第二話
僕がドラゴンに転生してから七年と少したった頃、僕は森の主と睨み合っていた。
主の姿は一言でいうなら獣人だ。でもそいつが発している威圧感は並大抵のものじゃなかった。
髪の色は金色で、頭には狐の耳が生えていて、臀部のあたりからは九つの尻尾が生えていた。地球で言うところの化け狐、九尾の妖狐だ。背丈は長身で、顔は素晴らしく整っている。
そんな人?が僕に鬼のような形相で睨んできている。
なぜこんなことになったのか、まずはそこから話した方がいいと思う。
遡ること少し前、僕は七歳になり、体も3メートル近くまで大きくなった。この世界には魔力と言うものがあり、ドラゴンと言うのは魔力で生きている。だがそれは成龍になってからのことで、小さいころは魔力がさほど強大でもないので魔力だけで体を保つことは不可能だ。それに伴い、魔法のようなものも幼龍の頃はまだ使えない。だから成龍になるまでの期間は他の動物や魔物たちと同じく物を食べる。そして食べた物の魔力の大きさが大きければ大きいほど、その個体が持つ魔力量が多くなる。そこで僕は結構な頻度で狩りに出かけ、魔物を食べている。
そして今日も狩りに出かけて、獲物を探していると、近くから膨大な威圧感と魔力を感じ取った。
そこに行ってみると今目の前にいる主がいたのだ。主は最初、僕に「幼い龍が何か用かの?」と話しかけてきたが、それに答えずに主の足元にいる小さな狐たちに目をやった。その視線で勘違いしたのか、僕が子供を食べに来たと思ったようでいきなり睨みつけてきて今の状態になったというわけだ。
わかったかな?ただ僕は正体が気になってきただけなのに勘違いされてバトりそうになっているのだ。
「貴様、幼龍のくせに我の子を喰らおうとはいい度胸じゃな」
「いや、勘違いなんだけど……」
「問答無用じゃ!」
主の姿が消えたと思ったらいきなり目の前にいて、僕の胸のあたりを殴ってきた。
「ぐはっ!?」
何今の!?全然見えないんだけど!?
「はっ!その程度で我の子を喰らおうなど呆れてものも言えぬな」
背後に気配を感じて咄嗟に翼で叩き落とそうと動かしたがすでに遅く、背中に強烈な痛みが襲った。
「ぐううっ」
「これで終いじゃ」
声のした方に顔を向けると、主の周りに紫色の炎がいくつか浮かび上がり、それらが集まって大きな炎になった。これやばいよね!?翼で全身を覆うように庇って防御の姿勢をとった。
「喰らえぃっ!」
その瞬間すさまじい突風と熱に襲われ、僕は意識を失った。
あれ?・・・ここは?
「気がついたか?」
全身を打つような痛みに顔を顰めながら見上げると、主が2匹の子供を抱きかかえながら僕を見下ろしていた。
「いてて、なんてことするんだよ、何もしてないってのに」
「我の子を喰らおうとしたではないか」
「違うって、ただ僕は膨大な魔力を感じたから見に来ただけだよ。子供を見たのは視界に入ったからだよ」
「ほんとかのう?」
「ほんとだよ、にしてもあんた強いんだな」
「当たり前じゃ、強くなければ主などやっていけん」
「どうやって強くなったんだ?」
「ひたすら魔物を倒して力を蓄えていっただけじゃ、生き物は他の生き物を殺すことで殺した生き物の魂を自分の魂に吸収することで力を蓄えていくのじゃ」
「へ~。じゃあ僕もどんどん倒せばどんどん強くなる?」
「その通りじゃ。じゃが、魂は強者の魂の方が質が良いから力を蓄えやすい。つまりは質が低いと少しの力しか得られないが、質が高いと力は多く手に入ると言うわけじゃ」
なるほど、ゲームで言う経験値とレベルみたいなものか。
「でもこの森って強い奴ほとんどいないよ?」
「それはここが外域だからじゃ」
「外域?」
「そうじゃ。どこの森でも領域と言うものがある。外側に行くほど弱い魔物、中心に行くほど強い魔物じゃ」
「全然知らなかった」
「お主なら中域ほどがちょうどいいかもしれんの」
「あんたはなんで主なのに外域にいるんだ?」
「我の名はツクモじゃ、覚えておけ」
「わかったよツクモ、それで?ツクモはなぜ外域にいるんだ?」
