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第六話 

 変人扱いされることはもうあきらめるとしても一応こいつのことを気遣って言ったセリフで俺だけが変な人と言われるのはものすごく納得がいかなかった。なので反撃に出ることにする


「お前もすごく変わってるけどな」


「私は普通だよ」


 どこからその自信がわいてくるんだよ、と思うぐらいあっさり返される


「普通は立ち入り禁止の屋上に出たり、給水タンクに頭を突っ込んだりしないと思うんだがな」


 負けじと反撃


「あれは慌ててたんだよ」


 神北は給水タンクの段差に腰かけた。っていうか慌てて隠れなくちゃいけないようなことをしてる時点でどうかと思う


「・・・高宮君、好きな場所ってある?」


「は?」


 突然の質問に面食らう


「なんとなく足を運んじゃうような場所。そこにいるとすごく落ち着いちゃうような場所」


「うーん・・・」


 好きな・・・場所か


「前は・・・あった」


「そっか」


 俺の言葉を聞くと神北は少しさみしそうな顔をした。いつもとは違う、こいつには似合わないような少しさみしげな顔。俺がそうさせたと思うと少し胸が痛む。神北は少しすると表情を戻しまた話し始める


「私、ここベストプレイス」


 言いながら、足元、というよりこの屋上を指さす


「好きなところだから、ここに来るの。ほら、すごく普通」


 いつもならここでそれが立ち入り禁止の場所じゃなかったらな、とかいうところなのだが、今はどうしてかそういう気にはならなかった。好きなところだから・・・か


「いいな、そういうの」


 気が付いたら俺はそう言っていた。意識して言ったわけではない。ただ気が付いたら言っていた


「高宮君今は好きな場所ないって言ってたよね」


「・・・ああ」


「なら、見つければいいんだよ」


「え?」


「好きなところがないなら、見つければいいんだよ」


 何気ない一言。ある意味あたりまえといえば当たり前なそんな一言だったが何故か俺にはその言葉がとても強く暖かな言葉に思えた


「ここは、どう?」


 神北が柵越しの景色に目をやった。俺もそちらを見る。町が見渡せた。吹く風もなんだかいつもより気持ちよく感じる


「悪くは、ないかな」


「えへへ、気に入ってもらえてよかった。自分の好きなとこ、他の人に好きって言ってもらえたら・・・結構嬉しいよね~」


 神北は嬉しそうに、本当に嬉しそうにそう言った。その顔を見るだけで少し心が安らぐようだった


「ねえ、高宮君」


「ん?なに?」


「ちょっとだけ、目を閉じて」


「へ?」


 突然の申し入れに少し戸惑ったが俺は言われた通り目を閉じた。少しすると俺の額に神北の指先がふれる。何かと思ったとき神北はいつもとは違う小さな、そしてどこか寂しげな雰囲気すら感じる声で言った


「あなたの目が もう少し ほんのちょっとだけ 見えるようになりますように」


 俺はそっと目を開けた。そこには嬉しそうな、優しそうな、でもどこか寂しげで悲しげな、そんな色々な感情が入り混じった表情をした神北の顔があった。神北はフッと微笑むと


「おまじない。高宮君がまた好きな場所を見つけられるように」


 不思議な奴だ。そう思った

 いつもはぽわぽわしていて抜けた感じがするのにがするのに今はなぜか一緒にいるだけで心がとても安らぐこんな気持ちはここ最近・・・いや、もうずいぶん長い間感じることはなかった


「それじゃ、お昼食べよっか」


そう言った神北はすでにいつもの明るい表情に戻っていた


「あ、ああ」


 本当は今のおまじないがなんなのか、なんであんな顔をしていたのか聞きたかったのだがタイミングを逃してしまったため聞くことができなかった


(まあ・・・いいか)


