混乱になる様子が描かれている。

「そうだ。よく読んでくれてるじゃないの!たとえば、客として君がコンビニに入ったとする。そうしたら店員がいきなり殴りかかってくる。こんなことが起こり得ると思う。もし、今の仕事が比較的暇だ、楽だと感じている人がいたら、絶対に口外してはならない、と思う。もうそれだけの理由で殴られる、殺される可能性もある」

「なんでですか?」

「接客業に限らないが、対人の仕事で、日本人は好サービスに慣れ過ぎている。笑顔で『いらっしゃいませ』と言ってもらえるのが当然だと思っている。でも、本当はそんなの当然じゃない。飲食もどんどん店員の質は悪くなっていくだろうな。介護や保育なども求められるものが高くなり過ぎてる。その割に給料が低い。教師や駅員もモンスタークレーマー相手に相当疲弊しているだろう。そして文句を言う人間は、まったくその行為に無自覚だ。いまだに、日本ではまさか暴動は起きないだろうと思っている日本人はいるだろう。でも、確実に暴動やテロは起きる。外国人から日本人への攻撃の可能性もあるが、日本人から日本人への攻撃の可能性のほうがもっとあるように思う」

「そういう暴動を防ぐ手はないんですか?さすがに道歩いてて、いきなり殺人鬼に殺されるような人生は嫌だなあ」

「だから、俺はこのインタビューを受けている。絶望して、無差別な暴力にむかう前に、ちょっと待て、と。自殺やテロに向かう前に、ちょっとそこの兄さん姉さん、悩める若人、何も希望がない老人、ちょっと待って、と。俺の話を少し聞いてくれよ。というつもりで、俺は色々書いている。まあ、俺が描く漫画や小説やコラムが、ひと様の役に立かどうかは、正直分からない。こんなインタビュー記事も、どれくらいの人間が読んでるか分からねーし、読んだところで、希望を与えるものになってるかどうかも分からない。でも俺は、まだまだこの世には面白いものがあると思ってるし、思いたいし、自殺者や犯罪者を一人でも減らしたい。というか、俺自身がそういう絶望をしたくない。というか、絶望的状況というのは、現代日本ではもうほぼ当たり前になってきてるので、せめてその絶望をエネルギーにする方法みたいのを、俺自身が模索しているし、絶望してる人に伝えていきたい。」

「おお、来ましたね。『俺は世の中を良い方向に変えていくんだアピール』。良いんじゃないですか。熱い熱い。肯定的なこと言ったほうがウケが良いですもんね」

「冷めてるーというか、冷てー!いちいち言い方が冷てーわ!」

「いえいえ、極めて冷静に対応しているだけです。女は感情的になりやすいと言われやすいので。感情をできるかぎり押し殺しているだけですよ」


〇『小学校卒業したら人生は終わり』

「では、子供の頃のことをお聞かせいただきましょうか?」

「まあ、誰も興味ないかもしれないけど。聞いてくれ」

「はい、全然興味ないけど仕事なんで聞きますね!どんな子供でした?」
「全然興味ないのに聞いてくれてありがとう!俺が育った時代、子供時代はちょうど1980年代にあたる。まあ、80年代の日本はバブル景気で良い時代だったと言われがちだよな。でも、俺はそうとも思わない」

「あら、悲しい少年時代だったんですか?」

「うーん、そういうわけでもない。別に普通の子供だ。大して勉強も運動もできねーし、大して目立つわけでもねー。そんな子供だ。でも、将来にはある種、絶望していた。『小学校卒業したら人生は終わり』だと思ってた」

「それ、嫌な小学生ですね~!小学生はもっと希望持って下さいよ!しかも、バブル景気の80年代に!」

「みんな昔だから美化してるだけだ。この80年代当時から長時間労働は今ほどでないが問題視されてたし、いじめも社会問題になっていた。自殺する人間も多かった。好景気の影で死んでった奴も多いんだ。それを忘れちゃならねーと思う。だから、俺は今の若い人に向けて言いたい。好景気の頃だってろくでもねえことばっかりだったと」