「無礼なやつじゃの、まあ良い。子はまだ戦えず、弱いからの。なるべく危険が少ないところで育てておるのだ」
「そうだよな、怪我したら可哀そうだもんな」
ツクモは意外そうに僕の顔をまじまじと見て、
「お主・・・なかなか珍しい奴じゃの」
「なんで?」
「普通なら同族以外ではそういう感情は持たぬものがほとんどだからじゃ」
「ふーん」
話をしていたらいつの間にかツクモの腕の中から子ぎつねたちが抜け出していて、僕の背中に乗っていた。
僕の基本的な姿勢は四足歩行で、背中に乗ったりできるような感じだ。イメージとしては、某狩りゲーのクシャ○ダオ○が黒く染まって尻尾が二本になった感じだと思ってほしい。
痛いからやめてほしいんだけど子供だから仕方がない。
「我の子が何やらなついておるの」
「痛いからやめてほしいんだけど」
「まあまあ、固いことを言うでない」
いや、固いことって・・・。あんたが僕に攻撃したんでしょうが。
「お主の名前を聞いていなかったの。名は?」
名前か、そういえば考えてなかったな。
転生したから名前とか無いからどうしよう。考えるの面倒くさいからリンネでいいか。
「リンネだよ」
「リンネか、リンネはどこに住んでいるのだ?」
「あそこだよ」
僕たちがいるところから少し離れたところの岩山の洞窟の方を視線で指した。
「ほう、なかなか住みやすそうじゃな」
「まあね、中も広いから僕の体でも十分空きがあるし」
「よし、今日から我もあそこに住むぞ」
「は?」
何言ってんのこの狐。どうしてそんな考えに至ったのか説明してほしいんだけど。
「なんで?」
「子もなついておるようじゃからの。我がこの子らの飯を取りに行ってる時の子守りをしてもらうしの」
「何勝手に決めて「文句あるのかえ?」・・・無いです」
こうして僕の家に美人な森の主と、子ぎつねが同居することになった。
翌日、早速僕は森の中域の行くことにした。早く強くなりたいからね。
森の中域は外域とは雰囲気がまったく違ってくるらしい。僕だったら手こずる相手は殆どいないってツクモが言ってた。
場所は今まで行ってた森の反対側、洞窟の入り口から正反対の場所に向かっていけばいいらしい。
中域に入ってまず感じることは少し薄暗いと言う事。
どうやら木の枝が太陽の光を遮っているみたいだ。
僕は少し辺りを警戒しながら奥へと進んでいく。
中域に入って少したった頃、横から複数の魔力を感じた。そこは茂みになっていて身を隠すには十分な場所だった。尻尾で茂みを薙ぐとそこから黒い狼が尻尾で叩かれて斜め上に打ち上げられた。
この狼は外域では見た事が無かった。中域に入ったことで魔物の種類も変わったんだろう。大きさは小柄な人間の大人ほどあり、牙や爪が鋭くとがっていた。
狼は3体いて、そのどれもが息も絶え絶えな感じだった。僕はそれを淡々と食べていった。
空も暗くなり、朝からいるために大分魔物を食べた。
最初の戦闘と言えないような戦闘の後は、同じ狼が13体と、2メートル50センチほどの大熊2体、全長3メートル以上ありそうな巨大な百足4匹、小柄な緑色のゴブリン32体。こいつらはあまり苦労せずに倒したのだが、人型の大きな体躯を持つオークやオーガ、魔法を使うオークメイジが結構苦労した。
オークとオーガはボロボロではあるが武器を持っていたのと、タフだったこともあり、全力ではなかったものの、一撃では死ななかったからいちいちもう一回止めを刺すのが面倒くさかった。オークメイジはオークを薙ぎ倒している時に少し後ろから魔法で攻撃してきたのが鬱陶しかった。
苦労はしたけどドラゴンであったために、鱗や、丈夫な体のおかげで怪我はしていなかった。
帰りに子ぎつね達にお土産の大熊一体を口に銜えて持って帰った。
そんな毎日を繰り返して、2年がたった頃には深域(中域よりさらに深い場所)に入れるようになり、さらに6年がたった頃、ようやく僕は成龍になった。
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