配達係のリーナ
森で記憶を失った私は、
ある一軒の小さな家に住むトワさんと出会う。
トワさんは私の記憶探しに手伝うと、言ってくれた。
ここにきて1ヶ月が経った。
いまだに記憶の手がかりが掴めない。
洗濯物を一枚ずつ干しながら、ため息をひとつつく。
このまま記憶が取り戻せなかったらどうしよう?
「……いてっ!どいて~っ!!」
「え?」
そんな声と共に、地面が揺れる。
地震!?
「きゃーっ!!早くそこどいて~っ!!」
声のする方を振り向く。
大きな鳥がこっちに向かって突っ込んでくるっ!?
避けようと思ったが、時すでに遅し。
そのまま衝突してしまった。
「きゃーっ!!」
何が起こったのか分からない。
けど、私はそんなことを考えるよりも先に意識を失っていた。
「んっ……。」
眩しい。
目を開けると、天井と電気が見えた。
「あ!良かった~、気がついたんだね!?」
いきなり私に見知らぬ女の子が飛び付いてくる。
「うっ…、苦しいです……。」
「あ、ごめんね!私はリーナ。ここには配達でたまに来るんだ♪よろしくね!!」
彼女はそう言うと、無邪気な笑顔で笑った。
「あ、よろしくお願いします。」
「ところで、あなたの名前は?」
「私の名前は……マヤ。」
思い出したわけでもないのに、私は答えることができた。
私、マヤっていうのか……。
「マヤ……。」
何かこの名前に思い当たることがあるのだろうか?
彼女は少し険しい顔をした後、すぐにまた無邪気な笑顔に変わる。
「目、覚めたんだね。」
奥からトワさんが3人分のコップをお盆に乗せてやって来た。
「トワ、本当にごめんね!!トワの恋人さんに私はなんてことを……。」
そう言うと、リーナさんは泣き真似をする。
「やめてくれないか?この子は恋人じゃないからね。」
「あ、トワさん!私、マヤです!」
私は自分の名前を思い出したことを、トワさんに報告する。
「え?」
「私の名前です!私、マヤっていうんですよ!!」
「……そう。良かったね、自分の名前が思い出せて。」
トワさんはそう言うと、ひどく傷ついたような顔をして、また部屋の奥に消えようとする。
「あ……。私、またトワさんを傷つけてしまったんですね。ごめんなさい……。」
「……どうして君が謝るの?」
「だって、私が来た時も、すごく悲しい顔をされていましたから。」
「……別に。君が悪いんじゃない。悪いのは……僕だから。」
トワさんはそう言うと、部屋の奥へと消えてしまった。
「……ねぇ、マヤ。トワの秘密知りたくない?」
さっきまで黙って私達の会話を聞いていたリーナさんが私に話しかける。
「トワさんの、ですか?」
「そう。トワの過去とか、部屋の奥の部屋とか。」
確かに知りたい。
トワさんは自分のことを話してくれないから。
それに、あの奥の部屋のことも。
トワさんは「あの部屋には絶対入るな」って言ってたけど、ずっと気になっていた。
「教えてください、リーナさん。」