「そんなものですか」

「そんなもんだよ。学校で校内暴力なんてのが問題にもなった。勉強できねー学生が学校で暴れて窓ガラス割ったとか、よくあったんだよ。だからあの時代は尾崎豊がウケた。俺は子供だったが、小学校卒業してもろくな未来がねーんだろうな、と思っていた。だって、当時から大人は楽しそうじゃなかったから。俺の両親が離婚してたから、というのもあるかもしれない。両親が仲良さそうなところなんて、記憶にないしな。この当時から『受験戦争』なんて言葉があって、そんなどうでもいい戦争に巻き込まれるのか、と子供ながらに絶望したもんだ。中学から制服があるだろ?もう、あれがまず『ああ、大人は子供を管理してーだけなんだな』と感じさせるには十分だった。小学校卒業したら、あとはもう大人にひたすら管理されるだけなんだと。俺は、わりと教師ウケは良かったほうだと思う。だからこそ、大人には絶望してた。大人にとって、良い生徒ってのは『手がかからず問題も起こさず、大人の言うことを聞くガキ』のことだからな。自分の意見を主張すること、自分の考えを積極的に表現することは良しとされない。別に俺は良い子を演じてたわけじゃない。でも、必然的に『沈黙は金』にならざるをえなかったんだ。余計なこと言わなければ大人は喜ぶから。無意味に怒らせる必要はねえだろ?そういうことだ」

「へー、なるほど。『俺はひねくれた子供だったアピール』来ましたね。良いんじゃないですか(笑)。すごく作家っぽい(笑)。私、たぶん活字だったらここ(笑)とかwとか( ´艸`)が入ってると思います、ここ(笑)」

「失礼すぎるインタビュアーだわ。なんだその(笑)の連続!自分から聞いておいてよ。まあ、もう慣れましたわ。インタビューしてもらえるだけで、ありがてえと思うことにする。でね。でも俺は思うわけよ。俺の時代ですら、将来を悲観してた俺のような子供がいた。今の時代はもっと悲観してる子供がいると思うんだよね。それこそ、俺と同じように『小学校卒業したら人生は終わり』みたいなこと考えてる子供いると思うんだよ」


〇『だらしない奴にかぎってやりたがる自由を愛する俺の主張』

「え、なんでそこまで小学生で絶望してたんですか?小学校卒業したら終わり、ってあまりにも悲しいじゃないですか」

「そういう子供もいるんだよ。大人になることが楽しいことだとは想像できなかったわけよ」

「将来の夢とかなかったんですか?」

「よく、将来の夢書けとかあるじゃん。俺、たしか『一流会社のエリートサラリーマン』みたいなこと書いた。そんなもんに憧れてねーけど、ギャグセンスもねえ俺は、そんなこと書くぐらいしか出来なかったわけよ。はぐらかすことしかできなかった。小学校の頃は、漫画描いてたから、漫画家や画家も憧れたんだけど、似顔絵とか苦手で、俺はその芸術方向はやっぱり無理かなー厳しいかなーと小学生ながらに思ってた」

「え、それこそ、子供の頃から作文とか得意で、作家目指してた、とかじゃないんですか?」

「んなわけねーわ!子供の頃から文章の才能あったら、もっと若くして売れてるわ!むしろ、子供の頃とか、作文超苦手だったからね!何書けばいいんだよクソ!っていうね。何か物語書いてみましょう、とかいう授業もあったと思うけど、それもろくでもないものしか書けなかった」

「え、小学生の頃はどんなもの書いてたんですか?そのろくでもないものを教えて下さいよ」

「『不死鳥の大陸』というものを書いたわけよ。短編で。これはね、その血を飲めば永遠の命が手に入るという不死鳥を求めて、男たちが大陸を旅する話。で、次々と男たちが力尽きて死んで、最後に残った一人の男が不死鳥をついに見つけたんだ。けど、それは不死鳥ではなくて、ただの派手な鳥だったの。結局、最後の一人の男も何の成果もあげられずに死ぬ、っていう暗い話」

「なんでそんなどうしようもなく暗い話を小学生時代に書くんですか!しかも『火の鳥』のパクリだし!手塚先生に謝れ!」

「はい、すみませんー!俺は小学生の頃から大人社会に絶望してたんだよ!正義が勝つとは限らない!努力が報われるとは限らない!大人は自分らの言うことを聞かせたいだけ!そんな大人社会見て希望持つことが無理ってもんだ!」

「うわー、嫌な子供ですね!」

「うるせーバカヤロー!だから、大人は嫌だったんだよ!あんたみたいな嫌なやつと仕事しなきゃいけないし!だってさ、考えてもみてよ?中学に入ったら制服着させられるじゃない?そして部活に半強制的に入ることになるじゃない?これ、奴隷の製造以外の何があるよ?」

