第十四話
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「一応報酬はもらったわけだけど、ミラはこのあとどうしたい?」
ギルドを出てのんびりと道を歩きながらその後の予定を二人で考えてみた。
「んー、私としてはリンネの秘密を教えてほしいかな。」
「秘密って姿を偽ってること?」
「それと、言葉使いからの育ちの良さそうな雰囲気があるのにどうして常識がないのかってこともね」
そうかな? 別段意識したことは無かったのだけれどこっちの世界の人達からしたらそう見えるのかもしれないな。
「わかった。なら、街の外に出ないとね」
「どうして?」
「街の中で正体を明かしてしまうと騒ぎになるのは間違いないからね」
「そう言うものなの?」
「そう。あんまり遅くなっても嫌だし早速いこうか」
王都の近くにある森、ファレスの森の奥深くに僕たちは向かった。この森には低ランクの魔物が住み着いていて、冒険者達を襲う。魔物にも冒険者と同じくランクがあり、その魔物の強さで決まる。ファレスの森には主にFランクの魔物が住み着いていて、代表的な魔物はゴブリンやミニウルフ、ビッグビー等がいるらしい。勿論、それらの魔物にも魔石は存在するのだけど、蓄えてある魔力量は物凄く少なかった。ミラが言うには、低ランクの魔物だったらこの程度らしい。
一応、道中に出会った魔物は倒して魔石を回収した。売るにしても二束三文らしいけど、別に売るのが目的で集めているわけじゃない。その目的というのは……
「ねえ、この辺でいいんじゃないの?」
……この話はまたあとで。
「そうだね」
「なんで疲れた顔してるのよ。それよりも、早く教えてよ、リンネの正体をさ」
「はぁ、わかったよ。少し離れてて」
首を傾げながらも距離をとるミラ。十分な距離が出来たところで人化の魔法を解除する。
次第に僕の周りを黒い魔力が覆い始めて完全に僕の姿が見えなくなる。僕を中心に二十メートル程の漆黒の卵が形作られた。そしてその卵の頂点にヒビが入り、次第にそれが全体に広がっていった。卵の全てにヒビが入った瞬間、卵のからが弾け飛び、中から龍の姿になった僕が生まれた。
いや、生まれたって表現は違うかな? 正確には現れた?まあ、いいか。
下を見てみると、口と目をこれでもかとばかりに大きく開けているミラがいた。
その表情があまりにも滑稽でつい、笑ってしまった。魔物の言葉でだけど。
人間からしたら唸っているようにしか聞こえないかもしれない。現にミラの顔が少し青ざめてるし。
「そんなに怯えなくてもいいじゃないか」
これは人類語。龍種は、人類語と魔物語、龍種語の三つの言葉を話すことができるから、龍の姿だろうが人間の姿だろうが関係無く喋ることができる。魔物の中には知能が高く、人類語や龍種語を喋ることのできる魔物がいるみたいだけれどそんな存在は滅多にいないし、いたとしても何処か人類の踏み込めない場所で暮らしているからその存在は明らかになっていない。
因みに、ツクモ母さんは人類語と魔物語を喋ることができるようだった。
「いや、だってさ、まさか龍種とは思わないし……」
「んー、まあ、そりゃそうだよね」
「はぁ、これで常識が無いのにも合点がいったわ」
「わかってもらえたようでなにより。じゃあ、そろそろ行こうか」
「へ? 行くってどこに?」
「お空の散歩。行ってみたくない?」
「行きたい!」
「なら、背中に乗って……あ、しっかり掴まってないと落ちるからね?」
地面を蹴って背中に飛び乗って来るミラ。蹴った地面を見ると軽く抉れている所を見ると、余程楽しみみたいだ。
「よし、いいわよ」
「じゃあ、いくよ!」
