第一章 3話「ペナルティ」
リリーに事情を話し、一緒に町へ行くことになった夏樹。しかし、そこで夏樹は自分に恐ろしい、ペナルティがあることに気づく―。
ギィィ…
「いらっしゃいま…、ひっ!その杖は!ま、魔女!」
どうやらここの店主のようだが、彼女のことを見て怖がっているようだ。
彼女はとっさに杖を隠した。
「お、おい…。」
「いいの…。早くあそこのテーブルに座りましょ。」
彼女は表情にこそ出さなかったが、どこか悲しそうにみえる―。
「―ってことなんだよ。だから俺は困ってる。」
夏樹は、自分が住んでいた所以外を全て話した。
「事情は分かったわ。でも、魔法や悪魔の存在を知らないって、あなた本当にどこから来たの?」
「俺にもよく分からん。確か、夢を見てて、いきなりこの国にきたっつーか…。」
「夢?その夢ってどんな内容だったか覚えてる?」
夏樹は夢の事を話そうとした。が、その瞬間、嫌な空気が辺りを包み込んだ。すると、空間、時、音など、あらゆる事象に必要な流れが止まっていた。視界は歪み、声もでない。ただあるのは喪失感のみ。頭の中で心臓の鼓動だけが鳴り響いている。寂しい。怖い…。
「―き…。」
声がする。
「―つき!」
どこかで聞いたような…。
「夏樹!!大丈夫?」
「!!はっ!あ、あれ…?」
夏樹は我にかえった。
「一体どうしたの?急に黙りこんだりして。」
リリーは心配そうに、夏樹の肩を揺らしていた。
「あ、あぁすまねぇ…。」
「もう。本当に心配したんだからね。それで、夢の内容はどうしたの?」
ゾクッ!
夢というキーワードに体が異常に敏感になっている。そう、それは恐怖。先ほどの異常な現象によって、死ぬことよりも恐ろしい、恐怖を植え付けられた。
「…い、いや。すまん。覚えていない…。」
「?まぁ、いいわ。じゃあ次はここのことを教えるわね。」
「ここは、アルファスの町。主に商売が盛んな町なの。あまり、治安がいい町ではないわ。でも、楽しい所よ。」
リリーは町のことを色々教えてくれた。
「ちなみに、ここは私たち魔女が唯一魔法を学べる学校がある場所よ。」
「そうなのか?、でもここの連中は魔女が嫌いなようだな。」
夏樹は彼女の方をチラッと見てそういった。
「ごめんなさい…。本来魔女はこの世に災厄をもたらす存在として、忌み嫌われているの。夏樹も私みたいな魔女なんかと一緒にいたら迷惑よね…。」
彼女はとても悲しそうな顔で下を向いていた。
「何で俺がリリーを嫌いにならなきゃなんないんだ?」
「え…?」
「さっきも言ったけど、俺は魔女なんてのは知らなかったし、どんなことがあったかも知らねぇ。でもな、君は困ってた俺を今こうして助けてくれたじゃねぇか。だから、んな理屈は大した話じゃねぇ。そんな風に思われてたことの方がショックだ。」
「…!じゃああなたは魔女である私を恐れないの?嫌わないの?」
「あぁ。嫌いになるどころか、むしろ好きになったよ。」
夏樹は優しく微笑んだ。
「…。」
彼女は目をそらし、照れくさそうに頬を赤らめた。
「ありがとう…。」
そう聞こえた気がした。
「あ、そうだ!夏樹!あなた、行くところがなくて困ってるんでしょ?それなら、私の屋敷にこない?」
「うぉ!マジか!助かるぜー!うん!行くよ!」
話は進み、彼女についていくことにした。
「じゃあな!おっさん!飯、うまかったぜっ」
夏樹は店主の肩を軽く叩いてそう言った。
「あ、ありがとうございましたぁ……。」
店主は腰が抜けたようにその場にへたれこんだ。
「しかし、ここの住民は色々なやつがいるなー。頭が犬で体が人間のやつにー、背中に羽が生えてるやつもいる!初めて見たけどすげぇな!」
「ここでは、これが当たり前よ。ほら、あそこには小人もいるわ。」
「へぇー、まぁ勿論普通の人間もいるか。建物はいかにも中世って感じの家だな。」
二人は町を歩き、色々なものを見て回った。
途中、果物屋らしき店についた。
「いらっしゃい!とってもみずみずしくて美味しいよー!!」
夏樹は、興味本位で尋ねてみた。
「おばさん!この、黄色いのって何て名前?」
「あんた知らないのかい?これはカルムっていって、とっても甘いんだよ。買ってくかい?」
夏樹はポケットの中の小銭を取り出して店のおばさんに渡した。
「なんだい?これは。なんかの金属かい?こんなんじゃ買えないよー。」
「やっぱそうだよなぁー。」
夏樹は腕時計を差し出した。
「なんだいこれは!!時計のようにみえるけど、随分小さいんだねぇ。」
「これは腕に巻くんだよ。いつでも時間が分かる優れものさ。」
「気に入った!2つ持っていきな!」
「おう!あんがとよ!おばちゃん!」
夏樹は嬉しそうに2つのカルムを手に取ると、片方をリリーに差し出した。
「ほらよ!」
「え?あ、ありがとう。」
彼女はきょとんとしている。
「どうした?」
「人に物を貰うなんて初めてだったから、びっくりしちゃった。」
「そうか?へへへッ。いいから食ってみろよ。うぉ!めちゃうめぇ!」
「フフフッ。もう、夏樹ったら。」
リリーは嬉しそうに木の実を頬張った。
楽しい時間は終わり、日も沈んできた。
「あ、そろそろ日も暮れてきたから、私の屋敷へ案内するわ。」
その日、この世界のことを少し知ることが出来た夏樹はリリーに連れられ、屋敷へ向かった―。
3話目にして、色んな事が分かってきましたね。しかしまだまだ他の謎は残ったままです。ここの世界の詳しい仕組みを知るのはあと少し先になるでしょう。そして、リリーの過去や今後の新しい登場人物にもそれぞれのストーリーがあるのでお楽しみに!