 そんな気にさせられた


「あ、そうだ!高宮君、ここのことは内緒だよ。危険だから。色々と」


 まあ、立ち入り禁止ですからね


「おっけー?」


「ああ、心配せんでも俺は口は堅い」


 というかそれ以前に言う相手がほとんどいない。・・・それはそれで悲しい話だが


「えへへ、これであなたも共犯者」


「物騒だなおい・・・」


「怒られちゃうからね、ここ」


 そりゃそうだ


「あ、一人で出るときはドライバー持ってこないと窓開かないよ」


 さっき窓の桟に置いてあったやつのことだろう。やっぱりこいつのだったんだな。っていうかそんなもんまで用意して好きだからという理由で屋上に出てくる


(なんつーか・・・思ったよりも行動力のあるやつだな。神北って)


 そんな感想を抱いていた。

 神北は段差に腰かけると、あたりにお菓子を広げた。・・・というかやっぱりこれがお昼なのか


「じゃ、食べよーっと。高宮君も一緒に食べよー」


 そういって神北は自分の隣をポンポンと叩く。そこに座れということだろう。ついさっきまでの俺だったら適当な理由をつけてどこかへ行っていたと思う。でも・・・


(・・・まあ、いいか)


 いつの間にか俺はそう思うようになっていた。いや思うようにさせられていたというべきだろうか。でもなぜか悪い気はしない


「うすしおでもどうぞ~」


「ああ」


「お茶とチョコパイもありますよ~」


 笑顔で次々とお菓子を取り出す神北。つーか多い・・・


「私はワッフル食べよーっと」


 そう言ってワッフルを頬張る。すると


「おいしいよ~」


 幸せそうに笑った。なんというか本当に幸せそうな笑顔だった


「高宮君にもおすそ分け~」


「いや、俺一応パン買ってきたし」


「うーん?もうそれだけでおなかいっぱい?」


 言われて自分の買ったパンを見る。惣菜パンが一個だけ。授業の間持たすだけならこれで十分だが、腹いっぱいになるかと言われれば答えはノーだ


「いや、そうでもないな」


「うん、じゃあ、あれだよ、ごーですよ」


 びしっと指差してにこっと微笑む


「食べてっちゃいなよ、ゆー」


 ドキッ


(・・・いやいやいやいやいやいやいや!ちょっと待て!なんだ今のドキッて!) 


「どうしたの?」


「な、なんでもない」


 顔を合わせるのがなんとなく照れ臭かったので少し顔をそらしてそうこたえた


「あー、じゃあまあ、いただきます」


 妙に落ち着かない気持ちを紛らわすためにパンと神北にもらったお菓子をくちにつめこんでいった




「ふぅー、なんか、食いすぎて苦しいな」


 あの後結局俺は神北の差し出すお菓子を全部食べて、正直苦しいぐらいに腹がいっぱいになった。というかこいつはいつもこんなに大量のお菓子を一人で食べているのだろうか?そんなに食べていたら体重が・・・。いや、女子にこの話は禁句だろう


「それじゃ、そろそろもどろっか」


 気が付くと授業が始まる五分前になっていた。次は確か教室移動だから急がないと少しまずい


「ん、そうだな」


 立ち上がって出てきた窓のほうに行く。だが俺はそこで立ち止まった


「ほえ?どうしたの?」


「あ、いや、あのさ」


 言おうとして口ごもる。どうにも言い出しづらい


「・・・また、ここに来てもいいか?」


 自分でも驚いていた。ほんのちょっと前までリトルバスターズのやつらから逃げ回ることばかり考えていた・・・いや、それ以前に人とかかわろうとさえしてなかった俺が自分からこんなことを言っていたことに戸惑いすら覚えていた。神北は俺のそんな葛藤を知ってか知らずかにこっとわらいながら


「もちろんだよ~」


 当たり前のようにそう言ってくれた。その表情を見て俺は改めて思う


(やっぱり、変わってるよ。お前)

なんか今回今までで一番長かったな

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