「はい出ました!『だらしない奴にかぎってやりたがる自由を愛する俺の主張』!自由バンザイですね!良いんじゃないですか、安い浅い作家っぽくて!」

「いや分かるよ?俺だってバカじゃない。制服とか校則とかやっぱり秩序守る為に必要だし、部活とか社会に出るための根性養う場所として必要な側面はあるし、そういうのも含めて青春だってのは充分理解してる!だから俺は、毎日の部活も積極的にやってたわけよ!吹奏楽部な!結構厳しかったんだぞ!下手だと顧問の教師が指揮棒投げてくるんだからな!ただ、この経験で根性は身に着きましたよ。毎日18時まで練習、朝練も毎日。土曜も練習、夏休みも練習の日々だ!吹奏楽部のけっこうちゃんとやってるところは、グランド走ったり腹筋したりするんだからな!体育会系文化部とか言ってんだぞ!」

「はいはい、存じてます。私も吹奏経験者ですから。クラリネットでしたから」

「クラか!俺は、トランペットだった。吹奏あるあるといえば『またクラかよ』だよね!絶対問題が起きるのはクラリネットパート!これ、どの吹奏楽部経験者に聞いても大体同意してくれる!なぜならクラパートは女が多めになりがちで、女同士の醜い争いが起こりがちだから!」

「はい、そうでした。まあ、分かります」

「あと、吹奏あるある『またローマ!』。これね。うまい吹奏だとよくあるんだよね。『ローマの松』『ローマの祭り』『ローマの謝肉祭』とか、ローマの何やらってタイトルの曲がよく演奏されるんだよね、吹奏楽部の間では。で、これらの曲は結構難しいから上手いところがよくやってるイメージ」

「はいはい、『あるある言っちゃう面白い俺アピール』ありがとうございます。ちなみに先生はトランペットうまかったんですか?」

「高校では副部長だ!結構活躍してるほうだったんだぞ!あれ、『天空の城ラピュタ』でパズーがラッパ吹くシーンあるでしょ?あそこで演奏してる曲は『ハトと少年』っていうの。映画の状況そのまんま!あれ、初心者にはちょっと難しいけど、俺は吹けたからね!」

「嘘くせー、絶対盛ってますね。何年もやってたけど下手だった人に見えます。まあ、でもそういう経験を書いたのが青春小説の『俺の音を聴くな!』なんですね」

『俺の音を聴くな!』は青春小説である。主人公の高校生は、たいして青春していない。

「そうですわ。聴かれたくない、って感情はあるもんなんだよ、うまく演奏できないと!でも、何度も言うけど、俺はかなり真面目に練習してたし、活躍してるほうだったからね!もう、必要とされる人材で、いやー中高の俺はすげー頑張ってたよ、マジで!この根性を認めてほしい」

「自分で活躍してたとか言っちゃう小物っぷりが、今現在の『大して有名でもないくせいに自画自賛するマイナー作家』っぽさが出てて、とてもいいと思います!」

「うるせーバカヤロー!」

「彼女とかいたんですか?」

「いたわ!わりとモテたわ!バレンタインデーの最高は7個だ!7個って絶妙な個数があり得そうでしょ?なんかちょっとあり得るような気もするでしょ?ああ、意外とこの人モテるタイプかも?とか思うでしょ?」

「いえ、話を盛りたがる人だなあ、と。だから、話を盛り放題な作家になったのかなあ、と思いました。さすが、作家と呼ばれる人は自分の過去すらねつ造するんですね!」

「ねつ造じゃねーわ、この野郎!俺は努力家で、誰に対しても公平に接するすげーいい奴だったの!マジで!」

「いや、でも『俺の音を聴くな!』では、怒ってることばっかり書いてるじゃないですか。何に対しても怒って、青春とはこんなにも怒るものなのか、とか書いてるじゃないですか」

「そりゃ、怒るよ!怒るから音楽やってたんだし、怒るから小説書いてるんだよ!何かを作り出す原動力のほとんどは“楽しみ”も勿論あるけど、それ以上に“怒り”だろうよ!」

「いえ、知りません。創作に関わる人がみんなそうだとは思いません」

「はい、そうですね!俺は、でも怒りなの!いろんなことへの怒りありきなの!例えば、中学生の頃ってバカだから中二病こじらせちゃうとか言うじゃない?こじらせてる暇もねーわ!常に部活と勉強でクソ忙しいわ!勿論、中学生なりにいろんな妄想してるけど、それ以上に目の前の怒りと忙しさで、もういっぱいいっぱいだったわ!」


