Halloween dream
「トリック・オア・トリート!」
引き戸を開けた先に居たのは、なんとも立派な南瓜をくりぬいた被り物をして、全身を黒地に橙色の煌びやかな刺繍を施したマントに身を包み、んっ、とその両の手を差し出す一人の小さな子供であった。
そんな子供の手前、家主であり三十歳独身の三上相人は、何ともリアクションに困ったように口元をもごもごとさせて、「あーうー」とこっそり唸る。眼前の子供は、それはもう大層待ちきれないようで、小刻みに縦横に身体を揺らしながらこれでもかと力強く、あるいはうだつの上がらない顧客から金を催促する借金取りのように傲然と、相人に要求を訴えてくるのだった。
そこで、ふと、相人は今日の日付を思い出す。
10月31日。
10月最後の日。
近年はなぜかそこかしこに仮装した若者で溢れかえり、「風情がないよーこんなのー」と知人がぼやいていた、その日。
ああ、そういや今日はハロウィンだったっけか。
ぼんやりとした頭を少し気合いで動かしつつ、そんなことを今更思い出す。昔からそういった行事には無関心なところがあったとはいえ、知らなくはなかったりする。興味はない。だがしかし、何とも物欲しげにこちらを見つめている(様な気がする)子供の圧力にあっさりと屈してしまい、そういえばとスウェットのポケットをまさぐって、入れっぱなしになっていたあの有名な黒いノドアメを取り出す。
「これでいい?」
「わあ。ありがとーおじさん!」
子供は相人の差し出したアメを見て目一杯の笑顔になる(はず)と、それを両手で大切そうに包み込んで、肩に下げていたこれまた漆黒のバックの中にそっと隠すのだった。そうまでしてもらうほどのものではないんだけどなあ、と苦笑する相人にもう一度「ありがとー」と、今度は両の手をバンザイしてお礼を言って、子供はさっと身を翻した。
静かになる。少し肌寒くなってきた、暗闇。
相人はゆっくりと目を閉じて、耳を澄ましてみる。
遠くから人々の喧騒が聞こえてくる。
きっと仮装やパーティーで盛り上がっていることだろう。
平々凡々で詰らない、誰にとっても取るに足らない人間な自分には、そこへと殴りこんでゆく勇気も気力もないけれど。せめてここからひっそりと参加するくらいは構わないだろう。
そう思いながら、彼は静かに息を吐いた。
寒空にまた一人、祭りの登場人物の空気が溶けて、舞い上がった。