翼を大きく動かしてゆっくりと上昇していく。勿論、ゆっくりと上昇するのはミラのことを思ってのこと。下手すると圧力で潰れかねないし。
十分な高さまで昇ると、昔ミコト達と一緒に飛んだように大空を飛ぶ。空は夕陽で茜色に染まっていて、地平線から半分だけ出ている夕陽が凄く綺麗だった。
「わぁー、凄く綺麗ね……」
「……本当にね」
その後、暫くは二人とも無言でその綺麗な景色を堪能していた。そろそろ夕陽も沈みかけてきた頃、
クケェェェエエエ‼
美しかった景色の余韻に浸っていたと時、後ろの方から大きな鳥の鳴き声が聞こえた。それは、自分の縄張りに侵入された事への怒りの鳴き声だった。
その鳥は、からだ全体を覆う羽毛が翡翠色で淡く発光していて、三つの黄色く光る瞳を持っていて、回りに風の魔力を薄く纏っていた。
「ミラ、あの鳥ってなに?」
「ああ、アイツはジェイドバードって魔物で、ランクはCよ。群れで行動することは殆どなく、風の魔法を使ってくるわ」
「ふーん。まあ、敵じゃないね」
「そりゃ、龍種の上位種だったらね」
「? 何言ってるの?」
「へ?」
「僕は上位種じゃなくて最上位種だからね。そこんとこ間違えないでね」
「……え?」
「それじゃあ、いただきます」
一気に加速してジェイドバードに詰め寄り、そのままジェイドバードに噛み付いた。加速したときにミラが何やら叫んでいたけど気にしないでおこう。
何度か咀嚼して飲み込んだ。羽が少し硬かったけど、それがいい歯応えを出していた。肉は脂肪分が少なくてとてもヘルシーなお肉で、結構美味しかった。
「うん、美味しかった。ご馳走様でした」
「ちょっと、加速するならひとこと言ってよ!」
「え? ああ、ごめん」
「まったく……って、ジェイドバード食べちゃったの?」
「うん、結構美味しかったよ?」
「はぁ、当たり前じゃない。鶏肉としては高級な部類に入るんだから」
「へー、そうなんだ」
Cランクで高級ってもっとランクが上がったらどうなるんだろう。
「ところで、ジェイドバードの羽は? あれって本物の翡翠で出来ているから売れば結構お金になるわよ?」
え、マジですか……全部食べちゃったよ……。
「ごめん、全部食べた」
「……」
「せめて何か言ってよ!」
「……アホ」
すいません、ほんとにすいませんでした。
「……はぁ、もういいわ。もう一体探せばいいことだし。ほら、探しに行くわよ」
「はい……」
そのあと探しに出たもののなかなか見つからず、結局見つけたのは真夜中になってのことだった。
「はぁ、やっと帰って来れた……」
「本当にね……」
あれからジェイドバードを捕獲して街に戻ってきた。門番の人が妙に慌ただしくて、何度も「大丈夫か!? 大丈夫なんだな!?」って聞いてきたのは一体なんだったんだろう?
「こんな時間じゃ店も全部閉まってるだろうし、ジェイドバードを食べるしか無さそうね」
「食べるって事は焼くんでしょ? 火なんてどこにあるの?」
「そんなの宿の人に言えば火くらい貸してくれるでしょ。ほら、行くわよ」
「はーい」
背中にジェイドバードを背負ってミラの後をついて行く。ジェイドバードは結構大きくて、体長一メートルほどもあるから重さもかなりあったりするのだけれど、僕からすれば特に重さは感じなかった。
「明日はそれをギルドに売りに行って、『魔袋』買いに行くからね」
「うん、わかった」
魔袋って言うのは、言わば魔法の袋で、なんでも入る袋なんだとか。食料や野営道具を入れたり、討伐した魔物を入れたりするのに使うらしく、一定の重量までなら生物以外のものなら何でも入るらしい。
「ほら、速くしないと置いてくわよ」
「ちょ、待ってよ~」
今現在、嫁の尻に敷かれてます。