〇『人生とは間に合わせることである』

「何に対してそんなに怒ってたんですか?」

「まず、毎日部活が忙しいのはストレスだろうよ!それに上手く演奏がいくためには地道な訓練が欠かせないわけですよ!トランペットみたいな金管楽器なら、ロングトーンは必須なわけです!ド~レ~ミ~とかひたすら音伸ばす練習を毎日やるんだよ!メトロノームに合わせて!そういう基礎練習が必要なのはすげー分かるけど、これはもうその時点で怒りだろ!ちくしょう、なんでこんな地味でくそ面倒な練習してもなかなか早く上達しねーんだよ!って!思うだろうよ!一生懸命やってるからこそ!そして、才能の差!音楽的センスあるやつは、とっととうまくなるから、そういう奴との差も怒りだ!そして、遅刻の多かった俺は、遅刻をとがめられることに対してもうるせー!と思ってた」

「いや、遅刻は人間的にダメじゃないですか」

「うるせーわかっとるわ!そんなことは百も承知だわ!だから社会人になってからは全然遅刻してねーわむしろ!でも学生時代は、もう毎日忙しくて遅刻もやむをえないってところがあったわけよ。はい、ここで名言行くよ、『人生とは間に合わせることである』」

「はい、出ました『俺が考えた名言を自慢したい』!それ、名言集にもありましたね」

この作家は、自身が考案した名言集も出している。名言を言いたがるその精神性の幼さ。自画自賛も甚だしい。

「そう。俺は学生時代よく遅刻してたわけです。そして遅刻しそうになりながら走って走って考える。特に高校の時は、高校が最寄り駅から歩いて20分ぐらいのところだったから。もう、よく朝走ったもんですよ。そして、走ってる最中に考えるんだ。今、俺はなぜこんなに必死になって走っているのだろう?もっと早く準備して早く家出ればこんなに苦労することはなかったんじゃないか?ってか、そもそも遅刻ってそんなに悪いか?多少遅れても良いんじゃないか?日本人は真面目過ぎるんじゃないか?もう、こんな苦しい思いして走らなくてもいいんじゃないか?とか、そういう諸々を商店街を走りながら考えるわけよ!」

「いや、自分でも言ってますけど、それって、早く起きれば解決する問題じゃないですか」

「うるせーわかってんだ、そんなことは!百も承知だ、この野郎!でも、頭で分かってても、身体が、生活習慣がそんなにすぐ変わるわきゃねーんだよ!そんなら苦労しねーわ!そして、俺は走りながら考えるんだ。ああ、人生とは間に合わせることなんだと。走って間に合わせることなんだと。例えば、まあ俺は締め切りが嫌いんだが、正直、締め切りのおかげで作品が書けているところがある」

「ああ、それエッセイでも言ってましたね。にっくき締め切りのせいで苦労するが、締め切りがあるからこそ作品が生まれるので、そのジレンマに悩む、みたいなこと言ってましたね。でも、締め切りがないと書けないもんなんですか?それって創作に向いてないんじゃないですか?」

「うるせーバカ野郎!向いてねーのは百も承知だわ!いや、向いてる向いてねーも分からねーわ!なぜ、自分が遅刻なりそうになりながらも必死で走るのか。なぜ、自分が締め切りを守るために必死で書くのか。それは、決まりだから、仕事だから、ってだけじゃない、たぶん。俺の中でもまだはっきり分かっちゃいねーが、たぶん、この『間に合わせる』行為そのものが人生なんだと思う。例えば、あんたのこのインタビューに俺は『間に合って』るじゃないか」

「ああ、今回は決めた時間どおりに来てくれましたね」

「いや、そういう意味もあるけど、それだけじゃなくて、こう、俺とあんたが出会ってインタビューを受ける時間が作れた。そういう時間を作ることができた。もし、俺とあんたが出会う瞬間がちょっとでも違ったら、もし、あんたがいる編集部がこのインタビューを企画してくれなかったら、もし俺がインタビューも受けられない精神状態だったら、このインタビューは実現していない。もっと言えば、もし俺が色んなもん書いてなかったら、こういうインタビュー自体が実現していない。だから、このインタビューは、この時間は『間に合った』瞬間なんだよ。あんたが俺の死後に俺の存在を知ったなら、このインタビューは実現していなかった」

「そうですね。ああ、こんなしょうもない作家くずれのインタビューをするはめになる人生にならなくて良かったと思ったでしょう。間に合わなくてよかった~ってウキウキしたと思いますよ。ウフ!」

「ウフ!じゃねーわ!ともかく、俺にとっては人生とは間に合わせることなんだ。それは、間に合わせのもので済ませる、っていう即席的な意味じゃない。間に合わせる、間に合うことで、何かが実現する、生まれる。そういうこと。そういうことなんだよ、多分。人生ってやつは!」

