「森の中の家」
薄暗い静かな森の中に、まるでその存在を隠すように建っている小さな古い家。
見るのは初めてなはずなのに、何故かここに来たことがあるような気がする。
私は一度深呼吸し、扉に手をかける。そして意を決して自分の方に引く。
扉は意外と簡単に開いた。まるで私が来ることを知っていたかのように。
「やぁ、いらっしゃい。お客さんなんて久しぶりだよ。」
部屋の奥から黒い服を着た男の人が優しそうな笑顔で迎え入れてくれる。
でも、私にはその笑顔が悲しみを誤魔化しているようだった。それに、私を見た時に一瞬、驚いた顔をしたような気がした。
男の人は私をテーブルに座るように促すと、温かい飲み物を入れてくれた。
私はそれをテーブルに座り、少しずつ飲む。
ほのかな甘さがあるホットミルクだ。
「それで、君は僕に何か用かな?」
「あ…。私、記憶がないんです!」
何故私はこの人に本当のことを言ってしまったのだろう?でも、なんとなくこの人には言わなくてはいけない気がした。
「そう、記憶が……。」
確かにそう聞こえた。男の人は何処か寂しげな顔をした後、
「僕が君の記憶探しを手伝ってあげる。」
「え、本当ですか!?」
「うん。でも、その代わりここで働いてもらうよ。」
こうして私はこの家で働きながら、自分の記憶を探すこととなった。