「はい、出ました。『人生の意味を真剣に語る俺カッコいい』発動ですね。で、中学や高校では、まだ小説書いてなかったんですか?」

「ああ。まだ書いてない。だが、日記は毎日つけてた。その日にあったことをただ書いていくだけだが、この習慣が『文章を書く』という行為への抵抗を減らしたと思う。日記、人に見せる目的がない日記ね。個人的な。全世界に発信するブログとは、やっぱり違うから。たとえば、日記に書くことがない、とか言う人いるでしょ。あーでもうーでも良いんだよ。あー、なんかなー、こう、そうじゃねーよなー、みたいな。そういう言葉にならない言葉でも記録すると、後で読んだ時になんとなくその時の心情が分かったりするもんだから」

「へー、そうですか。で、大学は文学部ではなく経済学部に入ったんですよね?」

「そう。単純に入りやすかったから。もし、理系科目もできたなら国立狙ったけど、全然理系はできなかったから。国語も、まあまあ程度。古文とか苦手だった。英語もかなり苦手だった。世界史は、まあ結構好きだったので、この好きな世界史で攻めていった感じはあるな」

「ああ~。そう言えば、以前発表した漫画作品に世界史せかいふみちゃんってキャラが出てきましたね。日常会話で世界史用語を使いたがるやつ」

「そう!それも、自分が世界史がまあまあ得意、ってか好きだったから出てきたの」

「私はちょっと面白いと思ったんですが、あのキャラはあんまりウケなかったですね」

「ちょっと面白いと思ってくれて、ありがとう。うん、まあ、あんまウケちゃいねえけどね。でもね。こう、俺が言いたいのはね。色々勉強してれば書けることは増えていくよ、ってことなわけですよ。でね。書けることが増える、っていうのは自分を救うことになるの」

「どういうことでしょう?」

「俺は、正直作家としちゃマイナーですよ。事務や接客の仕事しつつ、書いてるわけです。ライターであり、作家であり、漫画家であり、販売員であり、事務員であり、まあ、色々な顔を持っているわけですわ。でね。そういう色々な経験とかとおして、徐々に書けることの幅が広がっていくんだよ。それが夢よりも大切なこと。現実は、徐々にだが変えていける。俺がそうだったから」

「はい、出ました。『ちょっとカッコいいこと言いたいアピール』ですね!」

「うん。そうよ。人はカッコいいことを言いたいもんなんだよ。それは、自分の為でもあるけど、人のためでもある。よくある。夢と現実どっちをとるべきか?とかいう質問あるでしょ。もしくは、やりたいこととできること、どっちを優先するべき?とかいう問い。断言するけど、両方必要。というか、多分、本質的には似たようなもんなんだと思う。売れようが売れまいが、芸術的なことやろうが事務的なことやろうが、多分、本質は変わらない。多くの仕事は、『人に何かを伝える・運ぶ』ことだと思う。その何かは情報かもしれないし、物質かもしれない。ネット上で何か有益だと思われる情報を拡散することかもしれないし、A地点からB地点に何かを物理的に運ぶことかもしれない。そして、そしてその本質は似ているところがある。だいたい、多くの人はできることをやっているだけだ。だから、夢などなくても安心しろ。現実は変えていける」

「なんだかカッコいいこと言ってるようで、あんまり中身ないですね」

「人間が伝達することなんてほとんど中身ねーんだよ、実際。言葉をA地点からB地点に運んでいるだけだ。その運び方で連絡網作ったり、小説書いたり、音楽演奏したりしてるだけだ。だから、何度でも言う。絶望していい。とことん、絶望していい。夢なんかなくていい。絶望して夢なんかなくても、人は生きていける。俺は、すげー長時間労働で人が辞めまくるブラックな環境で働いた経験もあるけど、それも話のネタになってる。だから、将来に絶望してる奴にも安心しろと言いたい。俺がこのインタビューで言いたいことだ!」

「まあ、なんかきれいにまとまりましたね。うざい説教ありがとうございました!時間内にまとまってよかったです。間に合いましたね。さすが、人生は間に合わせることって言うだけありますね。この間に合わせ人生の間に合わせ野郎!」

「最後まで、ひでー言われよう」


こうして、インタビューは終了した。 この物語はフィクションでありたい。いや、大体がフィクションであり、現実とはほぼ関係ない。フィクションであっても事実であっても、大した違いはない。なぜなら人が好きなのはポスト真実で、「真実だと思いたいこと」だけだから。

そんな世の中で、このインタビュアーは間に合っているのだろうか。この作家は間に合っているのだろうか。私は、あなたは、間に合っているのだろうか。


(終)
間に合ったはず。

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